帰ってきた姉
お昼になるとポツポツとやってくるお客さん。
父のお料理がまずいって訳じゃないんだけどなぁ。
客層は、旅行者がほとんど。
つまりは一見さん。リピーターにならない人達だ。
ウチは旅行記に取り上げてもらえる程の大店じゃないし、つぶやきで広めてもらおうともそんなのないし。ってあれ?つぶやきって何だった?
父の料理は家庭料理をワイルドにした冒険者風の料理なので、たしかに職業冒険者の人達って町に戻ったならばちゃんとしたの食べたいよねぇ?決してうちのがちゃんとしてないって訳じゃぁないけど。
例えばおふくろの味とか?反対に高級そうなディナーとか。
よくわからないけど。
あれ?でもグレイブがかけだしの頃はよくここに食べに来てたわよね?
あんな事になった後じゃグレイブ本人がここに来る事はありえないけど。
一番お金を落としてくれる冒険者の人達が客層にあまりいないってのが大きいかな。
冒険者といえばやっぱりお酒のメニューが充実してないとって思う。
「お父さん、やっぱりお酒のメニューを増やそうよ?」
「ダメだ。うちは飯屋だ」
…うちのお酒のメニューが充実していないのは、お姉ちゃんが看板娘を務めていた頃に酔ったお客に絡まれて怖い思いをしたからだ。
つまりは娘の安全を第一に考えた父の愛情配慮といえる。
もうお姉ちゃんはいないんだし、残った妹の私の方は、このままだと売れ残り一直線だし、しつこい客くらいバチンとひっぱたけるほど私は気が強いし、そんなに過保護になるほどじゃないと思うんだけどなぁ。
ああダメか。やっぱりグレイブとの破局は私が気が強いせいっていう噂に信憑性が加わっちゃう。
本当に私って気が強いらしいのよね。
私は自分が普通だって思っているんだけど。
他の女の子はもっとおしとやかで大人しいらしい。
思うんだけど、反発した時や自分が正しいって感じている事を相手に伝えたい時ってみんなどんなふうに処理しているんだろう。
私に常識がないのか我慢が効かないのか。まぁ両方なんだけど。
でも、グレイブの今カノだってポンポンもの言う子だよね?
グレイブにとって私がどストライクだったんだから、グレイブの好きなタイプってのは世間一般の女の子からははずれてるって事なんだし。
私が気が強いから破局したんじゃなくて、グレイブがわからんちんだったからよ!絶対。
…やめだやめ。
どんな事もグレイブにもって来ちゃう思考を何とかしないと。
ほらまたじわって泪が出てきちゃった。
いや違う!泪じゃないもん。これは汗!
目指せ玉の輿!私は過去じゃなく今を生きる女!
過去にはとらわれないわよ!
と、いきまいていたのに。
その玉の輿を失敗した人が帰ってきてしまいました。
「…アデラ」
「…おねぇちゃん」
「えへ。帰ってきちゃった。父さん、私の部屋ってまだそのまま?」
少しやつれた姉が、小さな子供を連れて帰ってきたのは、夕げの営業をそろそろはじめようかって言う頃でした。
茫然と出迎えた私たちに姉は儚げに微笑んで言ったのです。
「男爵様が落馬で亡くなったの。奥様に出ていくように言われちゃった」
姉はとある高位貴族様がこの町を訪れた時に、家族の反対を押し切って家を出ていったんだけど、所謂お妾さんで、後ろ盾に男爵様がなってくれて王都で暮らしていたんだけれど、その男爵様が亡くなられて追い出されてしまったらしい。
結局は高位貴族様の第いくつかわからないけど何番目かの夫人にすらしてもらえなかったらしい。
…だから反対したのに。
言葉にすると責める意味になってしまう。
やつれて傷ついているだろう姉、小さな子供までいる姉にそんな言葉は私も父もかけられる訳がない。
「腹減ってるだろ?まずは飯でも食え」
やはり父はそう言った。
私達は家族だからそうするのが、当たり前だよね。
姉と私とは腹違いの姉妹だ。
姉の母親、つまり父の最初の結婚相手は父と同じ冒険者パーティの人だったけれど、姉を産んですぐ亡くなってしまって、乳飲み子を抱えて困っていた高レベル冒険者の父に甘言を弄して後妻に収まったのが私の実の母だ。
実の母の事を悪く言いたくないが、上昇志向ばかり強い気の強い嫌な人だった。
「あれで案外可愛い所もあったんだ」
と父は私に言った事があるけれど、実の娘の目から見ても最低の人だったから父の目は腐っていたに違いない。父を見ると若い頃はもてたんだろーなって思えるから余計、なんであんな馬鹿引き当てたんだよと突っ込まざるを得ない。
でも母が後妻に収まっていなけりゃ、私は生まれてこなかった訳だしその点は感謝するけどさ?
馬鹿な母は、父が冒険者を怪我で引退して「カモメ亭」を開いた事が気にいらず家を飛び出してしまった。
そして母の事を盲信していた姉も。
女は成り上がってナンボ…これは母の座右の銘だ。
母によると男性は自分の人生をステップアップさせてくれる踏み…ゲホゲホ…エッセンスらしい。
養母に懐いていた姉は母の事をリスペクトし、その行動をなぞったのだ。
今思うとどうしてもそうとしか思えない。
「どうして私の夢を応援してくれないの?」
姉がくそったれ貴族の後を追いかけて出ていく前の夜のセリフである。
それは貴女の行動や考えがあまりにも短慮だからですよと私は口を酸っぱくして諭した。
でも、翌朝に姉の部屋を覗いてみればもぬけの殻。
妹の目から見れば貴族は姉の事を遊びとしか見ていないだろう事が考えなくても分かったし、例え本気であったとしても身分の差や育った環境で愛情はすぐ冷めてしまうだろうと思えた。
物語に憧れた田舎娘の突飛な行動なんて身を結ぶ事はないだろうと。
第一、姉自身気がついていなかったようだけれども、姉は相手が貴族だから恋に堕ちたのであって、それが裕福な商人だったとしてもそういう気持ちになったと思う。
姉の目にはくそったれ貴族が「ここではないどこか素晴らしいところ」に連れだしてくれる白馬の王子様に見えていたのだろうが、現実はそんなに甘くない。
私の目にはくそったれ貴族は旅の恥はかき捨てとばかりに「綺麗な花がそこにあったから摘んでみた」だけの阿呆にしか見えなかったのだから。
まぁこんな風な結果になるだろうなぁと実は思っていましたよ。
むしろ最悪の結果にならなくてよかった。
だから姉の部屋はそのままに、私は掃除だけをしていた。
「おかえりお姉ちゃん。部屋はすぐ使えるになっているよ」
万感の思いを込めて私は姉にそう声をかけるのであった。




