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第2話

 

 強酸耐性と気絶耐性により大自然の拷問にあったスクラップゴーストの洲倉(すくら) (ふう)


 今、彼は自らの可能性を知る事になる。


「もしかしたら、ラノベみたいになってんのか?」


 この男、その突飛な発想は良くも悪くも周りに影響を及ぼした。


 異世界にいる今はもう関係ない事だが、彼が何とはなしに言った発言により、彼の友人は夢を追い掛け、上司に派閥争いの引き金を引かせ、彼を嫌っていた同僚が辞職した。


 そんな彼は如何やらこれからステータス一覧を見るための呪文のようなものを唱えるつもりらしい。この世界でそんな事を言う奴は皆無なのだが、面白いので観察を続けよう。


「それじゃ、まずは定番の、……ステータス!」


 彼の目の前にステータスと思われる半透明な光の板が浮かび上がる。


 あれ? 仕様が変わった? なんで呼び出せるの?


「おぉ! 出た!……え?」


 彼は自らのステータスが書かれたその板を手に取り、じっくり見た。そして、そのステータスに驚いた。


 さて、こちらが皆様お待ちかね、スクラップゴーストになった男の現在のステータスだ。


 ────────《ステータス》───────


 種族:スクラップゴースト《個体名:洲倉 風》


 Level:01/05


 経験値:00/01


 体力:04/05【中】


 スタミナ:05/15【高】


 魔力:00/00【並】


 攻撃力:01/01【並】


 防御力:14/14【高】


 スピード:15/15【高】


 生命力:01[×5=2|<9々/〆|2々48=5【究極】


 ────────《スキル一覧》───────


 強酸耐性:酸による肉体の損傷を無くす。強化版。防御力に補正【+10】。99/100


 気絶耐性:あらゆる現象、攻撃に気絶しなくなる。進化可能【昏睡耐性】。防御力に補正【+2】。100/100


 運動効率:運動効率を上昇させ、スタミナの消費を軽減させる。スタミナとスピードに補正【+10】。60/100


 来訪者:他の世界よりやって来た来訪者自身や魂に与えられるスキル。一部スキルが優遇される。スキル経験値なし。


 未練:死者限定のスキル。この世にやり残した未練が残っている者に与えられるスキル。未練が満たされた時、君は進化する。0/100


 ステータス閲覧:来訪者専用のスキル。自分のステータスのみ閲覧できる。スキル経験値なし。


 ○○の声:来訪者専用のスキル。あらゆる問いに答え、明確な正解を返す声が聞ける。スキル経験値なし。


 初回限定説明:来訪者専用のスキル。


 ステータスとはその生命が元々持つ力を表す。表示される数値は同種族の同レベルの個体の平均値と比較した場合である。


 最高>高>上>中>並>下>低>微々>皆無


 究極は、最高すらも霞む(いただき)である。汝、力に溺れるなかれ。


 スキルとはその生命がこの世に生を受けたその日より、どんな形であれ己が努力によって与えられる力である。※以後、このスキルは自動的に消去されます


 ──────────────────────


「……ほとんど雑魚なのに、なんで一つだけ究極があるんだ? これって文字化けしてるよな?」


 その声に答える声はない。


 《回答》


 あれ!? 出てきちゃうの!? 判定ゆるくない!? 君、来訪者が困窮した時だけの限定は!?


 その声に応える声はない。


 そして、声は彼の問いに答え始める。


 《貴方の元々持っている直感がもはや野生動物に近しい為、生存本能、生殖本能、摂食本能などを司るステータス、生命力に多大な影響を及ぼし、数値では表しきれず、究極と表示されています》


「あの、あんたは女神様? それとも俺の頭の中の人?」


 《どちらでもありません》


 声の主はスクラップのさらなる問に明確な答えは避け、かと言って誤魔化す回答もしない。


 女神様と言われて嬉しがるなよ。私情が入りまくりですな。実にけしからん。


「ふ〜ん、まぁ、どうでもいいや。


 初回限定説明の上にある○○の声ってスキルがあんただろ?


 なら、教えてくれよ。俺は死んだんだよな? なのにどうして生きてる?」


 《回答》


 《はい。貴方は確かに自分で蹴った冷蔵庫が倒れ、開いたドアに頭を打って頭蓋骨陥没で死にました。


 何故生きているのかは、貴方が死んでしまった場所です。貴方はごみ捨て場で死にました。それによってゴミ捨て場に貴方は投棄された判定になりました。


 それによって異世界の此処、ストーダ大廃棄場に貴方の魂がゴミとして吸収されました》


「今、天使の様な声で人の魂をゴミって言ったか!?」


 事実だ。彼は善人の範疇ではない。敵にも獲物にも容赦せず、だからこそ、身内には愛を持って接する傲慢。


 あのゴミ捨ても悪態を吐いていたが、それなら最初からやらなければいいだけだ。態々、素手で持っていかなくとも台車や道具を使えば良かった。家族に頼まれた通り、実家に到着して直ぐゴミ出しに行ったのは、家族との時間をゆっくりと過ごしたかったから。


 まぁ、彼はそれを一笑に付すだろうがね?


 《肯定》


「肯定すんな!?」


 《ストーダ大廃棄場はこの世界で古くに形作られたわけではなく、比較的新しいダンジョンでありながら、広大な土地を侵食しています。


 その特徴が吸収です。土地自身があらゆる物を吸い寄せ、土地の奴隷にするのです。この表層部はあなたの世界のゴミの一部が流入し続けて形成された攻略が簡単な部分です。しかし、下の方にはドラゴンなどの遺体を吸収し、ここのゴミと混ぜたスクラップドラゴンなども出ます。


 貴方の魂は表層部のゴミによって形成されたスクラップゴーストの肉体に吸収されたのです。最下級モンスターに貴方はなった》


 そう。それが彼の真実。群雄割拠のモンスターが下層に蔓延るストーダ大廃棄場で彼は生き残らねばならないのだ。


 その聞かされた事実に暫く彼は放心していたが、やがて次の質問を投げかける。


「あぁ……。このステータスで、生き残れる確率は?」


 《確率計算中……》


 彼女は一体どうするつもりだ? 正直の話すか? それとも嘘を織り込むか?


 《……計算完了。現在の生存確率は0.001%。無茶や無謀、貴方の行動や性格なども加味すれば、ほぼ0%です》


「ふぅん……。ま、そんなもんだよな。仕方ない」


 もはや諦め、既に固った地面に胡座をかいていた体勢から仰向けに倒れ、丸型の壁掛け時計の頭の後ろに、平たい鉄板の指で作られた両手を回し、寝転がる。


「ねぇ? 経験値ってさ? 罠とか使って倒してもちゃんと入る?」


 いや、この男にそれはない。この男の中に諦めや逃げは一切ない。


 何せ、もし人としての目があれば、目の奥に見える炎が見えた事だろう。


 《回答》


 《入ります。そして、恐らくスキルも増えます》


「よし! じゃあ、今できる効率のいい罠、教えて」


 《了解》


 《報告


 現在周囲にいるモンスターは少数です。そして殆どが表層部の中では強靭な部類に入るスクラップモンスター達です。罠の威力は彼らを屠れる物をお望みですか?


 YESorNO?》


「もちろん、YESだ。それと昏睡耐性への進化もYESだ」


 最下級モンスターの強敵殺し(ジャイアントキリング)が始まる。


 《了解》


 《同時進行で行いますか?》


「イエス。それと一番近いモンスターまでどの位だ?」


 《受諾。同時進行で三つの処理を行います。それにより数分間の間、不通状態になります》


「……え?」


 その言葉に


 まぁ、寝転がりながら出来るほど人生、いやモンスター生は甘くない。それにより彼はまたもピンチに陥る。


「フシュルルルルル……!」


 かのモンスターは全長5mはあるスクラップの固まった長い胴に、黄色く発光しているカメラのレンズの瞳、あらゆる廃材が寄せ集まって出来た頭、大きく開いた口の中には獲物の匂いを感じる為の自転車のタイヤのゴムで出来た舌。


 中級にそこそこ近い下級モンスター、スクラップスネークがスクラップゴーストを見つけた喜びで臨戦態勢に入っていた。


「……な、なるはやで、処理して! 俺は逃げる!」


 そう言い、彼の野生動物並みの直感は相手が格上だと理解し、次の瞬間に走り出した。


 今は何の力もない彼には逃げる事しか出来なかった。


 しかし、自ら進んで狩りをする事はない蛇のモンスターが何故獲物を追いかける狩りをしているのだろう。


 答えは単純、スクラップスネークは彼と同じだったのだ。


 酸耐性のお陰で肉体は溶けなかったが、痛みは彼と同じ様に受け続け苦しみのたうち回る内に、スタミナが尽き、残り体力が尽き掛けになったのだ。


 参考までにスクラップゴーストを襲ったスクラップスネークの現在のステータスをご覧頂こう。


 ────────《ステータス》───────


 種族:スクラップスネーク


 Level:10/20


 経験値:50/100


 体力:04/67【中】


 スタミナ:00/50【高】


 魔力:00/12【並】


 攻撃力:20/60【並】


 防御力:10/30【中】


 スピード:30/90【高】


 生命力:10/30【並】


【状態異常:スタミナ切れ】体力と魔力以外のステータスにマイナス補正【−2/3】。体力が行動する毎に徐々に低下。ダメージ1/1分。


 ────────《スキル一覧》───────


 酸防御:酸による肉体の損傷を無くす。進化可能【強酸防御】。防御力に補正【+10】。100/100。


 酸液:酸の液を吐く。スキルによって防御、軽減、無効化される。90/100


 運動性能:運動性能が上昇し、速さを更に上げ、スタミナ消費を激減する。スピードとスタミナに補正【+15】。50/200


 ──────────────────────


 お分り頂けただろうか? スクラップスネークは【状態異常:スタミナ切れ】により、体力が低下しており今すぐにでも何かを食べなければ死んでしまう状態になっていたのだ。


 何より、かのモンスターがやって来たのは洲倉(すくら) (ふう)が走ってきた方向。そう、途中で聞こえた獣の声の持ち主が彼なのだ。


 あの時、彼はのたうち回った事により、地面に体を叩きつけ、自らの手でダメージを負っていたのだ。


 さらに動き続けた事によりスタミナは減り続け、雨が止んだ頃には空になっていた。


 そんな極限状態時に周りの獲物は皆溶かされ、辛うじて舌で匂いを嗅ぎ取ると、風上に一体。手頃な獲物を発見したのだ。


 それが我らがスクラップゴーストだと知っていれば彼は生き残れたかもしれない。


 諸君らはステータス欄を見てお気づきだろう。スピードが何とスクラップゴーストである洲倉が逃げ切れない事もない数値まで減っているのだ。


 そして、始まった追跡劇はスクラップスネークの予想に反した物になった。


 先ず先に動いたのはスクラップゴースト。彼は更に先、スクラップスネークが来た反対方向に逃げ出した。


 それに続くスネークは獲物の意外な速さに内心焦った。


 まずい……! これ以上の体力消費は抑えなければ……!


 そう本能的に判断した彼はその長い胴体をくねらせて走り出す。と、同時に前を走るスクラップゴーストの足目掛け自らの代名詞、【酸液】を発射した!


 体力が更に行動した事により2下がり、残りは2。もはや風前の灯だが、これで何とかなったと安堵した蛇。


 これで足を失った獲物は自らの腹の中……。


 そう思ったのも束の間、何と獲物は痛みにより飛び上がる事はあったものの、足を止める事なく走り続けた!


 そう、スクラップゴーストが手に入れた【強酸耐性】の恩恵である。蛇にとって更に悪い事が起きた。そう、スキルの【進化(アップグレード)】である。


 スクラップゴーストにはこの様な声が聞こえた。


 《強酸耐性は強酸防御に進化(アップグレード)可能です》


 《進化(アップグレード)しますか?


 YE……》


「イエェェェェス!!」


 その声に驚いたのがいけなかった。


 毒のある蛇を含めて、蛇とは本来、臆病である。自分より大きな敵に遭遇した場合、すぐに逃げるか、食事を消化中だった場合、嘔吐する事で体を軽くし逃げ出すのだ。


「……!」


 ビクッ!と体を引いて、獲物を追っていた身体を止めてしまったのだ。行動と認識された事により更に1、体力が減った。残りは1。


 スクラップスネークは鎌首を上げた体勢のまま、動けない。


 だが、これで決まりだった。


「くっそ! これでも喰らえバケモノ!!」


 足に食らった痛みへの腹いせか、苦し紛れの行動。海外の映画などでも見られる、追っ手の進路を少しでも妨害する為に被追跡者がやる行動の一つ、「追っ手への攻撃」。


 スクラップゴーストが投げたのは、なんと穴の空いた自らの指だった。

 

 そう、全てのスクラップ系モンスターの利点。隠し固有スキル【換装】により体を部品(パーツ)として分けられ、他の部品(パーツ)を新たな肉体として付けられる事。


 それを本能的に理解して使用する辺り、この男の【生命力:究極】は伊達じゃない。


【スタミナ切れ】により避ける事すら出来ず、「こんな攻撃でやられるのか?」と思いながら、スクラップスネークの頭の前を掠め、放物線を描いてその長い胴体に乾いた音を立て当たった。


 カツーン……! カラ、カラ……。


 当たった鉄板は地面に落ち、揺れた後、巨大な蛇の体も大きな音を立て崩壊した。


 そう、此処に異世界の魂を取り込んだスクラップゴーストによるスクラップスネーク討伐が達成された瞬間だった。


 そして、身の丈に合わぬ経験値がスクラップゴーストに入った。


 《経験値を入手しました。LevelがMAXになりました》


 《進化可能です》


 《進化先を見ますか?


 YESorNO?》



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