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従者物語③ 勇者の専属料理人、ファブレ  作者: yuk1t0u256
一章 魔王編
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46話 うな丼

魔王軍との戦闘は3日目に突入した。

前日、前々日と同じく戦地の救援にいそしむヤマモトとミリアレフ。

救援から戻ったところで、軍本部から呼び出しがあり、ファブレも含めて3人で軍本部の大型テントへ向かう。


「やあヤマモトさん、戦場でも美しさは変わりませんね。

それに聖女様の活躍も聞いています。まるで戦場に降りた女神のようだと」

ミハエルはいつもの軽口を叩くが、頬はこけ、顔色が悪い。体もフラついているようだ。

ミリアレフがその姿にショックを受け、

「ミハエル様、失礼します!」

とミハエルに回復魔法を掛ける。

「ありがとう。体が楽になったみたいだ」

ミハエルは言うが、効き目があったようには見えない。

ヤマモトがミハエルの傍に控える副官に目を向ける。

「閣下はドラゴンの襲撃から不眠不休で働きづめなのです。お休み頂くよう何度もお伝えしているのですが、聞き入れて下さらなくて。ポーションもとっくに効果が無くなってしまいました」

ポーションが効かないのであれば回復魔法も効かないだろう。

「要件は?」

ヤマモトが簡潔にミハエルに問う。

「現状のすり合わせかな」

ミハエルと副官、ヤマモトがテーブルにつき、現在感じていること、今後の展開を話し合う。

大砲の導入で防衛の負担は軽減されたが、攻めてくる魔物の数が減ることはない。

兵士の損傷は増える一方で、現状打破のためにはやはり敵司令官を討つしかない、という点で一致する。

「やっぱりそうだよね。魔物が敵司令官の情報をしゃべってくれれば楽なんだけど」

ミハエルは肩をすくめる。人型の魔物であっても言葉を理解せず、捕えても何の情報も掴めないのだ。


話すことも無くなったところで、ヤマモトがミハエルを見据えて言う。

「ミハエル、君は働きすぎだ。食事や休憩が十分でなければ、人は最善の働きをすることはできない。大事な場面で倒れられては目も当てられん。それに上司が休まなければ部下も休めないだろう? 今すぐ休むべきだ」

ミハエルが微笑する。

「ヤマモトさんが僕のことを心配してくれるとは嬉しいね。だけど僕はまだまだ大丈夫。今も命を落としている兵士がいるかも知れないのに、ベッドで寝るなんてとてもできそうにない」

「やれやれ、意外と強情だな。男の子のそういうところは嫌いではないが、今は迷惑だぞ」

ヤマモトが立ち上がり、ミハエルの顔を両手で挟み顔を近づける。さすがのミハエルも予想外の行動にうろたえる。

「ヤ、ヤマモトさん?」

ヤマモトは満面の笑みを浮かべたあと、親指を滑らせてミハエルの首の一部を押さえる。

ミハエルは崩れ落ち、ヤマモトに抱き留められる。

「司令官は休憩の時間だ。自然に起きるまで寝かせておけ」

「勇者様・・ありがとうございます」

副官はヤマモトに感謝を伝え、すぐ人を呼んでミハエルをベッドに運ばせる。


まだ狼煙がないため自分たちのテントに戻り、ファブレが3人分のお茶を用意する。

「心臓が飛び出すかと思いましたよ。王子の首を絞めて気絶させるなんて・・」

普通なら縛り首だろう。ヤマモトがしれっと呟く。

「人聞きの悪いことを言うな。目をよく見ようとして顔を押さえたら、眠さのピークになっただけだ」

「そんな都合のいい話があるわけないでしょう、全く」

「せせせ接吻するのかと思いました!」

ミリアレフは別の意味でドキドキしていたようだ。

「戦場では睡眠と食事は非常に重要なことなのだ。それを怠って気合で何とかしろなんて軍は絶対に勝てない」

「勇者様の世界でも戦争はあるんですか? 魔王や魔物はいないと聞きましたけど」

ミリアレフの質問にヤマモトが目を閉じる。

「人同士の戦争だ。愚かなことだ」


「そんな訳で我々にも補給が必要だ。久しぶりにドカンと来るもの・・うな丼が食べたい気分だな」

「うな丼ですか? どんな料理でしょう」

聞いたことがない料理だ。戦場での一食を無駄にするわけにはいかない。ファブレは緊張してヤマモトの説明を聞く。

「うな丼はウナギの蒲焼きをご飯に乗せたものだ。ウナギは川にいる、蛇のように細長い魚だ。白身で脂が乗っている。それを開きにして中骨を取り、丼からはみ出るくらいの大きさに切り分ける。何度かタレを塗っては焼くのを繰り返す。これが蒲焼だ。焼く前に蒸すのもあるが今回はいいだろう。タレはすき焼きのときと同じだが煮詰めるためかなり甘く、トロリとしている」

説明を聞いてファブレは後悔した。川でとれる細長い魚は見たことはあるが食べたことは無かったのだ。まさかヤマモトの国であの魚を食べるとは思わなかった。

「すみません、ウナギは見たことはありますが食べたことがなくて想像がつきません」

「まぁ見た目は悪いからな。だがウナギは美味い。高級魚なのだ」

「失敗するかも知れません・・やってみますね」

丼をテーブルに用意し、ファブレは想像する。脂の多い白身魚。それを開きにして甘いタレを塗って焼く。それをご飯に乗せる・・。

ミリアレフはどんな料理が出てくるか興味津々だ。

「料理召喚!」

丼の上に橋を渡したように、黒いタレのかかった焼き魚の切り身が出現する。その下にはご飯が敷き詰められている。

ヤマモトが魚を観察する。

「ふむ、白身魚だが・・これはウナギではないな。ウナギの皮は柔らかく焼くと縮み、そこから出る脂とタレが合わさって得も言われぬ香りになる」

「なるほど。今度売ってたら試してみます」

ヤマモトの話をメモするファブレ。

「では頂こう」

ヤマモトが手を合わせ、愛用のハシで魚を一部崩して口に運ぶ。そして笑う。

「フフ、これはホッケやタラのような身だな。食べてから気づいたがウナギを焼いたものはふっくらと柔らかいんだ。タレは完璧だからなんだか脳が騙されるような料理だ。だがこれはこれで悪くない」

「甘くて脂が乗ってて美味しいです!」

ミリアレフは魚をナイフで切ってフォークで口に運ぶ。それを見るヤマモトが眉をひそめる。

「うな丼をそうやって食べられるとなんだか衝撃的だ・・」

ファブレも食べてみる。脂の多い白身魚に甘いタレを大量に塗って焼いた料理だ。ご飯との相性はとてもいい。

だがヤマモトの反応を見るに、ウナギはおそらくもっと独特な風味がするのだろう。残念な結果になってしまった。

3人はうな丼もどきを平らげ、お茶で口の甘さを洗い流す。

「今度から食べたことがない食材を見たら買うようにしますね」

「そこまですることもあるまい。虫だの蛇だのの料理を出されても困るしな」

「さすがにヤマモト様の国でも虫や蛇なんかは食べないんですか」

ファブレは少し意外だった。ヤマモトの国は何でも食べるイメージがある。

「食べる人もいるが・・好んで食べたいものではないな。それに昆虫料理は結構高いんだ」

「あるんですね・・」

食い詰めた人がしょうがなく虫を食べるのは分かるが、どうして高い金を出してまで食べるのか。

ミリアレフもヤマモトの国の食文化の深さに戦慄する。

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