22 ◆エドガールート オレンジ色の世界
放課後になってから、私はなるべく早く教室を出た。
最初は玄関とかで待ってようかな?とか思ってたんだけど、そしたらエドガーは4階にクラスがあるのに1階まで降りてからまた上に行くことになっちゃうなって思って。
でもあんまりゆっくり行くと入れ違いになっちゃうかもだから、階段を急いで登ったんだ。
割りと簡単にエドガーを見つけて「エドガーお兄様!」って言って駆け寄ってね、こっちきて?って言って手を繋いで一緒に屋上に行った。
「なになにどうしたの?」「ふふ、内緒っ」
教えないまま階段をかけ上がる。
よかった、屋上のドアを開けると水溜まりは大きな水溜まりのままで、空を映してとっても綺麗。「どう?」って言ってエドガーを見上げると微笑んで私の髪をなでる。
「すごいね、屋上に来れるとか知らなかった。」
「でしょ?エリックがね、教えてくれたんだ。今日だけ開いてるんだよ?…あ、そうだ、エリックにだけね、私とエドガーの話しちゃったんだけど…大丈夫、だよね?」
事後報告じゃだめだったかな?エリックの名前出した瞬間、え…って顔をしたから、不安になってきた。
「ああ、そうなんだ。うん…大丈夫だよ。なんか…敵に塩贈られちゃったなと思っただけ」
「えっ…戦国武将の…!?」
なんと、この世界って日本あるの!?
急に前世っぽいのきてすごいびっくりしたんだけど、そしたらエドガーも「…?なにそれ?」ってなってたから、なんか全然違う意味の言葉だったのかも。あーびっくりした。
「ねぇエドガー、そんなことより、水溜まりに入ろ?楽しいよ?」
「うん、じゃあ手を繋ごう?」
そう言ってエドガーは私をお姫様みたいに扱うの。
私は少し照れながら差し出された手をとって、2人でそーっと水溜まりを歩く。
水溜まりに2人分の波紋が広がって、足元の陰り始めた青空を揺らす。そうしてね、ちょうど空が色の変わっていく頃合いだったの。ピンクになってオレンジになって、2人分の波紋が溶けていく。
隣を見上げると楽しそうに私を見つめるエドガーがいる。きっと私も今同じような顔してる。
オレンジ色の世界に2人きり。
「素敵な場所に連れて来てくれてありがとうプリシラ」
「うん、どういたしまして」
「ねえ、プリシラ。抱きしめてもいいかな?」
「うん…いいよ」
そう言ったらゆっくり手を引かれて優しく抱きしめられた。
私その時にね、エドガーに私から抱きついたことは小さい頃から沢山あったけど、抱きしめられたのは初めてだ…って、初めて気がついたの。だって、今まで感じたことのない、心が騒ぐような幸せな気持ちが、体中に広がったんだ。
「好きだよ、プリシラ…。君が君として、ぼくをぼくのままに、側にいてくれる今が本当に夢みたいで…ぼくは今が一番幸せなんだ」
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いつもより私もエドガーも遅いから、馬車乗り場で護衛のメアリーもサイモンも心配していた。もう少し待っても来なかったら探しに行こうとしてたみたい。
何も言わずに遅くなってごめんなさいと2人で謝った。
最初に馬車乗り場に言いに行ったらよかったね…ごめんなさい。
帰り道の馬車の中で、エドガーが言う。
「そういえば今朝の話だけどさ…2人きりのやつ」
「うん」
「まあ色々やり方はありそうなんだけど…一番取りかかりやすいやつとしては…近いうちに、どこか遊びに行く?」
「行く!」
そっか、遊びに行ったらいいんだ…!
じゃああの場所に行きたいな。前、社交界デビューの時にお友達になったレイチェルのところ。今、童話モチーフのテーマパークできてるんだ。すごい人気あるんだよ?
そんな話をしたらね、エドガーが懐かしそうに言ったの。
「そういえば、童話好きだったね、プリシラ。…覚えてる?昔は、どこに行くにもお気に入りの絵本持ち歩いてたんだよ?いっつも両手でいっぱい抱えてて…可愛かったな…」




