5-3
「……ということは聖女イリスを八つ裂きにして殺したいということは思ってない?」
聖女アプリコットは急に物騒なことを言い出した。
「別に思ってないですよお」
「じゃあギロチンで殺したいとかは?」
「いえ別にい」
「じゃあ逆十字に磔にしてから槍で刺し殺すとか?」
「私が殺したがっているという前提から離れてくださいー、むしろ羨望と妬ましさの混ざる複雑な印象を抱いていた頃よりも、むしろ今のほうが好意的ですらあるんですよー?」
聖女アプリコットは油断をせずこっちを見ている。
「まあもっともヒロト様が指揮棒をふったらその瞬間敵同士ですけどねえー、それとなんか身体に力がみなぎっているんですよね、良かったら聖女イリス様と軽く勝負してくれませんかねえ? 負けたら私がここに残って牢屋にぶちこまれても良いんですが……良いですか?」
暗黒神官デイジーがこっちを見て聞いてくる。
「それでデイジーの気が済むのならいいと思うけど」
そこで聖女アプリコットが言った。
「うちの聖女イリスが勝った途端、そこで透明になって完全に気配を消して潜んでる2人が襲いかかってきたりするのかしら?」
その言葉と共に2つの影が現れた。
天使アイリーンとゴブリンの王だった。
お前ら隠れてたのかよ。
「ゴブリンキング!?」
聖女イリスが驚いたような声を出した。
「どうもどうも」
「アイリーンちゃんも居ますよ」
2人は割とフランクに挨拶をした。
ゴブリンの王の方は聖女にゴブリンの王国を潰されたのだから聖女に悪印象を抱いているかと思ったがなんとも思っていないようだった。
むしろ自分より強い相手には従うべき、という感じすらある。
ゴブリン同士の強いほうが偉いという価値観がそのまま聖女イリスにも向いているのだろう。
そこで小さくドンという音がした。
音がしたほうを向くとこれまで無言だった聖女マルガリータが後退りしようとして転んで聖女イリスに支えられていた。
顔が真っ青である。
大丈夫かこいつ。
こいつは論外として、聖女イリスもどこか狼狽している。
そしてこの状況で全く動揺している様子が無く、そして隠れていた2人を見抜いた聖女アプリコット。こいつはひょっとしたら要注意人物かもしれない。
それはそうとデイジーが負けたらデイジーを置いていくのか……その条件ならば。
「負けたらデイジーを置いていく条件ならば……もしデイジーが勝ったら聖女アプリコットがこちらにきて貰いたい」
とりあえず言うだけ言ってみる。
「なっ、そんなの」
「いいわよ、連れていきなさい」
聖女イリスが断ろうとしたところで聖女アプリコットがどうどうとそう言った。
何もしてないのに既にフラフラになっている聖女マルガリータが聖女アプリコットにすがりついく。
「駄目だよ、行っちゃ、何されるかわからないよ、二度と会えなくなるかもしれないよ」
「大丈夫よ、行く気はないし、聖女イリスが勝てばいいのよ」
「全く来る気が無さそうだが、ひょっとして何かたくらんでたりしない?」
「そうね、悪あがきくらいはしようと思ってたんだけど……」
そこまで話して聖女アプリコットが俺を指差した。
「後ろに何か潜んでるとは思ってたけどこんな大物が潜んでいたとは思っていなかったわ」
そりゃ俺も潜んでるってわからなかったくらいだからな。
「もし聖女イリスが負けたら次は私と貴方が1対1で決闘する、それで私を倒せたらついていくわ」
「条件がこっちに不利になっただけのような」
「戦力比を考えれば不利じゃないと思うけど」
「わかった、俺が相手をしよう。だがデイジー」
「はい!」
急に呼ばれた暗黒神官デイジーが慌てたように言う。
「お前が負けたら2戦目に進むまでもなく俺達はお前を置き去りにして帰らなきゃならない。負けるなよ、応援しているぞ」
「お任せください」
暗黒神官デイジーが鈍器になりそうな錫杖を構え、聖女イリスも真剣な表情で剣を抜く。




