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6.古代の遺産

 追撃はなかった。途中からペースを駆け足から通常歩行に変更して、彼らは体力を温存することにしたようだ。現在の道は巻貝状の大型螺旋階段となって、一行はさらに深く深く遺跡の下層へと進み続けた。

 この遺跡が人工物なのは間違いない。が、一体誰がどうやって何の意図で、こんな深い地下構造物を生み出したのだろうか。


「ここはね、オババ様たちと一緒にこの世界に現れたんだって」

「ふーん……」

「こんなデカイのが? すげぇな、ド迫力だな」

「詳しくは教えてくんないけどね~☆」

 螺旋階段をさらにぐるりぐるりと回る。

 ただただひたすらそれを下りてゆくと、ようやく終着点が見えてきた。彼らはラクリス中心地の丘より、地下130mの座標に達していた。


「なにこれ?」

「でかいな……」

 階段を抜けると通路は広々と20m近くの横幅を持っていた。天井も高くだいたい15m前後はあるだろう。蝶の碧い照明はその広さに光を奪われ、逆にどこか薄暗い印象を与えていた。

 その通路のど真ん中に、巨大な台座と、台座の床に広がる緻密な魔法陣がほのかな光を放っていたのだ。


「これは……えーと、多分……転送法陣……かも?」

「わ~~……初めて見たーー……」

「これ使えば地上に戻れるのか?」

「……さあ? 地面の中に飛ばされたりして、うぷぷっ♪」

「怖っ!」

「使ってみる?」

「却下だ却下っ!」

「だ~~よね~☆」

 転送方陣への興味は一気に失われて、彼らはまたさらに奥へと進んでいった。その法陣といい、どことなく最深層らしき匂いが立ち込めている。


「……ねね、上の方で音がしない?」

「うそ……うわ、しつこ……っ」

 ピクピクとエルフの両耳が上下して上層からの物音に気づいた。

 耳をよく澄ましてみると、人間の聴力でも確かに何かが聞こえてくる。それだけ地下遺跡は足音と金属音、静寂だけがあふれていた。


「じゃあ、少し急ぐか」

「うん、そうしよう!」

 既にかなりの距離を稼いでいる。長い長いその大通路を再び駆け足で進んでゆくと、その最果てにまた得体の知れないものが待ち構えていた。


「……ナンコレ?」

「いや、パティアが知らないなら俺ら知るわけないし」

「なんか……ヤバそう……?」

 何が得体が知れないってその必要性だ。それはたった一つの金属扉で、けれどあまりに巨大なものだった。

 天井の15mギリギリまで大扉はそびえ立ち、そのほぼ全ての表面から無数の魔法陣が起動されている。真紅に発光するそれらは彼らの視界をたちまち一色に染めた。

 長老がパティアに授けた碧い蝶はその扉の目の前で本来の姿へと戻る。それはエメラルドのブローチで、その扉そのものへと人を誘導する魔具だった。


「いかにも開封厳禁、って見てくれだよな」

「うん……でも他に道もないし……どうすれば開くのかな……?」

 二人の会話を受けてパティアはその扉の片方へと両手を突く。さすがの彼女も大げさな紋章術に警戒気味だ。触れていても何も起こらないことを確認する。


「……開かない」

 確認の手順を踏んでから、腰を低く落としてパティアは扉を押し開こうとしたが、さすがの彼女の力でもこの規模の金属扉が開くはずもなかった。


「どうしよう、このままじゃまずいよね」

「……。なぜこのメンバーにインテリ系エルフがいないんだ……」

「えへへ~~、呼んだぁ~トウイチぃ~?」

 扉を諦めてパティアは明るく少年へと振り返る。


「いやいや、チミほどエルフとほど遠いエルフもいないから」

「むーー……そう言われるとなんかしゃくに障るなぁ……」

「実はこれ彫刻で、他に隠し通路あるとかないよね?」

 すみれも扉の目の前へと近付いてキョロキョロと左右上下を見回した。魔法陣の光がまぶしそうだ。


「おお、新学説! んでもさ、この扉からはすっごく強い魔力? みたいなのを感じるよ?」

「ふーん……」

 隣のパティアへと振り向き、すみれもまたおっかなびっくりと扉へ触れる。金属製のそれは、ひんやりとした地下遺跡の内部だというのに生暖かい熱を持っている。


「とにかく自動ドアにしたってさ、なにかキッカケがあって開くんだから……って、きゃっ?!」

 その瞬間、一斉に扉の魔法陣がグルグルと転回し始めた!

 それはチカチカと真夜中のテレビみたいに暗闇に光り輝き、彼らの視界を真っ赤に焼き尽くす。


「うわっうわわっ、ちょっお前っっ、何したーーっっ?!!」

「私が知るわけないでしょ!!」

 トリガーはすみれそのものだった。彼女の何かを、もしかしたらインパクト・Oを感知したその扉は、やがて重々しい轟音を響かせる。


「おお~~~っ!」

「あ、開いたぁっ?!」

 魔法陣が一斉に消滅する。

 ゆっくりとゆっくりと巨大な金属板は奥へと動き出し、その扉の隙間から明るい室内光を吐き出した。

 彼らがその一部始終に見とれていると後方より重たい足音が近づいて来る。


「こ、これは……っ!」

 ドールは立ち止まり自分の目撃しているものに驚愕した。


(開かずの扉が……開いてゆく……!!)

 ヒュームの手ではどうにもできなかったそれが、塔ヶ島すみれの存在によっていともあっさりと開封されてゆく。

 エルフの長老ファネルは、彼女が鍵となることを知っていたのだ。


「わぁお……」

 その遺跡はエルフのものでも、ヒュームのものでもなく……彼女、塔ヶ島すみれの血筋が生み出した遺跡だった。


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