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CORRECTORS ~生きた異物~  作者: 新楽岡高
第十章 斯くして人は消えた
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第五話 朱塗りの記憶➈

◆◇◆



「……消えた?」


 すっかり静寂に包まれた場に、五百蔵(いおろい)の呟きが落ちる。

 今のこの状況が本当に嘘ではないのかを確かめるように辺りを見回し、遅れて現実であると認識して、彼は全身から力を抜いていた。

「た、助かった……?」

「みたいだな。俺達は……運が良かった、らしい」

「そっか……そうか」

 友人である百鬼 護が苦しそうに呼吸しながら同意してくれた事で、より実感が強くなったのだろう。五百蔵は笑う。

だがそれも程々に彼は真顔に戻ると、何かを思い出したように立ち上がり、のろのろと歩き出す。

「どうした、朋紀?」

「……ちょっと、確かめたい事があってな」

「まさかっ、この状況で内部を歩き回るって!? 止めろ、まだどんな危険が潜んで、いるか……っ!」

 余りにも軽率な行動に、護が目を剥いて制止しても、五百蔵(いおろい)は止まらない。ならば、と護は体を動かそうとして、彼は激痛に苛まれて断念した。

「肋骨が、こんなにっ……これじゃ、魔力だって使えねえじゃッ……おい、朋紀!? 聞こえてんのか、迂闊に動くなと……」

「……大丈夫、だよな? 生きてる、よな?」

 背後から聞こえる護の呟きも聞こえず、五百蔵は視線を彷徨(さまよ)わせ、息を震わせながら呟く。

 長崎 慶司。高田 麗奈。桜井 興佑。アレン・シーグローヴ。皆、同じ高校に通う気のいい友人たちだ。

 それに、小さな女の子を預けた後輩連中は無事だろうかと。

 先程まで、命の危機に追い込まれた時は、こんな事すら考える余裕もなかったが、皆も逃げ(おお)せているのかもしれない。

 そうであってくれ。きっとそうだ。そうに違いない。そうでなければならない。だっておかしいじゃないか、こんな、こんな事で全部が終わるなんて――。

 それは、まるで何か縋るものを求めているかの如く、

幽霊のような顔でフラフラと力なく元来た道を戻る。そうして彼は、ただ歩く。

 歩き、歩き、歩く。親友が生きている証拠を求めて。

 願い、願い、願う。親友が生きていると思いたくて。

 あちこちの通路に転がった死体を避け、血を踏み、重く感じる体を引き摺って生きている友たちの姿を探すのだ。

「長崎、桜井、シーグローヴ、それに高田さん……!」

 頼む、生きていてくれ。またあの声を聞かせてくれ。また自分の馬鹿騒ぎを見て、呆れた様に笑ってくれ。碌でも無い事を仕出かす自分を見て怒って、しばき倒して、それでまた皆で笑って。

 また学校でくだらない話をして盛り上がろうじゃないか。

 だから生きていてくれ。またあの笑顔を見せてくれ。

 彼は、ゆらゆらと歩きながらそう願う。

「おーい、皆、どこだ?」

そうして五分と経たず、どうやら戦闘があったと思しき場に辿り着いた時、彼の心臓は急速に早鐘を打ち始め、喉が渇く。

そこは、台所用品の並んだ場所だった。包丁やフライパンなど、武器になりそうなものが散乱し、破損したものが転がっている様子からして、どう見ても荒事が起こったと分かるものだった。

「へ、返事、返事を……して、くれよっ」

 もしかしたらここに?

 呼びかける声は、震えが消えない。

 だがそんな事を気にする余裕もない五百蔵(いおろい)は、その目で辺りを見回す。心臓が早鐘を打ち続け、カラカラに渇いた喉が張り付いて咳き込みそうになりながら、でもそれを我慢して、目を皿にするのだ。

 彼らの死体は無いか? と。無いのなら、彼らは生きている筈だ、と。そしてそうであってくれと。

血走った目で、目を皿にして探す。

「お、おーい、皆、生きてるんだろ? 出て来いよぉ」

 幸いと言うべきか、ここにも、ここにも居ない。

 良かった、これならば――。

 ホッと胸を撫で下ろそうとした五百蔵(いおろい)だが、そこでふとあるものが目に付いた。

 それは、この場に置かれた商品の隙間から覗く、誰かの脚(・・・・)。それは血に濡れ、ピクリとも動く気配はなかった。


「……え?」


 まさか? まさか? まさか?

 視界が揺れる。凄まじく早い鼓動がより強くなり、彼は頭痛までも覚えていた。

 それでも確かめねばと、フラフラそちらへ足を向け……そして。

「ぁ……!」

果たして彼は、その場に崩れ落ちた。

「ああっ……あ」

べちゃりと、生々しい水音を立てて膝をつき、ズボンに生温かい血が沁み込む。でも五百蔵には、それを気にする余裕なんて無かった。

それだけの衝撃が、彼の心を襲っていたのである。

「そんな、そんなっ……!」

そこには、無造作に転がった四人の親友の姿があったのだから。

長崎、高田、桜井、シーグローヴ。

 その四つ全てが生暖かい血溜まりに沈み、彼らはピクリとも動かない。見慣れた彼らの体はもう二度と動く事も、話す事もなく、談笑なんて出来る筈も無くなっていた。

 もう二度と、五百蔵を見て呆れた顔をしてくれる事は、無いのだろう。ただの人形、抜け殻、亡骸(なきがら)となって、あとはもう冷たくなっていくだけだった。

「嘘だろ? 何で、何でっ、こんなっ……起きてくれよ、頼むから! 長崎ぃ!」

 開き切った瞳孔は、絶望に歪んだ五百蔵(いおろい)の泣き顔を映していた。

 辺りに生存者など居らず、濃厚な血の匂いばかりが立ち込める。そんな中で、彼は小さな呟きと嗚咽を漏らして泣き伏していたのだった。



◆◇◆


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