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俺はデイジー? の方を見る。
「あれ? お前聖女候補じゃねえの?」
「聖女候補デイジーは死にましたーそして……新しく暗黒神官デイジーに生まれ変わったのですよ! 貴方様に一生お使えします、何故かわからりませんがそうしないといけないような気がするのでー」
暗黒神官デイジーは真っ黒な神官服と赤黒いクシャクシャの髪、巨大なメガネを片手で直し、鈍器として使えそうな錫杖を持っている。
鈍器の構えっぷりがサマになっている。
変わったことがあるとすればこれまで重そうに錫杖を持っていたのが今では軽々と持っていることくらいだろう。
たぶん、きっと。
「俺のことはヒロトって呼んでね」
「はいーヒロトさまー」
聖女イリスが前に出てきた。
「デイジー、ボク達のこと忘れちゃったの? 弟さんのことも?」
「覚えてますよー……聖女イリス、一緒に暮らしましたねえ。妬ましかったなあ。」
「妬ましい!?」
聖女イリスが驚いたような声を出した。
「聖女候補の私が貴方を妬ましく思わないと思ったんですかあ? まあ今はなんとも思ってませんでけどね、ちなみに弟のことは今でも大好きですよ。殺されてしまったのは残念ですがヴァンパイアハンターの人が仇をうってくれたのに何時までもヴァンパイアを恨んでいるのは建設的ではありませんねー?」
聖女イリスが相変わらず驚きつつ言った。
「聖女候補デイジー、なんか前より流暢に喋れるようになってない? それにボクに対して嫉妬する要素なんて無いよね?」
「聖女候補デイジーって言ったか、莫迦か? ぶっ殺すぞ…………暗黒神官デイジーですよー間違えないでくださいー。嫉妬要素ならいくらでもありますよー? そもそも聖女に対して嫉妬心を抱くのはなら大なり小なりみんな抱いていると思いますよ? いつああなりたいという憧れ、聖女の力や立場に対する羨望、努力する目標、『これで嫉妬する要素なんて無い』なんて言われちゃあ困っちゃいますねえー?」
暗黒神官デイジーがじーっと聖女イリスの顔を覗き込む。
「模擬戦闘中に一瞬だけ見た顔だ、死ぬその瞬間まで揺らがない狂気じみた決意のような何か……デイジーの中に元々あったものなんだろう、性格面の問題さえ無ければボクの代わりに聖女になっていたかもしれないと聞いた」
「……」
暗黒神官デイジーはじっと聖女イリスを見たまま口だけで笑った、目は全く笑ってない。
錫杖を片手で担いで顎を前に出してニヤニヤ笑っている、視線を下に向けほぼ身長が同じ聖女イリスを見下している。
そこで聖女アプリコットが言った。
「それで、嫉妬心につけこまれて闇落ちしちゃった?」
「たぶん嫉妬心は関係ないと思いますよー? 自分ではわかりませんからひょっとしたらそこにつけこまれたのかもしれませんが、それより一回殺されたことが大きく影響しているように感じられますねえー」
暗黒神官デイジーが聖女アプリコットに視線を向ける、そこにはかすかに恐れが見て取れた。聖女イリスとは明らかに違う視線を向けている。本能的に戦ったら殺されるとわかるのだろうか。
揺らがない自信と強大な敵に対する恐れが混ざりあったような複雑な視線を暗黒神官デイジーは聖女アプリコットに向けていた。
聖女アプリコットは3人の中では明らかに落ち着きっぷりが違う、3人の聖女といっても1人だけ別格ということだろうか、ちなみにこれは俺の主観でしかないが美人という意味でも別格だと思う。
純粋に美形という意味でもあるが高嶺の花っぽい雰囲気というか、斬り殺しても1回だけ復活する剣を使うか?
ちゃんと持ってきてるからな。
その前に暗黒神官デイジーの動きを見てからにしよう。
暗黒神官デイジーに関してはどう考えてもここに置いて帰るわけにはいかないだろうし。




