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女神大戦 ‐The Splendid Venus‐  作者: 灰原康弘
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エピローグ①

 その女はゆっくりと、まるで見せつけるかのようにナイフをふるった。


 最初に犠牲になったのは、詩織だった。頸動脈を切り裂かれ、噴水のように噴き出した鮮血が、見る見るうちに最愛の妹の命を奪っていく。その光景は、なぜか鮮明に浮かんでいる。

 助けたいのに、体を動かすことができない。それどころか、声を出すことさえかなわなかった。

 どれだけ体を動かそうとしても、金縛りにでもあったように、指一本動かすことができない。

 どれだけ声をだそうとしても、金魚のように口をぱくつかせることしかできない。

 そのつぎに犠牲となったのは、西園寺だった。


 彼は心臓を一突きにされていた。

 離れていても、一撃で命を奪われたことが分かる。

 それほどまでに、見事な一撃だった。

 ゆっくりと歩いてくる。

 そのたびに、ナイフから血がしたたり落ちた。

 だが、やはり体を動かすことも、声を出すこともできない。

 体に冷たい感触が滑りこんだ。

 胸の中央、そのやや左側。

 ――刺された。

 心臓を一突きにされたのだ。




「っきゃああああああああああああああああああああああああ‼」

 はじかれたように上体を起こす。

 荒い息を吐きながら、あたりを見回す……。

 白いベッドに白い壁、窓からは陽光が差しこんでおり、柔らかな風がカーテンを揺らしている。視界の端には、いくつかの医療器具。腕に刺さっている点滴。

 そこまで見たところで、ハッとして胸を触る。

 しかし、そこにはナイフなどは刺さっていなかった。


「起きて早々騒がしいな。ここは病院だぞ。静かにしろ」

 隣からイヤミったらしい声が耳に届く。

「柊、くん……」

 ベッドのとなりに置かれたパイプ椅子に、柊尊が座っていた。

「どうして、柊くんが……」

「フン、俺だっていたくているわけじゃない」

 不機嫌そうに吐き捨てる尊。

「……ここ、どこなの?」

「朱雀総合病院だ」

 面倒くさそうにしながらも答えてやる。


「病院……? 私、どうして……!?」

 ――思い出した。

 そうだ、自分はあのとき、心臓を刺されたのではないか……!

「ひ、柊くん聞いて! あの、大変なの! 宮殿に白瀬さんが来て、それでナイフで私を刺して……! 西園寺さんは!? 詩織は!? 詩織はどうなったの!? あ、あれ、っていうか私、心臓を刺されたはず……なんで生きて……」

 状況をのみこめず混乱する朱莉の耳に、尊の低い声で言う。

「落ちつけ」

 額に人差し指を突きつけられ、朱莉はそれ以上なにも言うことができずに沈黙してしまう。

 いまの尊には、相手の行動を制限する妙な強制力があった。

 医師と数名の看護師が病室に飛びこんできたのはそのときだ。


「まずはこいつらにつき合ってやれ。そうしたら、話してやる」

 朱莉は言われたとおりに、医師たちによる簡単な検査をうける。尊が口を開いたのは、医師たちが退室し、足音が聞こえなくなってからだった。

「順を追って説明してやる」

 なぜかひどくいやそうな口調で言うと、背もたれに体重を預ける。

「まずは貴様の質問に答えてやろう。西園寺と『君主』は――死んだ」

 その言葉は強く、残酷なほどにハッキリと、朱莉の体にしみわたった。

 しかし、そのつぎに言われた言葉で、朱莉はさらに混乱することになる。


「それと、貴様は刺されてなどいない」


 スローンルーム――“王座の間”――で三人が発見されたさい、朱莉だけ脈があった。

 急きょ病院に搬送され、脳死状態だった詩織との心臓移植手術が行われた。

 通常は四段階にわたる評価が行われ、様々な問題をクリアしなければならない手術だが、今回は“超法規的措置”ということで、異例の速さでの執刀となった。


 “超法規的措置”、それを可能にする人間が何枚もかんでいるということだ。

『君主』――詩織殺害の件は世間には伏せられ、宮殿と事情を知る者には緘口令が敷かれたという。

「まあ、貴様も発見されたときは心肺停止の状態。原因は心筋梗塞だ」

 そこで尊は朱莉のバッグにちらりと目をやる。そのなかには、持病の心筋梗塞の症状を抑えるための、アスピリンをはじめとする錠剤が入っていた。玄武地区を視察したさい、それを入れた小箱を見たときに尊は気づいていたのだろう。


「もう一度言う。貴様は刺されていない……そして、貴様は生き、あの二人は死んだ」

二人の墓は、朱雀地区にあるとある墓地に建てられた。瀬戸が裏で手を回し、身元不明の親子の死体として、極秘に処理させたのだ。

 拒否反応なども心配されたものの、術後の朱莉の回復には目覚ましいものがあった。

 まるで、“見えないなにか”が味方しているかのようであったという。

 けっきょく、朱莉は一週間足らずで集中治療室から一般病棟に移された。

 そして、朱莉は一命をとりとめたのだ。


「ど、どうして!? どうして私だけ……詩織は……本当に助からなかったの!? それに、私本当に刺されて……」

「何度も言わせるな。貴様は刺されてなどいない。そして、あの二人は助からなかった。死体を見たいなら口をきいてやるが、どうする? もっとも、もう骨になっているから掘り起こしてDNA鑑定をすることになるがな」

 冷徹に言われ、朱莉はすこし冷静さを取り戻したようだ。


「だが、貴様が助かったのは、『君主』――詩織の意志だ」

 彼にしては本当に珍しく、言い聞かせるように言った。

「やつは生前、征十郎に言っていたんだ。“自分と姉にもしものことがあったときは、自分の体を姉のために使ってくれ”、とな」

 朱莉は黙って尊の話を聞く。彼は続ける。

「征十郎のもとに匿名の電話があったらしい。駆けつけると、貴様ら三人が倒れていた。そのとき、貴様にはまだ脈があったんだそうだ。また言いそうだから再三言うが、貴様は刺されてはいない」

 そんなはずはない。たしかに自分は刺されたはずだ。

 朱莉は必死に記憶を探ろうとする。だが、ショックからだろうか、どれだけ探っても記憶が混乱しており、思い出すことは叶わなかった。

 朱莉の思考を断ち切るかのように、妙に低い声で尊は続ける。

「いいか、もう一度言う。貴様が死に損なったのは、詩織の意志だ。それは忘れるな」


 朱莉は落ち着いて、ゆっくりと、胸の内で尊の言葉を反芻する。

 体の中では、トクン、トクンと心臓が音を立てている。これは自分のものではなく、あの少女の、かけがえのない、最愛の妹のもの。

 詩織のおかげで、自分はいまもこうして生きていられる。

 だが――。

「どうして……そこまでして……私、あの子になにもしてあげられなかった……なのに、こんな……」

 守りたいと思った少女に、逆に助けられた。

 名前を考えてくれと言われていたのに、それすら与えることができなかった。

 情けなさで、悔しさで、涙がこぼれ出る。どう頑張っても止めることなどできなかった。


「……征十郎が言っていた」

 尊の声色は相変わらず低い。

「貴様は、詩織を守るように、覆いかぶさっていたようだ。どうせ、詩織を助けるために真っ先に殺されたのだろう? フン、妹を助けるために自分から殺されるとは。相変わらず感心するバカさ加減だな。尊敬するよ」

 なにかデジャヴを感じ記憶を探ると、いぜん『安全地帯』に侵入した『フレイアX』が、少女を襲おうとしたとき、とっさに助けに入っていまとおなじことを言われたことを思い出す。

 しかし、今回の言葉は前回のものとは違う。

 いまのは皮肉ではなく……慰め、られたのか……?

 不思議そうに尊を見ると、彼はとっさに視線を外してごまかすように鼻を鳴らした。

 それがなんだかおかしくて、クスリと笑ってしまう。


「なにがおかしい」

「うぅん、なんでもない」

 不機嫌そうに言う尊がおかしくてさらに笑い、ますます尊は機嫌が悪くなる。

「でも、柊くんには言われたくないな」

「なに?」

「だって」

 と朱莉は一泊置き、確信をもって言う。

「おなじ状況にいたら、柊くんは迷わず唯ちゃんを守るでしょ?」

 この言葉には、尊は急に調子を取り戻したように、ふんぞりかえって言う。

「フン、当然だ。俺をだれだと思っている」

「え~? だれなの?」

 意地の悪い笑顔で尋ねる朱莉。病室の扉が開いたのはそのときだ。


「あ、朱莉さんっ! 目が覚めたんですか!?」

 両手にジュースを持って入ってきたのは、白いネグリジェを着た唯だった。

「唯ちゃん……ひさしぶり……」

 どうあいさつするべきか分からず、あいまいに手をふると、

「ひさしぶり、じゃないですよ! だ、大丈夫なんですか!? そうだ、先生を呼ばないと……」

「大丈夫だよ、唯。それはもう終わったからね」

 尊は気色の悪い猫なで声で言った。

「そ、そうなんですか……ごめんなさい、わたしったら……」

 唯は恥ずかしそうに言うと、ごまかすように尊に缶を渡す。

「兄さんは、カフェラテでよかったんですよね?」

「ああ、ありがとう唯」

「ええと、朱莉さんは……」

「私はまだ飲めないから……気持ちだけもらっておくね」

「そうですか……」

 じゃあ、ここでは飲まないほうがいいだろうか。そう考えた矢先、尊が平然と、むしろ見せつけるように飲み始めた。

「うん、うまい。やはり疲れたときは甘いものに限る」


 なにもしていない癖にそんなことまで言うのだ。念のために言っておくが、唯が飲み物を買いに行ったのは自分からそう申し出たからだ。その代り、尊に朱莉を見ておくようにと頼んだのである。

「もう、兄さんったら……」

「いいよ、気にしないで。唯ちゃんも飲んで?」

「いえ、わたしはそこまで喉はかわいていませんから……」

 そう言うと、空いていたほうの椅子に腰かける。

「唯ちゃんこそ、寝てなくて大丈夫なの?」

「はい、今日はとても調子がいいので」

 そう言ってニコリと笑う。


「唯に感謝するんだな。貴様の看病をしてくれたんだぞ」

「前回お世話になったんですから、そんなこと言っちゃダメです」

「そっか……」

 朱莉はポツリとつぶやくと、

「二人とも、ありがとうね」

「お礼なんて……水臭いですよ」

「うぅん、こうやって二人と話してて思ったんだ。生きててよかったって……」

 しみじみという朱莉に、尊は「バカめ」とでも言いたげに鼻を鳴らし、

「これを渡しておく」

 そう言うと、ベッドの下に置いていたらしい紙袋から数冊のノートを取りだして無造作にほうった。

「自分の身になにかあったとき、それを貴様に渡すようにと西園寺が征十郎に頼んでいたようだ」

「これ……なんなの?」

「読めば分かる。俺からすればせいぜい資源ゴミに過ぎん。だが、貴様ならその価値が理解できるだろう」


 朱莉を一瞥する尊だが、最愛の妹に顔をむけるころには、柔らかい笑みが張りついていた。

「唯。そろそろ行こう」

「え、でも……」

「すこし、二人きりにしてやろうじゃないか。さあ」

 となにを思ったのか、

「ちょ、ちょっと兄さんっ!? なにするんですかっ。おろしてくださいっ! 一人で歩けますからっ!」

 唯は顔を真っ赤にして抗議する。

 それもそのはず、尊は唯をいわゆる“お姫様抱っこ”しているのだ。

「そもそも、礼を言う相手が違うだろう。貴様からの礼など反吐が出る」

「!」

 言わんとしていることを看破し、朱莉は胸をなでた。


「そう、だね……。あのさ、退院したら、詩織と西園寺さんのお墓参りにつき合ってくれない?」

「断る。だれのせいで俺の休みが遠のいたと思ってる。これ以上の面倒事はごめんだ」

「そっか」

 予想していた返答だったのか、朱莉はどこか楽しそうに言う。

「でも、やっぱり言わせて」

 スライド式のドアを足で開けて出ていこうとする尊の背中に、朱莉は微笑みかけた。

「ありがとう、尊くん」

 答えずに、そのまま部屋をでて行った。


 尊の足音が聞こえなくなってから、朱莉はノートを開く。

 そこに書かれていたのは、朱莉が星野孤児院で暮らすようになってからの生活記録だった。

 そこにはすべてが書かれていた。朱莉がおてんばだったときのこと。そのときに、とても苦労させられたこと。“妹たち”ができてからは“お姉ちゃん”となって、いろいろと手伝ってくれたこと。その成長がとてもうれしかったこと。

 西園寺のことも、書かれていた。彼は毎年、誕生日プレゼントを送ってくれていた。昔お気に入りだったクマのぬいぐるみも、西園寺がくれたものだった。

 祥子と西園寺は、ずっと自分を見守ってくれていた。自分を愛してくれていたのだ。

 あの日、孤児院のみんなが律子の手によって『フレイアX』となり果てた運命の日、祥子は朱莉を逃がすために、お使いを頼んだのだった。

 祥子もまた、最後まで自分を守ろうとしてくれた。

 それをこうして、記録として残してくれた。

 これが真の、“女神育成施設運営報告書”なのかもしれない。

 朱莉の頬を涙がこぼれ落ちる。ノートを抱きしめ、短い嗚咽を漏らす。

 自分は様々な人に支えられ、助けられ、いまここにいる。

 彼らはみな、命を賭して自分を守り、愛してくれた。

 それは決して忘れてはならない。

 深く胸に刻みつけ、嗚咽を漏らし続けた。




「もう、みんな見てるじゃないですか……」

 “お姫様抱っこ”をされたままの唯は、尊の胸に顔をうずめるようにして言った。

「いいじゃないか。こんなやつらのことなど放っておきなさい」

 結構大きめの声で言うものだから、朱莉は申しわけない気持ちでいっぱいになる。

 もっとも、二人を知る医師や看護師は、またかという呆れたような目で見ていたのだが。

「それに、このあいだから仕事続きで疲れてしまったからね。すこしご褒美をくれないか?」

 そう言ってニコリと笑う。兄に頼られたことがうれしかったのか、唯は恥ずかしそうに顔をそらしたが、

「……しかたないですね」

 と言って頭をなでた。


「さっきはちょっと驚きました。まさか兄さんが朱莉さんを励ますだなんて……」

「聞いていたのか?」

「はい。入りにくかったので、立ち聞きしてしまいました。ごめんなさい……」

「べつにかまわないよ。大した話じゃない」

 尊はふわりと微笑んだ。

 たしかに、アレには自分自身も驚いた。


 ――詩織を守るように覆いかぶさっていた。

 あれはウソだ。朱莉は、詩織とはすこし離れた場所で倒れていたのだ。


 なぜあんなウソをついたのか、自分でもよく分からなかった。

 ただ、詩織と西園寺が、命を懸けて守ろうとしたあの少女に、あんな顔をさせるべきではない。そう思った。

(フン、俺もやきが回ったか?)

 自嘲気味に心中でつぶやく。


 今回の事件、まだ分かっていないことが一つだけある。

 詩織を襲撃した、謎の女たちのことだ。あの連中は懐に、アスパラガスの花を持っていた。いずれも瞳孔が開いており、だれかに操られている様子だった。

 そして全員、取り調べ中に発狂したように死亡したという……。

 最初は朝桐が手を回したのかとも思ったが、彼は一貫してそれを否認している。

 この期に及んで、あれだけ否定する意味もない。ということは、アレは本当に朝桐は関係がないのか?

 だとしたら、いったい、だれが、なんのために……?

 ――まあいい。

 尊はあっさりと思考を断ち切る。


 今回、朱莉に事情を話した時点で尊の仕事は終了した。

 後の事後処理は、瀬戸の仕事だ。

 瀬戸と言えば、気に食わないことが一つある。

 星野孤児院が西園寺の発案によって設置されたということは、当時の上司であった瀬戸もむろんその秘密を知っていたはずだ。にもかかわらず、彼は知らないふりをして尊に調査を命じたのだ。

 最初に違和感を持ったのは、朱莉と詩織を入れ替えたあと、学園長室で星野孤児院と『女神』に関する話を聞いたときだ。

 ウイルスが蔓延したさい、『政府はとある計画に着手した』と瀬戸は言った。

そしてその後も、彼の話の中には、“安全地帯の政治を一手に担う絶対的なカリスマ”であるはずの『君主』は、一度も出てはこなかった。


 第一、アレはどう見ても、自分と年齢の変わらない少女にしか見えない。最初に見たとき、“なにか裏がある”と思った。最初は、『君主』を操っているのは宮殿ではないかと勘繰った。『君主』の利権をめぐって、酒匂と小清水が小競り合い、結果として“式典でのテロ”という茶番を生んだのではないかと。だが、そうではなかった。

 尊が真相に気づいたのは、玄武地区のホテルで『元老院』の秘密を聞いたときだった。『君主』がただの傀儡であるという点。そして、詩織が言っていた宮殿での“しきたり”。それが“『女神』が『女神』たる条件”をクリアするための“儀式”だとしたら。

 本命は『君主』であって、朱莉はそのバックアップに過ぎないのではないか? その考えに至るのに、そう時間はかからなかった。

 しかしそのとき、すでに尊はこの件に深くかかわってしまっていた。瀬戸の思惑に気づいてなお、そのとおりに動くしかなかったのだ。


 さらに、尊を『君主』に会わせた以上、すべてを看破されることも、当然瀬戸は予測していたはずだ。にもかかわらず巻きこんだということは、詩織と西園寺の計画も、最初から知っていたに違いない。

彼はすべて知ったうえで、朝桐を……さらには尊を利用して目的を果たした。

 ――まったく、忌々しいかぎりだ。

 だが、重要な“楔”である『君主』を失ったことで、『安全地帯』――正確に言えば、『元老院』はたいそう困っていることだろう。

 とはいっても、こういった“処理”には慣れている連中だ。じきに解決策を考えるだろうが、その『元老院』にしたところで、一人欠けているという事態だ。まったく、目も当てられない不祥事である。

 が、それも尊には関係のない話だ。


 そんなことよりも、気になることがある。

 あのことは、まだ唯には話さないほうがいい。話したところで、無用な混乱を招くだけ。まだ情報が足りない。たしかなものを集めなければ。

 しかしそのまえに、もっと大事な、いや、一番大事なことがある。

「唯、兄さんはこれから休みになる。外出許可も出たことだし、旅行にでも行こうか。どこか行きたいところはあるかい?」

「本当ですかっ!?」

 うれしそうに顔を輝かせ、考えるそぶりを見せるも、

「私はどこでもいいです。兄さんと一緒なら、どこでも」

「そうか……」

 尊は平静を装いつつ、内心天にも昇るうれしさで舞い上がっていた。


「じゃあ、さっそく考えようか」

 これからの休み、最愛の妹とともに過ごすことができる。

 尊にとって、これ以上の喜びはない。これなら、仕事をがんばった甲斐があるというものだ。

 それを考えると、ポーカーフェイスが崩れ落ち、思わず笑みがこぼれてしまう。ここに律子がいれば、キモいと切り捨てたことだろう。

 しかし、

「朱莉さんとも一緒に行きたいですね」

 その一言でわれにかえった。

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