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第14話

 野営地となったボス部屋で焚かれている焚き火を囲んでいるのは彼らは。異彩を放ち過ぎていると言える。


「俺は2ヶ月前に召喚されて勇者にされた。倒すべき魔物が居るから呼んだそうだ。迷惑な話だ」


 最も大きな体格の蛇男、ガンビットは舌先を唇の間から少し出し苛立ちを表す為に震わせた。人間で言うところの舌打ちに似た行動である。

 その様子を見ているのは鼠色の肌と淡く明滅する黒髪を持った3歳児に見える22歳、洲倉(すくら) (ふう)は右肩に乗っている妖精、ピピ子と共に男の対面に座っていた。


「大変なんだな、おっちゃんも。

 俺は洲倉 風。俺の肩に乗ってるのはピピ子だ。なんか懐かれて契約された」

「ピィ!」

「よろしく。

 しかし、小さいな。俺の知っている中でビット族の次に小さいぞ?」

「ピーピイ!?」

「ピピ子より小さい奴知ってるのか!?」


 自分より小さい生き物がいる事に驚きの声を上げるピピ子と、広大な宇宙で遭遇した種族の話を聞けると興奮しているスクラップ。


「あぁ。30年前に奴隷船を襲った時に会ったな」

「30年前!? 奴隷船!? おっちゃん何歳だよ!?」

「50歳だ」

「「え!?」」


 2人の異なる声が重なった。1人はスクラップだが、もう1人はポルナの声だった。彼女の驚きの声には特定の感情に基づいた衝撃も含まれていた。


「あらあら〜?」「ピィ〜ピィ〜?」


 その声の元になった感情にいち早く気付いた天使と妖精に両側から挟まれる魔法使い少女。

 字面にすればご利益がありそうだが、右腕を両腕でホールドしている天使と、左肩に両手をつき顔の横から覗き込むようにしている妖精の表情は共にニヤついていた。

 完全にからかうネタを見つけた女友達が向けてくる生き生きとした顔である。


「なによ?」


 ポーカーフェイスを装って、棒読みの台詞にしてから完全に感情を知られたくない相手に知られてしまったか。


「ちょっと向こうで女子だけで話しませぇん? 」

「ピィ!」

「あ、先輩もそう思いますぅ?」


 そのやり取りに男性陣は呆気にとられつつも、何がなんやらと互いに顔を見合わせる。


「ちょ! ピピ子ちゃんも、何やってるの!?」


 何やらポルナの目の前で滞空して幾何学模様の光る真ん中にハートの模様がある魔法陣を展開して奇声を発していた。見様によっては宇宙と交信してる何て考えてしまうような光景だった。


「ピピピピピピピピピピッ……。


 ! ピピィ!!」


 どうやら何かを計測し、たった今終了したらしい。それを大声で説明したのはユダだった。


「そ、それは!! 妖精族にのみ伝わる秘伝の感情計測魔法!!

 一個人のある感情に関する全ての詳細を記載した紙が出現する魔法ですね!!」

「なっなっなっなあっ!?」

「「?」」

「ピィ……!」


 その説明に座っていた自前の椅子から立ち上がり頬を朱に染め、目の前の妖精が両手に抱えるように持っている出現した紙を、頓狂な声を上げながら凝視している。

 ポルナの様子に疑問符を頭に浮かべる男2人に対し、妖精が思った通りと目元を細め鋭く唇の端を上げ微笑む。

 出てきた紙をユダに渡す。ポルナはそれを妨害したがピピ子のスピードの前では暖簾に腕押しだった。


「その紙で、な、何が分かるって言うの!?」


 ユダに手渡された紙をなお奪取しようと両腕を伸ばすが、天使は背後から痛みのないように可愛らしい魔法使いを羽交い締め、頭の後ろに紙を置いてその内容を見た。


「今月に入った貴女の数値が……」


 小声で耳元で囁く。


「っ!? こ、こんなの良い加減じゃ!?」


 どうしたというのだろう? 更に顔を赤らめ、もがいて抜け出そうとする。


「それだけじゃないんですよ? 先月に4回……?」

「にゃ!? にゃ!? にゃんでそれを!?」


 何が4回かは分からないが動揺しすぎで口調が猫人の物になってしまっている。その混乱している姿に畳み掛けるようにユダは耳元で呟く。


「ふふ、こんな事も分かるんですよ? 夢の中で抱っこされて……」

「分かったから!? 分かったから止めてぇ!?!?」


 一体彼女の夢の中で何が起きたのだろうか?

 とかく愉快な恋する乙女いじりは彼女のその叫びで閉幕した。

 男達を完全に放置したまま。


 その後、拘束を解いたユダはポルナに紙を手渡し、電光石火の素早さで紙を焚き火に焚べたポルナの目の前に新たに出した紙を両手の人差し指と親指で摘みながら顔の前で前後に揺らしたユダと、そのユダの頭の輪に寄りかかりながら自分を見つめてくる2人に、ポルナはもう何も言えなかった。


「それじゃあ、私達はあっちの入り口付近でお喋りしてますね? さ、行きましょう? ポルナちゃん?」

「ピピ?」


 この2人は【スクラップ化】の影響でこうなったに違いない。備わるはずの凶暴性が種族補正により悪戯好き程度になっているのだ。そうに決まってる。でなければこんな手柄顔になる訳がない。


「……ぁぃ」


 母猫に咥えられ運ばれる仔猫のように大人しくなり、言葉も辿々しくなってしまった。


 哀れポルナ・レビントの女子組の中での立ち位置が決まった瞬間だった。


「何だったんだろ? うま!」

「(ごくっ)さぁな? ……これも食うか?」


 事情を把握しきれない男達は焚き火で焼いていたガンビットの携帯していた干し肉を食しながら、遠ざかる女子達を眺めていた。

 スクラップは初めて感じるこの世界での旨味に感動し、鼻息を昂らせながら喜色満面で自分の顔程もある大きさの干し肉を頬張る姿に父性を擽られたガンビットはお代わりを薦めた。


 色気より食い気。鈍感な野郎共である。


「ごちそうさまでした! 美味かったあ」

「……そうか」


 2枚目の干し肉で腹が満たされ、元気に食後の挨拶をしたスクラップは床に寝転がった。その腹の上にピピ子は大の字で寝転がりユダは彼に膝枕をしている。どうやらスクラップとピピ子はそのまま寝入ってしまったようだ。


 女子達も話を終え戻って食事を共にしたがポルナはまるでガンビットに顔を見られない様にする為に彼の隣に座って鞄から出した野菜類を挟んだパン類を自分の食事を終えるまで帽子をいつもより目深に被りながら食べ続けていた。今は個人テントの中で不貞寝しているようだ。太るぞ?


 スクラップよりも早く食事を済ませたガンビットは、座って焚き火に当たりながら栄養価の高い蜂蜜と甘い樹液をたっぷり入れた高カロリーホットミルクを飲みながら、目の前の微笑ましい光景に和んでいた。


「あの、ありがとうございます。食料まで分けて頂いて」


 寝ている男の髪を手で梳きながら頭を下げ礼を述べるユダ。火に照らされて銀髪が揺れると反射した光の加減が実に美しい。それに何の感想を返すでもなくガンビットは端的に言う。


「いや、礼は良い。俺はお前達モンスターを十把一絡げにしていた。知性が無いとな」


 その言葉に髪を梳いていた手が止まる。


「……何の事ですか?」


 少し間を空けたが何とか返答した。


「別に良い。倒すつもりも、敵対するつもりも無い」

「試してみますか?」


 先の発言を挑発と捉えたユダは羽を広げスクラップの中にあった金属片やガラス片を高速で打ち出す準備をした。発言には穏やかな顔とは裏腹に敵意が篭っていた。


「……はぁ、またか」


 それを見たガンビットは家庭にも仕事場にも居場所の無いサラリーマンのような深々とため息を吐いて、顔の目の部分を片手で抑え揉み解す。


「また?」


 その様子を訝しみ、展開されていた羽を一旦閉じて真意を問う。ガンビットは語り始めた。


「……誤解されやすいんだよ。俺は。

 この面だ。一応自分の生まれに多少の誇りを持ってるし、顔も変えるつもりもなかったが、道を聞こうとして強盗と間違われ、ただボーッとつっ立ってるだけで目のあった荒くれ共に喧嘩を売ったと思われる。

 まぁ、ひどい時は背中から撃たれた。

 そんなのが多いと喋るのも億劫になってきてな。気が付いたら誰にでも単刀直入に自分の意見を最小限の言葉で言うようになった。

 そしたら余計に煙たがられたよ。

 さっきの台詞もあんたを格下だと俺が侮っていると思ったんだろ?」

「うっ」


 苦い顔をしてしまうユダ。完全に図星だった。

 見ていて分かる通りユダは天使の頃よりも、ある一面を除き、だいぶ攻撃的になっている。それはやはりスクラップモンスターになったからだろう。

 スクラップモンスターは生存確率を高める為に戦闘本能が極端に高められる。

 その影響は普通のゴブリンがミツバチだとして、【スクラップ化】したゴブリンや、スクラップゴブリンがオオスズメバチと言えば分かりやすいだろうか?

 やはり元種族によって効果が緩和されていても、彼女がこれから長い生の中で向き合わねばならない問題として多少は残ってしまったのだ。


 長々とした自分の話を語り終え、コップの中身を飲み干すガンビット。器用に長い舌で中を舐めて一滴残らず体内に吸収する。彼の種族は宇宙の中でも特に燃費の悪い肉体の持ち主なのだ。

 舐め終わって綺麗にしたコップをしまい、ユダを見て不敵に笑うガンビット。


「くくく、まだまだ青いな」

「……一応貴方より年上です」

「へぇ、そんじゃ坊主は俺と同い年か?」


 海外ドラマの様な台詞にジト目で再度質問するユダ。


「今度はどっちなんですか?」


 本気か冗談か。その質問をはぐらかす様に彼はただ口元に笑みを作ったのだった。


 ただ諸君らは覚えているだろうか? 彼らが初めて遭遇した時だ。

 ガンビットが天井から降りて来る場面をスクラップ達は認識していただろうか? そんな描写があっただろうか? 確かに天井から降りた事は私は認識していた。故に描写していた。

 だがスクラップやユダは何か反応を示していただろうか?

 否である。彼らは天井から床に降りて来たガンビットを、ポルナの背後に立つまで認識できていなかったのだ。観測者に非ず者、スクラップ達の敗北は実は初対面の時に既に決定されていたのだ。


 ガンビット・トラッシュ。

 元の世界では闇社会の中で生き続ける伝説の傭兵の能力は地力でスクラップ達を大きく上回っていた。


 その事実に気付かずユダは膝を枕にして寝ている将来的に夫にする男子の寝顔を堪能する事に戻ったのであった。


 スクラップ達は翌日の朝早くからとんでもない事態に見舞われていた。


「何だ? 部屋全体が揺れてる?」


 呑気に床で寝ていたスクラップは目を手の甲でこすりながら、部屋の異変に感覚を鮮明にして警戒をし始めた。流石は黙示録の獣、本能的に最善策を行っている。


「これは……」


 荷造りを完了したガンビットは魔法鞄を右手に持ち、左手に寝起きのポルナを抱えていた。


「何これ!? 何これ!?」

 

 ポルナは自分の今の状態とダンジョン内の異変の両方に戸惑い、頬を上気させて混乱している。


「ピィ?」

「まさか、排出期!?」


 空を飛べる2人は宙に浮いていたが、事態を理解していないピピ子に対し、ユダは冷静に事態を分析していた。


 約1ヶ月ぶりのストーダ大廃棄場の排出期。此度は何が吐き出されるのか?



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