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3.その後の湖畔 2/2

「あ、そうだ」

 最後の木の実一粒を、パティアはしめしめと爪で弾き、大地へと倒れ込みながら口で受け止めた。そこまでいって今さら何かを思い出す。


「オババ様がね、突入前にもう一度装備の説明しろって」

「ああ、これ……? 言われてみれば、私も聞きなおしておきたいかな」

 パティアの言葉に、すみれはマジック・バンクルを巻いたその腕で、今の衣服をつまむ。エルフの里で新調したものだった。


「俺、説明書とか読まないで楽しむ派なんだけどな」

「命かかってんだから、アンタそんくらい聞いときなさいよ……」

 彼もその衣服と腰の物を確認した。口とは裏腹に興味はあるようだ。


「えーと、じゃあ……あった、今からオババ様のメモ読むね」

(記憶力とかは、完全に諦められてるんだろな……)

 脳筋エルフは道具袋をまたさぐり、メモを朗読し始めた。


「最初は今二人が着てる服[エルヴン・クロース]の説明みたい」

「――エルフ族の布服。潜伏、隠密の魔法がエンチャント(付与)されている。どのエルフの服にも付与されているが、二人のこれは特に効果が高い。聖地進入のためのキーアイテム。弓の軌道を少しだけそらす効果もある。あと~~すみれのはちょっと特別で、とっさに胸が開けるようになってるんだって」

 彼女の胸元だけ、一本のヒモが長めに伸びており、結びを強く引っ張るだけで胸部の露出が可能な優れ物だった。


「わーーー……何度聞いても複雑……。こんな便利期待してなかったし……」

 胸を露出するための構造を持った冒険者服。年頃の女の子が着るには刺激的過ぎるし、何よりもシュールだ。


「で、まずはすみれの方からね」

「[エルヴン・ショートボウ] 非力なエルフでも扱い引けるように、魔法補助がかけられたもの。魔力を持たない人間を沈黙させる力を持つ。携行性に優れ、だが射程や精度も十分で潜入向き。職人が時間をかけて制作する機密軍事品なので、奪われそうになったら迷わず破壊すること」

 すみれに与えられた武器、エルヴン・ショートボウの説明。彼女は相手が人間だろうと、自分のおっぱいのためならぶっ放す覚悟だそうだ。

 弓そのものはシンプルな短弓で、特殊な植物を加工した銀色の弦が辛うじての特徴だ。


「で、次が[マジック・バンクル] エルヴン・ショートボウを使うための魔力補助、身体能力強化、衝撃ダメージ耐性効果を持つアクセサリ。ただし斬撃や突きなどには効果不十分なので、注意するように」

 すみれは陸上部のエース。その彼女に、さらなる身体能力を与えるアクセサリーが装着されていた。


「これは結構気に入ってるかな、かわいいし、効果地味凄いし」

 金色(真鍮)の腕輪にオリエンタルで呪術的な彫金が施されて、さらに魔力増幅としてエメラルドやサファイアがはめ込まれた工芸品。

 繊細で綺羅びやかなその姿に、すみれはずいぶんと惚れ込んで大切に見入っている。


(ツッコミの鋭さも五割り増し!! はっきり言って迷惑です、オババ様っっ!!!)

 ツッコミの破壊力換算で、50%もの強化を証明した危険物でもあった。


「でで、冬一の装備ね、今もってるその剣が……」

「[ミスティン・ショートソード] 見て通りの肉厚幅広なショートソード。ミスリル銀とスズ《ティン》のの合金。外見よりずっと軽量で、重さは2kgと少し。硬度が高く、使い手の魔法をエンチャントできる。つまりトウイチの場合、ネバネバエンチャントだね」

「そんなカッコ悪い魔法剣、正直要らなかった!! 完全にネバネバ戦士化してるし俺っっ!!」

 ショートソードにはミスリルの色合いがほのかに残り、白銀色に薄く薄く緑色が入っている。


「あたしは面白そうだしいいと思うけどな~~♪ あ、それで次ね、その盾」

「[ミスティン・シールド]ショートソードとのバランスを想定して、重量は1800gほどに仕上げた。布製の裏地に合金の板を重ねたもので、手の甲から肘までを保護する。盾というより、活用方法は鉄甲に近い。こっちもぬるぬるエンチャントが可能だって。カッコいいねっ!」

「頼むからぬるぬるエンチャントとか言うなぁぁーっっ!!」

 少年は頭を抱えて、変態的としか言いようのない自分の資質に苦悩した。先ほども仲間に粘液をまき散らした後であったし、極端に迫害を恐れる被害妄想系だった。


「あとはその[ライトレザーアーマー] + [グローブ] 運動性重視の、胸と肩で独立しているレザーアーマー。グローブは同じ素材の、斬撃戦を想定した防護装備。強度は高く、数回くらいなら刀傷を防いでくれる」

「難点は……蒸れるところ? ワキガとか打撃との相性×だって。クンクン……」

 とか言いながらパティアは鼻を近づける。犬みたいに。


「か、嗅ぐなよおいぃぃっ?!」

「ちょっ、パティアちゃんっっ?!!」

「ん……結構好き系……?」

「匂いの感想も困るからっ!! これセクハラだからっっ!!」

「トウイチの匂いなら全部好きだけど、これはその中でも結構好き系……?」

「人の話聞けよぉぉぉっ?!!」

(ぜ、全部ってっっ!! 全部好きってっっ、ううぅぅぅ~~!!)

(やっぱりパティアちゃん油断できないっ!! これは、わ、私のモノなのにっっ!!)

 オババ様の親切心は以上だった。これら装備の代価は、彼らの持ち寄ったダイヤと、エルフの世界では貴重な[純銅]、つまり銅の剣で支払われた。

 ノーマンズランドでは銅の算出が限られており、亜鉛との合金である真鍮は、高品質の金属魔術具などに有用なのだ。


「ってことで!! すみれすみれ、一緒に水浴びしよーっ!!」

「……え?」

「一緒に入るって言ったじゃん! ご飯終わったし二人で気持よ~くなろ~~っ♪!」

「え、あ、う、うん……」

 チラチラとすみれは冬一を盗み見て、それからモジモジと頬を朱色に染めた。


「み、見ちゃヤダからね……? あっち、行ってて……」

「だからそんなロケット見てどうすんだよ。むしろ可能な限り距離を取りたいくらいだから、安心しろ、絶対にのぞかない」

 しかし少年はまだ若く、女心を全く理解しなかった。


「っ、ぅぅっっ~~!!」

 すみれの瞳はたちまちつり上がり、怒りと悔しさのあまり、ギュッとエルヴン・クロースのスソを両手で握り締める。


「何よっ、変な汁ぶっかけたくせにっっ!! 早くあっちいってバカっっ、冬一なんて大っ嫌いっっ!! 嫌い嫌い嫌い嫌いっっ!!」

「あ、じゃーちょっと行ってくるね~! トウイチも今度一緒に入ろっ、二人だけのナ・イ・ショ……でへぇー♪」

「パ、パティアちゃんっっ!!」

「いや、尻の穴まで観察されかねないので、むしろがっちり遠慮しとく」

 女子二人の姿は湖畔の茂みへと消えて、やがてカチャカチャと金属鎧と布を脱ぐ物音が鳴った。やがて水面がパチャパチャとはしゃぐように鳴って、少年は億劫にそこから遠ざかっていた。

 余計なものを目撃して、おっぱいロケットが飛んできたら大変だ。15mほどその湖畔から遠ざかって、木々がちょうど死角となる水辺を見つけると、少年はもう一度水筒に飲料水を汲みなおしていた。

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