第百七十九話 涙
「世界樹……!」
世界樹、世界樹か!
話には聞いたことあるけど、実際に見たことはない。
くそ、こんな事態だってのに、少年心が熱くたぎりやがる。
「世界樹だってよ! わっくわくするなぁ大将!」
「って、お前も来る気かよ?」
「俺様とマリじぃは〈ヴァンハーツ〉の一員として、大将たちについていくようさっき言われたんだ。そういうわけで、頼むぜ大将!」
ニーアムがオレとカーズの会話を聞き、説明を求めてアルカナを見た。
「2人は仲介人、悪く言えば君たちの監視員さ。
元騎士団員に全幅の信頼を寄せるのは、さすがに厳しいからね」
「……了解しました。連絡はどうやって取りますか?」
「レイちゃんの転移術でなんとかなると思うけど」
レイラはアルカナの視線を受けて、1つのピアスを取り出した。
転移門が描かれたピアスだ。
「これを使ってください」
「転移ピアスだね。
1つしかもらえないのかな?」
「すみません、距離無制限の転移門は同時に3つまでしか展開できないのです。
1つはわたし、2つ目はアドルフォスさん、3つ目はアルカナさん。これで限界です」
「了解だよ。
しかし良い能力だよねぇ~、転移術師は是非ともうちに欲しいよ」
レイラはピアスをアルカナに渡す。
「連絡はわたしのタイミングでしかできません。なので、アルカナさんからわたしに連絡を取るのは不可能です」
「わかった。じゃあ朝の7時、昼の13時、夜20時に連絡をちょうだい。
こっちへの報告はマリ君に任せる」
マリヨのおっさんは「承知しました」と頭を下げた。
「帝都への侵攻はいつ始める気だい?」
「準備が整い次第……まだまだ未定です」
「う~ん、地盤がゆるゆるだねぇ」
「申し訳ない」
「いや、急な展開だったらしいからね。仕方ない仕方ない。
そう急く必要もないだろう。戦力が出揃うまで様子見していこう。こっちもまだ準備に時間がかかるしね」
「世界樹に挑む際はギルドの協力も得られると助かる」
「うん、なんとかするよ」
「あとの詳しい内容は旅の道中、転移門を通して行いたい。
私の話は以上です」
「オレはもうちょい話がある」
オレが言うと、アルカナは嬉しそうな顔をした。
「私は外で準備がある。レイラ、お前も来い」
「は、はい……わかりました」
「ミッス君、ポニー、2人を外へ案内してね」
「はいはいっと」
「じゃあねシール君、また後で」
「封印術師、ソロンの銅像の前で待ってるぞ」
ニーアムとレイラは祭殿の外へ出て行った。
「そんじゃ、俺とお嬢もここで退散しときます」
うなだれるキャサリンを、ミストが引っ張って外へ出る。
「私も旅支度をしなければ……食事の調達なども今の内に――」
「俺様が手伝うぜマリじぃ。
大将、先に出てるぜ」
「おう」
カーズとマリヨのおっさんも外へ出た。
「さて、二人っきりになったね……」
アルカナは唇を舌で舐めた。
そしてなぜか服を脱ぎ始めた。
「……なぜ服を脱ぐ?」
「あれ? そういうつもりじゃなかったのかい?」
「なわけねぇだろ!」
オレは札入れから1枚の札を出す。
その札に封じ込まれているのは例の鎖紋の剣だ。
「アンタ、凄腕の錬金術師なんだよな?」
「いかにも」
「ってことは錬色器に詳しいんだろ?」
「ミーほど錬色器に詳しい人間は居ないよ」
「じゃあ、コレ知ってるか?
――解封」
「あっはっは! ミーに知らない錬色器がある、わ、け……」
オレは札から鎖紋の剣を弾き出す。
アルカナは、その剣を見て、
――涙を流した。
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