第四話 望まぬ再会、再戦⑧
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肌寒さを孕んだ夜の風が、頬を撫でる。
しかし、冬真っ盛りに比べれば暖かいもので、軽い防寒具を着こんでしまえば、どうという事も無い気温であった。
「にしてもまさか、このまま作戦実行とはね……」
「仕方ないだろ。俺達が新宿で暴れたの、“ノクス”や警察の連中も間違い無く気付いてるだろうって孫臏さんも言ってたし。対応される前に行動しないと、目的だって果たせなくなる。綾音ちゃん助け出せなくなるかもしれないんだぞ?」
「いや、そこは綾音に限った話ではないと思うんだがな……」
「でもそう言った方が若の気合も良く入ると思うんだがねえ」
「勝手な想像を押し付けんな」
子供のような笑みを浮かべる迅太郎さんを横目に、俺は眉間に皺を刻んでいた。
まだ裸の枝が網となって頭上を覆い、その隙間を縫って降り注ぐ月光が俺達を仄かに照らす。そんな中で視線を向け続ける先には、川の中州に立つ建物が一つ。
「……作戦について、最終確認だ。オーバンも聞こえてるな?」
『勿論だ。まだ目的地の上流に到着してないが……始めてくれ』
無線イヤホンから聞こえるオーバンの声は、少しだけ息が上がっていた。暗い上に整備された道を通っている訳ではないから、歩くにも苦労しているのだろう。
「作戦決行前にすっこけて怪我とかすんなよ。……で、作戦だけどまず突入組は紅床の能力で透明化する。後は俺の能力で空中に足場を作って、上空から侵入だ。迅太郎さんは対岸で待機、現場の指示役になって貰う。ここまでは良いな?」
一旦話を切った俺は、突入部隊の面々に視線を向ける。
それに対して迅太郎さんも、紅床も、吉政も、コンスタンディノスも、短く頷きを返して見せるのだった。
「それから、陽動としてコンスタンディノスさんが施設入り口で奇襲、激しく暴れる。敵はすぐに出てくるだろうから、頃合いを見て毛利さんが施設の反対側でも奇襲をかける。これで敵の警備だけでなく予備戦力も奪える筈だ。すぐやられたりしないでくれよ?」
「無論である」
「儂らを誰だと思っておるか。この前のような失態は演じぬさ」
自信たっぷりに応えて見せる両者は、やはり歴戦の猛者の風格が出ている。こと戦闘面に関して、彼らに不安を抱くのは杞憂というものだ。
「こうして敵の即応戦力を奪い去ったら、俺と紅床で潜入する。この頃にはオーバンも現着して、作業に取り掛かっている筈だ。抜かるなよ」
『任せろ』
無線イヤホン越しに、こちらもまた自信たっぷりな声が返ってくる。今までの行いのせいで、オーバンには不安な気持ちを覚えずにはいられないが、やってくれると信じるしかなかった。
「後は透明化したままの俺と紅床で施設内を捜索、囚われた人たちを救助する。頼んだぞ」
「あいよ、俺の透明化能力が大活躍で嬉しいぜ」
両肩を竦めてお道化た態度を取っている紅床だが、緊張のせいか声が震えている。情けない話だ……と言いたいところだが、俺も人の事は言えないだけに敢えて指摘しなかった。
「そんじゃあ、作戦実行だな。紅床、頼む」
「ほいっとな」
斯くして、俺達は動き出す。
まずは突入部隊が透明化して――。
「おいコンスタンディノス殿、儂の足を踏むな!」
「ぬ? す、すまん! すぐに退かす!」
「痛ッ! この筋肉達磨、透明化して互いに見えないんだから、もうちっと周囲に配慮しろよ!」
「んだとこの紅床がぁ! ミンチにしてやろうか!?」
月明かりしか無くて、迅太郎さんを除いた全員が透明化した空間が、俄かに騒がしくなる。
これから隠密作戦を遂行するというのに、あまりのしょうもなさで俺の顔が歪んだ。
「お前らさぁ……いきなり前途多難なの止めてくれる?」
「大変だな。この中で突入部隊の統率が出来るのは、やっぱ若しかいない」
「気楽で良いな迅太郎さんは」
「最終的に現地の総合作戦指揮は俺が執るから、楽ではないんだけどな」
この場で唯一、透明化していない迅太郎さんはそんな事を言いながら楽しそうで、気負っている様子を微塵も見せない。
そしてだからこそ、安心感があるのだ。
「頼んだよ迅太郎さん。俺の方も囚われた人を必ず救う、必ず……!」
赤葡萄酒色の魔力で空中に階段状の飛び石を作り出しながら、俺は川の中州に佇む施設を睨み付けていた。
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