第87話 柵燃えの原因は何?
「やあ、シェリィ。馬の調子はどうだい?」
町に入ると、皆シェリィに声を掛ける。
「え、ええ。元気……です。」
町民の反応に戸惑いながら、挨拶して回るシェリィ。
ラヴィがボソッとクライスに言う。
『町の人達、変じゃない?』
『何処が?』
『柵が燃えてるのよ?それに対する反応が無いじゃない。』
『燃えてないって事だろうな。』
なぞなぞの様な、それとも禅問答の様な答えを返すクライス。
分かりそうで分からないラヴィ。
トクシーが問い掛ける。
『人によって見える見えないの差がある、と言う事でしょうか。』
『そうですね。わざとそうしてるんでしょう。』
『では何故その様な差が……。』
ひそひそ話をしている内に、馬小屋へと着いた。
馬達を撫でながら、優しく言葉を掛けるシェリィ。
「大丈夫だからねー。」
そして、隣に建つ小屋のドアを開ける。
「どうぞ。汚くて申し訳ありませんが……。」
「お構い無く。そう言うのは慣れてるから。」
ズカズカと入るラヴィ。
旅の途中では野宿もしょっちゅう。
姫様とは思えぬ扱いが続いたお陰で、適応してしまっていた。
クライスも続く。
『さぞかしご苦労なさったのですなあ』と思いながら、トクシーも入って行った。
中に椅子は無い、ローテーブルがあるだけ。
「住まいは別に在るので、必要最小限の物しか置いてないんです。」
『お茶も用意出来ず、済みません』と謝るシェリィ。
「気遣いは無用よ。それより、話の本題を。」
ラヴィが促すと、皆床に座り込む。
そして聞く体制を取る。
コクンと頷くと、シェリィは話し始めた。
あれは、2週間程前でしょうか。
コンセンス家のお屋敷から、お使いらしき人が慌てて飛び出して行ったんです。
それと入れ替わる様に、たくさんの兵士達が町に入って来ました。
そしてあちこちの家を、宿場として没収してしまったんです。
追い出された人達は皆怒って、コンセンス家へ事情の説明を求めました。
しかし当主のフサエン様は姿を現しません。
どうなってるんだと騒ぎ出したのが、つい1週間ほど前です。
事態が好転しないまま、兵士達の我が儘勝手は続きました。
そこで町の有力者が集まって、話し合いをしたそうです。
『誰かが、この現状を訴える必要がある』と言う点では一致したそうですが……。
誰も声を上げませんでした。
兵士を纏める役の【ナス将軍】と言う人がとても乱暴で、剣を振りかざしては近付く人を追い払うのです。
彼からの報復を恐れ、皆押し黙ってしまいました。
私は兵士達から馬を預かりお世話をする係だったので、それとなく兵士に話をしてみたのですが……。
誰も私の話を聞いてくれません。
困っているそんな時に、突然柵が燃え出したんです。
頭がパニックになって、私は息を切らせながら夢中で走りました。
街道の途中で息切れし、傍の木に凭れ掛かりました。
あなた方に出会ったのはその時です。
後はご覧になった通り。
私にはどうする事も出来ません。
一体どうしたら良いのでしょうか……。
一連の話を聞いたラヴィが、真っ先に思い浮かんだ事。
面倒臭い事になってるわねえ。
クライスは、大方推測出来てるのかしら?
是非聞きたいわ。
うずうずしているのが分かったのか、ふうと一息付いてクライスは言った。
「確証は無いが、大体こう言う事だろう。」
ボソボソっと話すと、皆一斉に大声を上げた。
「「「えーーーーーっ!」」」
「確証は無いって言ったろ。だから……。」
「確かめるのね。将軍とコンセンス家へ。」
ラヴィが念を押した。
静かに頷くクライス。
「しかし、大丈夫でしょうか?それが本当だとすると、我らはかなり危険な立場に……。」
「どの道、接触は免れないでしょ?覚悟をお決めなさい。」
「……そうなりますか、やはり。はあ。」
ラヴィに諭され、ため息交じりのトクシー。
『あのー』とシェリィが、恐る恐るラヴィに尋ねる。
「わ、私に出来る事は有るでしょうか……。」
「勿論。町の人達に言って回って。噂になる様に。」
「何と言えば……。」
「そうねえ……何にしようか?」
肝心な所をクライスに振るラヴィ。
おでこに右人差し指を押し当て、少しの間考えるクライス。
そして閃いた。
「単純に《敵襲》で良いんじゃないかな。それぞれ心当たりがあるなら、何らかの動きを見せるだろう。」
「そこに付け込むのね。」
「まあね。シェリィ、済まないが『敵襲!敵襲!』って町中を叫びながら走り回ってくれないか?何なら馬に乗って。」
「馬、ですか?」
「その方がインパクトがあるからね。世話をしてる位だ、乗馬は出来るんじゃないかい?」
「え、ええ。お屋敷まで連れて行く時、馬の調子を見る必要がありますので。」
「じゃあ決まりだ。それにしても災難だったね。馬の世話をしていたが為に、火の精霊に目を付けられたんじゃないかな。」
「幻を見せる、ですか?」
「馬が落ち着いている所を見ると、危害を加えるつもりは無かったんだろうけどね。な?」
クライスがそう言うと、小屋の隅を見る。
そこには、ちょこんと小人の形をした炎が立っていた。
体長20センチ程のそれは、ペコリと頭を下げるとフッと消えた。
後には、少しの煤があるだけだった。
呆気に取られるシェリィ。
『ほら』とラヴィに背中を押され、シェリィはすぐに飛び出して行った。
ジロッとクライスを見るラヴィ。
「いつの間に連れ込んだの?」
クライスは知らん顔。
何処も燃えていない事に驚くトクシー。
と同時に、精霊と意識を交わすと言う芸当にも驚いた。
錬金術師とは、斯くも底知れない者か……。
目を丸くするトクシーに、ラヴィが。
「言ったでしょ?世界一そう言うのに愛されてるって。こんな芸当が出来るの、クライスだけよ。」
錬金術師が特別なんじゃ無い。
クライスが特別なんだ。
そう言いたかった様だ。
本人は嫌なんだろうけど。
それで救われてる部分もあるんだから、諦めなさい。
ラヴィは、クライスにそんな目を向けた。
小屋から出たシェリィは、すぐに馬へ跨り。
大声で町中を走り回った。
「敵襲!敵襲!」
それを聞いて、ざわつき出す町内。
特に以下の2勢力は。
コンセンス家。
ナス将軍とその周り。
その他大勢は、敵が誰なのか皆目見当が付かなかったので。
余り騒がなかったが。
兵士達は『ギャーーッ!』と叫んで、ナス将軍の元へ駆け寄る。
その光景を見て、クライスは考える。
まず接触すべきはあっちだな……。
柵の炎が見えている様だし。
だからあんなに動揺しているんだろう。
しめしめ。
その下衆っぽい不敵な笑みに、『またあ?』と思うラヴィだった。




