第3話
諸君! お待ちかねの進化先だ!
前回どう見ても何らかの力が働いて弱った格上モンスター、スクラップスネークを洲倉 風は撃退した。
彼は現在、スクラップスネークの遺体の中に潜り、新しい指に合う部品を探しながら、声と共に進化先を悩んでいた。
「どれかにしないと、駄目?」
《回答》
《はい。現在の所、進化出来るのは以下の四つのみです。
進化先A:スクラップゴーストリーダー
スクラップゴーストの強化種。Levelによって他のスクラップゴーストを従わせられる。リーダーの証は頭に巻いたバンダナ。
進化先B:スクラップビースト
獣型のスクラップモンスターの原点。比較的安定しているが、最終進化が長い道のりになるのは確実だろう。
進化先C:スクラップリッチ
スクラップゴーストが闇の力に侵された姿。これで彼には成仏する道はなくなった。魔法などは使わないが、闇夜に紛れて襲ってくるぞ。
特殊進化先D:スクラップファイター
【スキル:強敵殺し】を持っている個体に許された特殊進化。ファイターの名の通り、スクラップと言えど、その身体は鍛えられ、これから更に硬く、強くなるだろう。
どれに進化しますか?
AorBorCorD?》
かなり豊富な進化先に悩んでいたのだ。
特にBとD。と言うのも現在の彼のステータスを見れば悩む理由もわかる。
────────《ステータス》───────
種族:スクラップゴースト《個体名:洲倉 風》
Level:05/05
経験値:50/50
体力:20/20【高】
スタミナ:30/30【高】
魔力:00/00【並】
攻撃力:20/20【高】
防御力:26/26【高】
スピード:25/25【高】
生命力:01[×5=2|<9々/〆|2々48=5【究極】
────────《スキル一覧》───────
強酸防御:酸による肉体の損傷を無くす。防御力に補正【+10】。9/100
昏睡耐性:あらゆる現象、攻撃に気絶しなくなる。防御力に補正【+5】。1/100
運動効率:運動効率を上昇させ、スタミナの消費を軽減させる。スタミナとスピードに補正【+10】。67/100
来訪者:他の世界よりやって来た来訪者自身や魂に与えられるスキル。一部スキルが優遇される。スキル経験値なし。
未練:死者限定のスキル。この世にやり残した未練が残っている者に与えられるスキル。未練が満たされた時、君は進化する。0/100
ステータス閲覧:来訪者専用のスキル。自分のステータスのみ閲覧できる。スキル経験値なし。
○○の声:来訪者専用のスキル。あらゆる問いに答え、明確な正解を返す声が聞ける。スキル経験値なし。
強敵殺し:自分より格上の敵を倒した者に与えられるスキル。どんな方法であれ、勝利は勝利だ。攻撃力に補正【+10】。体力に補正【+10】。
【常時発動】【自分よりLevelの高いモンスターに与えるダメージ量がX倍になる。
X=(《スキル取得時に倒した敵のLevel》−《スキル取得時に相手を倒した時の自分のLevel》)】
──────────────────────
そう、防御力だけなら弱った状態のスクラップスネークでさえ越えているのである。
しかも新しいスキル、【スキル:強敵殺し】の効果により、地表部分に生き残っている他の強敵達に自身の攻撃力の9倍のダメージ=180ダメージを確実に敵に与えられる攻撃力まで得たのだ。
「う〜ん、保留にしておく」
《了解》
《進化先についての返答は保留にします》
彼の判断は正しいだろう。何せ特殊進化の先が読めない名前だと、下手をすればその一回きりの進化でお終いに成りかねないからだ。
「せめてスクラップモンスター系の特徴か進化先でも分かればなぁ……」
腕を組みながら胡座をかいてそんな事をのたまう洲倉 風。
あ、またこいつの直感だ。
恐ろしい! このスクラップゴーストが儂ゃ恐ろしい!
《回答》
「お! 答えてくれんの!」
《スクラップモンスターとは、ストーダ大廃棄場に投棄され吸収された遺体や魂にゴミが新たな肉体として形作られたアンデッド系に属すると考えられているモンスター。
広大な土地に様々な種類がいる為、未だ未発見の種の発見の可能性も残る奇妙なモンスターの種類を呼びます》
何だ、隠れスキルは言わないのか。
《隠されたスキルとして、全てのスクラップ系モンスターには、自らの肉体を他のスクラップと交換できる【換装】があります》
言ったぁぁぁぁぁぁぁ!!??
「え!? そんな便利な機能があるならもっと早く言ってよ!!」
《回答》
《私は質問をされなければ答えられません》
「へぇ〜。
……じゃあ、俺の事好き?」
《はい。お慕いしております》
「……お、おう、あ、りがとぅ」
押し黙り、静かになるが空気はどこか甘酸っぱい。
……なに甘い雰囲気になってんだ。なに告白してんだ。お前も照れるな。時計の針が高速で回り続けてるぞ。それを嬉しそうに見るなよ。
丸わかりなんだよ! どちくしょう! (泣)
「あ! 頭を換装しても平気か?」
ちっ。良い所に気が付いたな。この野郎。
《はい。頭を連想させる物、形であれば換装は可能です》
「あ、じゃあ、……コレとか?」
《可能です》
そう言ってスクラップがスクラップスネークの中から取り上げたのは、今の自分の頭より遥かに硬い中世ヨーロッパの兵士が身に付けるような頭部防具。
ゴロン! と洲倉 風が持ち上げた頭部防具から何かが飛び出す。
「え?」
それは人の頭蓋骨だった。しかもかなり腐敗が進み、蛆虫が蠢き集っている。
「どひぃぃいいい!?」
仕方ない事だ。一般市民として生活してきた男だ。こんな叫び声を上げ、尻餅をついて後退してしまうのが普通の反応だろう。
「ムシィいいいいいい!!??」
そっちか!? 人間の頭蓋骨に関してはスルーか!? 精神までモンスターに近付いてないか!?
「虫はぁ!? 虫だけはぁ!?」
そんなに嫌か。
今もなお後退しながら、叫び続けるスクラップゴーストは手に持っていた頭部防具を投げ捨て、更に発狂している。
「やばい!触れない! もう頭部防具には二度と触れない!」
……弱点、虫、と。……ハッ!
ごほん。さて、そんな彼の元に今度は可愛らしい珍客が現れた。
「ピピ?」
「ふぉおう!?」
彼の肩になっている掃除機のタイヤ部分越しに不審な羽音と愛らしい声。
その音に今度は虫系のスクラップモンスターか!? と彼が思ってしまうのも無理はない。
しかし、彼が素早く今度は頭からスライディングを決め、振り返った先にいたのは、スクラップで身を包んだ妖精。
その名もスクラップフェアリー。
ストーダ大廃棄場は平等だ。善も悪も纏めて吸収する。その具体例が彼の目の前にいる彼女の種族、妖精だった。
スクラップフェアリー
人間に羽を毟り取られたフェアリーの末路。彼女達は失った羽根をスクラップで代用され、ストーダ大廃棄場で彷徨い続ける。仮に外に出ても、かつての仲間達からすら嫌悪される。
その身からスクラップが落ち切ったとしても。
「お、お前、妖精か?」
「ピピ♪」
そう言われた妖精は壊れた扇子で出来た羽で彼の周りを飛び回り始める。彼の傘製の両脚の間を抜け、胴体の型落ちした掃除機の丸みを帯びた背中を指先でなぞりながら、壁掛け時計で出来た顔の前で止まり、なんと時計盤の6の部分にバードキスをした。二、三度もだ。
どうやらこのスクラップフェアリーは洲倉 風に妖精、と呼ばれた事が嬉しかったらしい。それにより彼に季節外れのプレゼントが与えられた。
《スクラップフェアリーをテイムしました。
スクラップフェアリーのステータスを見られるようになりました》
《妖精の加護を得ました。妖精の愛を得ました。妖精の心を得ました》
新たなスキルと、初めての仲間が彼に出来た。
まぁ、嫉妬全開で仕事をしなかった点は褒められていいと思うよ?