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7.陰謀 1/2

「トラッピングソイ、グロウ!!」

「え……?」

 ドールはこの遺跡で聖典(BL本)を拾った。だから奥地にあるこの開かずの扉に少なからぬ興味を持っていた。その様子は残念ながら隙だらけで、パティアの奇襲を受けることになっていた。


「なっ、何ですかこれは……っっ、ひぃっっ?! 鎧の中にっっ、やっ、ダメ……っ、ひゃあぁあぁっっ?!!」

 植物の白い芽が美しき聖騎士へとまとわり付く。トラッピングソイ、それはもやしだ。特殊なその大豆はツルのような性質を持ち、衣服鎧の内外を問わずグルグルにドールへとからみ付いていた。

 彼女以外の追手は今のところない。冬一を保護するべくそれはもう無謀なペースで走り、部下を置き去りにしてきたのだ。


「じゃあ、まずはオババ様の言い付けを果たさなきゃね」

「言い付け……?」

「お、おいっ?!」

 扉の向こう側には市営体育館ほどの広い空間があった。支柱らしきものはどこにもなく、その一番奥には荘厳な祭壇がそびえ立っている。

 祭壇は三対の階段を持ち、その最上部は天井近くまであった。それらの全ては白色金属で構成されており、あまりにこの世界からすると異質過ぎる。

 その祭壇へとパティアは一直線に駆け出していた。

 二人の視界はドールの追撃により後ろへと向けられていたが、それが部屋内部へと戻るととんでもない物体を発見する。


「なっ、なによアレっっ?!!」

「で、でかっっ?!!」

「貴様っっ、止まれっっ、ソレで何をたくらんでいるっっ!!」 

 祭壇の目の前には一体のアイアンゴーレムが沈黙していた。動き出す気配はなかったが、それはあまりに巨大で、全長11mという非常識な規模で部外者を威圧していた。

 巨大な破壊縋と、大型バックラー、合計四本の多脚式。双方の肩からは連装式の砲塔がせり上がっている。動き出せばヤバいことはどこの誰だってわかる。


「な~~~~んにも!! オババ様が取ってこい言ってたから持って帰るだけだよっ☆」

 入り口から祭壇まで80m少し。パティアの脚力ならあっという間だ。彼女はアイアンゴーレムを無視して、祭壇の中央上部までやってくると背後を振り向いていた。


「これはね、アグナの瞳」

 それからもう一度彼らへと背中を向けて、祭壇に鎮座された[アグナの瞳]へと両手を伸ばしてゆく。

 それは二つの手でやっと包み込めるサイズのルビーらしき真紅の宝珠だった。宝石の内部にはエルフの瞳のような楕円模様がいくえにも浮かび上がり、さながらそれは本当に瞳そのものに見えた。


「まっ、待ったー!!」

「ん~~?」

「私からもパティアちゃんっ、ちょい待ちっ!」

「え、なんで?」

 不気味なその瞳、アグナの瞳。それとそこへとたたずむ、巨大人型建造物。

 コンテンツによって微妙な違いはあれど、この組み合わせはいくつもの探検映画やアニメにて、もはやお約束として成立している。


「くっっ!! そ、それに触れないでくださいっっ!!」

 少年少女の背後でドールはもやしトラップから何とか逃れる。彼女は二人の隣まで駆け寄ってパティアへと説得を試みた。


「え、え? だからさー、なんでー?」

「オババ様が必要って言ってるんだから、持って帰んなきゃっ☆」

「いやだから待てっ! 頼む待て!」

「パティアちゃんっ、いい子だからちょっとだけ待ってっ!」

「んん~~?」

 しかしそのエルフはアホだった。秘宝と、アイアンゴーレムとの因果関係が、彼女の頭の中では数学式とならない。

 【祭壇 ― 秘宝 = トラップ発動】というシンプルな疑惑。疑惑でしかなかったが、彼らの目の前に立ちそびえる11m大のアイアンゴーレムはもはや圧倒的な脅威そのもので、絶対に動かしてはならないものだ。


「それを手に取ったら、もしかしたら大変なことが起こるかもしれない」

「大変なこと?」

「やっ、止めてくださいっ! ラクリスの地下でこんなモノが暴走したら……っっ!」

「だいじょぶだよ、オババさま嘘つかないっ!」

「だ、ダメぇーっっ!!」

 にへら~と華やかに笑い、パティアは彼らの制止も聞かず長老の方を信用した。


「ほらだいじょうぶ!」

 小脇に宝珠を抱え、パティアは祭壇から彼らの前へと飛び降りてくる。暴挙に制止者たちは言葉を失い、半ば硬直して彼女の顔を見つめていた。


「……ん?」

 ふと振り返る。背中の方向に魔力の高まりを感じたからだ。続いて、パティアは頭上を見上げ、アイアンゴーレムの姿を確認した。


『ブォォォン……』

 何かの起動音。魔力はゴーレムを中心に高まりそれが無尽蔵に上昇してゆく。


「あれれ……?」

 ゴーレムの暗い目元がとつじょ明るく発光した。鉄鎖がその巨体を大地へ杭打っていたが、それがバチリと千切れ、またある部分は床ごと盛り上がる!


「こ……このボケエルフがぁぁぁぁーーっっ!!!」

 11mというその巨体がその右腕のバックラーを高々と天へと掲げる。アイアンゴーレムはひとりでに動き出していた!!


「うわっわわっ、ちょっちょっとっ! これヤバイよっ、絶対ヤバイってこれぇっ!!」

「何てことするんですかっっ、貴女はっっ!!」

 彼ら四名は対立など忘れて足並みそろえてゴーレムから後退する。


「オババ様嘘つかない……。でもズルっこはする……パティア騙された……」

 オババ様はパティアがアホであるからこそこの任務を与えたのだ。彼女くらいのアホエルフでなくては、アグナの秘宝を回収しようなんて考えない。これは彼女を捨て駒としたエルフからヒュームへの報復だった!


「止める方法ないのっ?!」

「一度稼働してしまった以上、設定された目的を達するまでコイツらは止まりません」

「目的ってなんだよっ?!」

「ご、ごめんみんなっ、全部パティアのせいだっっ!! うきゃーっっ!!」

 そりゃもうパニックだ。彼らが対処を迷っている間にも、アイアンゴーレムを縛る拘束は次々と千切れ、その巨大縋を盾と同じように天へと掲げる。


「下がってください!!」

 ゴーレムからその縋へと膨大な魔力の移動を感知した。ドールの言葉に彼らがそこから飛び散ると、天にあった縋が災害となって落下してくる。

 打撃という想定を遥かに超えた、とてつもない爆音。

 その巨大縋は拠点破壊を想定したものだった。対象との衝突時に爆裂魔法が自動発動する設計で、それはもう振りかざす対戦車ミサイルと呼べてしまえるシロモノだ。

 石造りの床は薄氷みたいに簡単に割れて、彼らの手前で破裂した。


「ぬあぁっ?!!」

 石材の欠片が運悪くも少年の左胸へと飛び散った。本当にギリギリのところで少年はシールドにエンチャントをして、即死の窮地から逃れることに成功した。

 ……幸い他の者は無事だった。


「なんて桁違いの怪物です……っっ!! こんなヤツがもしっ、もしラクリスに登ってきたら……大変なことになる……!!」

 縋を振り下ろして重量級の敵は動きを止める。その隙を狙ってドールは剣を身構えた。が……。

 機械的な稼動音が不気味に増幅されてゆく。

 ドールはまた今度はゴーレムの肩に魔力の高まりを感知した。それは砲座の部分で、つまり、やばい。


「撃ってきますっっ!!」

「ひーーーっっ!!」

「ちょっ、ちょっとぉぉぉーっっ!!」

 カチリとゴーレムの肩から乾いた切り替え音が響く。砲座は敵を狙って角度を変え、停止した。

 停止と同時に連装式のフレイムアローが冬一少年目がけて発射される。合計12段連射の炎の矢が逃走する彼の足元を、首筋を、頭、胸、腰すれすれを次々とかすめる。


「どわちゃぁぁぁぁーっっ?!!」

 お肉もこんがりな強火が彼をたっぷりとあぶる。エルヴン・クロースの魔力がなければそれこそカツオのたたきみたいな、絶妙の焼け具合となっていただろう。


「よくも我が神を!! 征けっっ、マジックアローッッ!!」

 少年を狙う間、たっぷりとゴーレムには隙が出来上がっていた。ドールは空中へと紋章を刻み、得意のマジックアローをアイアンゴーレムへ撃ち込んだ。

 普段の活用よりさらに矢の数を9つに増やしたそれは、ゴーレムの巨体へと吸い込まれる。


「え、ええええええーっっ?!!」

「ぶぅぅ~~!」

 その無慈悲な破壊力は誰もが知っているところで、その場の全てがマジックアローに希望をたくした。

 だが、はかなくもその希望は砕け散った。アイアンゴーレムの盾は縋同様これもけっしてただの盾ではなく、アンチスペルのコーティングが施された魔法盾だった。マジックアローのエネルギーは中和され、盾の上で中途半端に爆裂した。


「バカなっっ!!」

 ゴーレムも盾も無傷だ。


「――ッッ?!!」

 もう片方の砲座がドールを狙い、魔力を装填し、回避運動をするドールを強制追尾する。


「ここまで回り込めば……っっ、えっっ?!」

 アイアンゴーレムの背後に回り込めば、砲座は構造上追尾し切れないはずだった。

 大地が突然揺れる。震源地へ視線を向けると一本の杭が打ち込まれており、それを軸に鉄の巨体はぐるりと高速旋回した。


「危ないっっ!!」

 援護の青龍刀はゴーレムの背後より背中を斬りつける。それも背中へ折り曲げられた腕によりシールド防御され、ほんのかすかにだけ盾に損傷を与えた。

 連装式のアイススピアがドールを狙う。


「っ、ぅっっっ~~!!」

 合計12弾の氷柱は前半9発は何とか回避されたが、残りの3つは聖騎士の盾を捨てる結果となった。アイススピアを受け止めた盾は貫通こそしなかったが、ひしゃげて、あっという間に捨てたその場所で氷漬けとなってゆく。

 範囲攻撃として破壊槌がすみれやパティア周辺へと振り下ろされ、彼らはアイアンゴーレムの圧倒的な超火力に翻弄されていた。


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