はじめての隠密4
「王城に潜む悪い人達をどうにかしたいと思って、ずっと試行錯誤しておりました。今回は私への姉からのプレゼントに毒蜘蛛を偲ばせたと思わしき侍女から辿って怪しい動きをする一味に目星をつけたのですが、性急に対応しすぎたのか、私の外出に合わせて実力行使に出てこられてしまったのです」
毒蜘蛛って…。今回は…とか。
王女様の生活が殺伐としすぎて不憫すぎる。
きっと真相に近いところまで近づきすぎて狙われたのでは?。
「その侍女は服毒自殺を図り、関係したと思われる人間も姿を消し、私への企みは減っていたので気が緩んでいたところを突かれました。と、思わせておいて本当は待ち伏せ用の信頼のおける隊を配置していたのですが。」
作戦は筒抜け、待ち伏せ用の騎士隊と分断されて窮地に陥ってしまったらしい。
この国の王族、危険すぎる環境にいるんじゃない?
男爵ジュニアもそうだけど、まだ10代そこそこでしょ?
「お願いです。城に潜んでいる敵を見つけ出して欲しいのです。裏ワザというのが何か、という事は決して詮索いたしませんから」
「王女殿下のお願いである。脅す気はないが、この件については貴女に拒否権はない。この国の国民なら当然受けて然るべき義務である」
うぁぁん
それ、脅してるというんじゃ???
ただの看板娘に何を要求しちゃってくれるんですかー?
とはいえ、ここでちゃんと出来る事と、出来ない事を言っておかないと、これって再現なく都合よくつかわれちゃうフラグじゃないかなー??
政敵が誰か調べよとか誰それの素行調査とか!!
「魔物と、私自身と明確な敵対関係にあるもの。それしかわからないわ。それでいいなら。そういう能力なのこれは。今回は隣国が私の後をつけまわしているから、それでその関係者がいくらかわかるだけよ。全てがわかるわけじゃないの、やや鼻が利く程度よ。」
「それでも、俺達には奴らの見分けすらつかなかった。俺達を襲った連中を見つけだしたその「裏ワザ」とやらを殿下の、いやこの国のために使うのだ。」
隣国の民とこの国の民は、ひと目でわかるような外見的な違いはない。
元はカーサルエ帝国というひとつの国だったのが二つに分かれただけだし。
あれ?今更だけど、隣国がこちらにちょっかいかけてきているのってそこら辺が影響してない?
「カーサルエ帝国の威光を再び」とか、「我が正統なカーサルエ帝国が王である」とか言っちゃってる危ない人が隣国にいたりするんじゃない???
ひぇぇぇ。
何それ、何そのフラグ。
そもそもカーサルエ帝国って、めっさ好戦的で拡大路線一本やりのあちこち遠征ばっかり行ってた国で
武力支配上等!の野蛮な国だったのを、クーデターで今の国と隣国に別れたのが国の起こりって歴史で習ったんだったー!!
「出来る限り、善処いたします。それには条件が…」
ゲームの記憶を持って産まれた事。
私には関係ないって思ってた。
私に出来る事はないって。
でもこうして次から次へと、ゲームで悲劇とされた事件の発端が目の前で展開していくのを見て、それに何もしないという選択は私には出来ない。
どうすればいい?
何をすればいい?
私は何のためにゲーム知識を思い出した?
私の脳裏に、ゲームの事を思い出すきっかけになったあのパレードが浮かぶ。
整然と行進していく兵士達の揃いの兜、鎧、馬上の騎士達の雄姿、そしてまだ幼さを残した銀髪騎士の顔。
そう、前世の推しがこれからトラウマの元と邂逅し、その輝かしい前途を塞がれてしまうのだ。
私が参戦することによって、マリエステル王女殿下と男爵ジュニアの命運が変わったように、今度の遠征の結果も代わるかもしれないし、変わらないかもしれない。
でも、それはやってみなければならない事だ。
今回遠征に参加している兵士さんの一人ひとりに、それぞれに人生があり、家族がいて夢や希望があって
…でも、この遠征で私がなにもしなかったら、ゲームのように大勢の人が死んでここに戻ってこない。
私が参戦することによって一人でも、死んでしまう運命にある人が生還できたのなら、第二週に突入する運命を変えられるかもしれない。
例えば…
マリエステル王女。
マリエステル王女は御年14歳。
王女方は皆粒よりの美女と美少女で知られているけれど、少々お転婆で自ら馬を駆る事もある長女のレスティナ殿下に比べて妹姫様達は大変大人しいと聞いている。
中でも3女のマリエステル王女は「慈愛の姫」として有名だ。
慰問やお見舞いに熱心で、よく怪我をした兵士や騎士が収容される療養院(入院施設のこと)や孤児院への寄付など熱心に取り組んでおられた。
特に退役騎士や退役兵士などに人気でアイドル的な崇め方をされていたはず。
なるほど、この人物がゲーム開始時には亡くなっていたため、微妙に士気が落ちていたんだろうなぁ。
彼女がここで生き残る事の意味、その結果がどうなるかは今はわからないけれど、少なくとも、彼女を「慈愛の姫」として崇拝している退役兵士さんや騎士さん達の心のよりどころになるだろう。
それにルル。ルルリア。
「西の塔の魔女」と二つ名を持つ彼女がゲームの本編に出てこなかったということは、今回の遠征で…という事も考えられる。
彼女の従者の「カゲ」「ヤミ」。彼、彼女らの能力の一旦を見てもこの遠征で失っていい戦力じゃぁない。
私がここで動かなければ、ゲームの世界が始まってしまう。
なーんてね。
そんな風に重たく考えるわけじゃないけど。
やってやろうじゃん。
私と私の家族の安全を守るついでに、抵抗してやろうじゃん。
ちょっとだけ、私の出来る範囲でだけ。
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その日、城内で神隠しが多発した。
ある者は王城での下働き、ある者は皿洗い係、厩や番。従僕。メイド。
それに天井裏や忘れさられた王族専用の通路などに潜む輩。
「志を同じくする仲間が増えてうれしいです」
「敵の敵は味方の論理ですね。このアルフレド・メディチ、フィリップ殿下とマリエステル王女様の手足となりましょう 」
王女殿下の騎士さん達と男爵ジュニアの騎士さん達がうれしそうに手を握り合っているんですけど。
まぁいいでしょう。
聞くところによると神隠しがあった日より、王族周辺への毒物混入、配下の不審な死、奇妙な事故などが目に見えて減ったとか。
どんだけデンジャラスな環境にいたんだと気の毒に思う反面、庶民で良かった~と思うこの頃。
さぁ援軍も手にいれたし、遠征軍をどうにかしないと。