お掃除終了
「もっとスキルポイントを稼がなきゃ」
私は、今シリアスに考えている。
けしてなりきり「傲慢高飛車令嬢」コスのお胸さんの中身(王都名物の肉饅頭)が名残おしいわけではない。名残おしいわけでは決して…。
「それ、もうくさってる」
レオさん、私、決して食べようとしていたわけではありませんよ。
射撃系のスキルを取ってなかったのは失敗だった。
私的にはちょっと目立ってあとはさっさと撤収という筋書きだったから「傲慢高飛車令嬢」はハリボテでよかった。
ところが蓋をあけてみればまさかの敵との直接のエンカウント。
とってあった隠密系のスキルなんてガシャガシャと音をたてる鎧や剣をもった騎士を連れて、失神したお姫様を担いでの逃亡には役には立たなかった。
レオに守ってもらって、ようやく切り抜け、ヤミに助けてもらってどうにか逃げ出して。
はっきり言ってヤミとの出会いはスーパーラッキーといえる事態だった。
彼女との出会いがなければ、どうなっていたことか。
でも、これからそんなラッキーが何回も続くとは考えない方がいい。
ラッキーをあてにしてはダメだ。
つまりはいついかなる時をも想定し備えて行動する。
それでも想定外は起きるのだ。そのためのスキルポイントの備えだ。
その場でその時にあったスキルを手にする。
いつでも反撃できるように。
それを私の戦い方にしよう。
慎重に、命大事に。
それにスキルに「尋問」なんてのが生えてるけど知らない。知らないってば知らない。
それにスキルポイントを振ったりとかはしない。絶対しない。
捕えた敵の隠密さん達を騎士さん達が連れていったけど、何が行われているかなんて考えたり想像したりしないのだ。
とかげの尻尾切りで切られた方の隠密さん達が「ヤミ」さんの特別な牢獄で綺麗に真っ白になるまで洗われちゃってるとか聞いてないったらない。
「大丈夫ですよぉ。綺麗に洗ってちゃんと落ちたらお帰り頂きますから」
って何をどうやったらそうできるのか。
城で捕まった隣国の手のものは借金やどうしようもない事情により縛られて言う事を聞かせられていたり、ちょっと怖い方だとマインドコントロールされていたりした。
危惧したとおりアステルガ王国はカーサルエ帝国に帰属するべきだとか、そんな思想に染められていた。
ヤミさんに協力してもらって、出来るだけ迅速に敵対分子を拉致したけど、やっぱり幹部クラスはさっさと撤収をしており、残っていたのはトカゲのしっぽさんだった。
私に政治の事はわからない。
私にわかる事は自分と自分の周りが平和につつがなくずっと続くという未来が、足元から揺らいでいて、思ったより脆弱だったという事実だけ。
カーサルエ帝国だなんて、私のばーちゃんのそのまたばーちゃんのさらにばーちゃん位に滅びた国だし、
周囲でもその頃の事を振り返って「あの頃はよかった」だの「昔はすごかったんじゃよこの国も」なんて言ってる人なんて一人も見た事も聞いた事もない。
それなのに…。
まるで過去の亡霊だ。
いつまでも怨嗟に満ちた呪いを吐きつつ見境いなく生者を攻撃する。
んー 亡霊というよりゾンビ?
「ゾンビ退治は別ゲームだからなぁ」
聖水や浄化で倒せる相手じゃないし。
カーサルエ帝国という名の統合を隣国は隣国の国民のすべては望んでいるのだろうか。
隣の国だというのによくわからない。
この国はこの国でうまくやってるし、今更かき回さないで欲しいのだけれど、隣国には隣国の正義があるのかもしれないけどね。
やっぱり私には関係ないし、って思っちゃう事はいけない事かな?
救いは、わたし達が行動を起こしてからは、不自然な王族への事故や毒の混入などという異常事態が収まった事だろうか。
私だって自国のトップが、血の繋がった者同士が血で血を洗う争いをしているなんて聞きたくもないし。
それが隣国の情報操作であっても。
それよりも、男爵家の手駒の一人として、敵に認識させるという作戦は成功したので、次の一手を打つ事にした。
私は王都の町へ出かける。
ある物を手にするため。
「いらっさーい」
やる気のなさげないかにも流行っていない感じの古物商。
主に、バッタもんの魔導書やいかがわしいいわくある武器や魔道具などを扱う店。
ここである物をゲットするために。
私の脳内に再びアナウンスが流れる。
「緊急クエスト:古物商の主人のために咳の薬を手にいれよう」
やっぱり、ゲームシステムでのクエストは生きているようだ。
このクエストを完遂するために、ゲーム時では王都中の薬屋を探し回ったものだ。
でもこれをクリアした事のある私は、正解を知っている。
クスリは薬屋ではなく、露店で売ってる品よりつくられるのだ。
「『変なきのこ』を手にいれた。」
ナッツや乾物を売っている露天商で、スライムの核とひきかえに『変なきのこ』を手にいれる。
こいつは水をかけられると爆発する。
この爆発によって発生した胞子を特殊な装置で集めて薬草液と混合し、希釈して飲むと咳の薬になるのだ。
「ありがとう!これはあのウォーキングマシュマロじゃないか!」
このきのこ、魔力の多く集まる所の木によく生えている。
たしかに、街に住んでいる人の手に渡るのは珍しいけど、冒険者をしていると、たまーに見かける。
よく森の中を日陰側に移動しようとして歩いているため、魔物の一種だと思われる。
かくして古物商から「世界のきのこ全Ⅲ巻」を手にいれる事ができるのだけど、これが高く売れるのよね。
今回はこれをルルに進呈する。
名前からしてきのこ図鑑かと思われがちだけど、これはきのこハンター「リュー」が世界を旅した時の紀行文で自費出版のため非常に数が少ない。
この中に余所の国で知り合ったきのこハンターの魔法能力について触れた章があり多分ルルの興味を惹くのではないかと考えたのだ。
もし興味を惹かなかったり、すでに読んでいたものなら売ってしまえばよいこと。
斜め読みするだけで知力もあがるので二度美味しいクエストで、プレイヤーはこぞってこのクエストに群がったものだった。
「まいどありー」
御礼の本と、その古物商で買える「白銀の矢」をつい衝動買いして、ほくほく顔で歩いていると、見知った顔を私は見つけた。
「…グレイブ?」
たしかに王都まで商人の護衛で出かけるとグレイブのお母さんから聞いていたけど。
この広い王都で出くわすだなんてあんまり考えていなかった。
私のマップにうつる光点はあの斥候役の女の子。
グレイブとパーティの他のメンバーには敵のマーカーはついていない。
「ふふふ…」
…私のマップは私の敵を判別しているようだ。
どういう基準かわからないけど、グレイブはまだ辛うじて「私の幼馴染」の範疇で敵ではないらしい。
でも女の子の方は私の事を傷つけたいほど嫌いらしい。
…少し気をつけた方がいいかもしれない。
またも心の汗が目から出てきそうになっちゃうけど、唇を引き結んで歩く。
せっかく高揚した気分がただ下がって最低だ。
「あるじ?」
様子の変わった私をレオが心配そうに覗き込む。
「へ、いき」
やっとそれだけ言うと私はグレイブ達に見つからないようにその場をあとにした。




