第88話 将軍は大根?
「将軍!如何致しましょう!」
「将軍、ご指示を!」
「将軍!」
兵士がどっと押し寄せる。
焦るナス将軍は、辺り構わず怒鳴り散らすだけ。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!お前らは俺の命だけを守れば良いんだ!いいか!」
ひょろひょろと集団に近付くクライス達。
ナス将軍の叫び声を聞いて、内心『何でこんな奴が将軍なんて地位に……』と思うラヴィ。
接近するにつれ、将軍の顔がはっきり見えて来た。
口髭と顎髭が貫録を出しているが、品を感じられない顔。
その顔を見てトクシーは感付く。
『こ奴、本物では有りませんぞ。』
『どう言う事?』
ラヴィが聞き返す。
『将軍と言う役職は、ある程度の戦果若しくは貴族などの地位が必要なのです。』
『まあ大体、国ってそうよね。』
『はい。ですから、私が見覚えの無い者は成れる筈が有りません。私の国内の地位は結構上なんです。』
『アリュースさんの傍に居られる位だものね。』
『恐縮です。なので断言出来ます。あ奴は雇われです。』
『そう言えば、シェリィが《剣を振り回して近付かせない》って言ってたわね。もしかして……。』
『偽物と分かる者を寄せたくない、と言う所でしょうな。』
『むきになる筈ね。クライス、こう言う事らしいけど。どうする?』
ラヴィが向いた先に、クライスは居なかった。
トクシーがラヴィの肩をバンバン叩いて『あれを!』と指差す。
ギョッとするラヴィ。
「何で勝手に行っちゃうのよ!」
しれっとクライスは、ナス将軍の傍まで来ていた。
周りの兵士に『ども、ども』と声を掛けながら。
戸惑う兵士達に構わず、将軍の傍まで来るとクライスは声を掛ける。
「難儀ですなあ。」
「何っ!いつの間に!」
クライスに向かって剣をブンッと。
シュッと姿が消えると、真反対側にクライスが居た。
「敵襲ですって。どうします?」
「うるさい!」
再び剣をブンッ。
またもシュッ。
今度は、跨っている馬の後ろに。
「ほう。良い鞍をお持ちですね。まるで新品の様。」
「な、何が言いたい!」
「それはこちらの台詞です。何をしにおいでになられたので?」
「決まっておろう!主君に忠誠を誓わず呆けておる者の処罰だ!」
「主君、ですか。それはどなたの事で?」
「勿論ダイツェンの支配者、【エルス・ゴウ・アストレル】様だ!」
「おや?ここにお住いのコンセンス家も、この辺り一帯の支配者ですが?服従せよと?」
「そうだ!来るべき日の為にな!」
「どの様な日かご存じで?」
「そんなもん知らん!知る必要が無い!」
『余計な詮索をすると斬るぞ!』とばかりに、剣を振り被る将軍。
その姿を見て、クライスは吐き捨てる様に言った。
「お偉いさんを演じるなら、もっとましな役者に頼むんだったな。あんたの雇い主も。」
ビクッとなる将軍。
『え?』と驚く周りの兵士達。
「まあ、聞けるだけ聞いたから良いや。それではまた。」
シュタッと右手を上げ挨拶し、困惑する兵士達の間をスルスルと縫う様に抜けて行くクライス。
少し遠くから唖然と見ていたラヴィとトクシーの前まで戻って来て、頭をポリポリ。
「いやあ、結構喋ってくれたよ。」
「馬鹿!」
拳を振り上げて大声で怒鳴るラヴィ。
『ごめん』と手を合わせ拝む様に謝るクライス。
「何かあったらどうするの!怪我じゃ済まないんだよ!」
「あ、それなら大丈夫。あいつ、馬の上での剣捌きに慣れてないらしいから。」
「確かに空振りばかりでしたが……。」
トクシーは、そう言った所で気付く。
なるほど。
馬上の所作を見て、既に偽物と見抜いて……。
それで遠慮無く近付いたと。
何と言う観察眼。
何と言う胆力。
繊細かつ大胆。
クライスの凄さの一端を、また見た気がした。
それにお構い無く、ラヴィはこっ酷くクライスを叱る。
「これからそう言うのは禁止!良いわね!」
ラヴィが念を押すが、クライスはそっぽを向く。
あー、こりゃ聞く気無いわー。
ラヴィは、そう悟ったが。
「聞く気になるまで何回も言うから!」
むきになっていたラヴィ。
ふふっと、つい笑ってしまったトクシー。
ん?
振り返る2人。
「こんな緊迫した状況で、その様なやり取りをされるとは。いやはや、何と頼もしい。」
つい笑ってしまった事を謝罪する。
でも仕方無い。
これ程余裕を噛まされると、誰でも笑ってしまう。
今は、そんな局面。
「とにかく、だ。」
クライスが仕切り直し。
「あいつがダイツェンからの刺客だと言う事は分かった。」
「まあねー。」
遠い目のラヴィ。
『頼むから機嫌を直してくれよ』といった顔をするクライス。
「それで次は、コンセンス家へ乗り込む。」
そう言って、トクシーの背中をポンポン叩くクライス。
「ビンセンスさん、あなたの出番ですよ。頑張って下さいね。」
「ク・ラ・イ・ス・も!頑張るの!」
他人事の様に言うんじゃ無いわよ。
そう言いたいらしい。
「しょうが無いだろ。俺より適任なんだから。」
「当然でしょ。」
クライスにをそう言うと、ラヴィはトクシーに囁く。
『ごめんなさいね。変な役回りで。』
『いいえ。望む所です。それにしてもご両人、仲がよろしい様で。』
また、ふふっと笑うトクシー。
恥ずかしくなって、『さあ行くわよ!』とコンセンス家へ向かうラヴィ。
感付いていない。
こう言う時だけ鈍感なクライス。
かの錬金術師様でも、乙女心までは読めませんか。
不思議な感じのするトクシーだった。
一方。
『敵襲!』と言う声に対する、コンセンス家の反応は。




