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マイ・レボリューション  作者: 過酸化水素水子
一章
10/10

9: 少年と掃除

 

「今日は西側をお願いします」


 朝食を終えて、アタシは執事にそう告げられた。

 昨日の重労働のせいで体中筋肉痛だったけど、アタシに拒否権は無い。残念ながら。

「は、はぁ……」


「マイカ、頑張って! 今日はボクも手伝うからね!」

 アルフは元気一杯だった。

 何がそんなに楽しいのか、ニコニコと相好を崩しっぱなしである。

 まあ、とはいえ、手助けされるのは正直助かる。

 

 主人(アルフ)に掃除などさせられませぬ! なんて執事が言うかと思ったけど、特にそんな事はなく、筋肉執事は涼しい顔で傍に控えている。

 そんなもんなのかな? 教育の一環?

 アタシは大して気にせず、結局助力を得る事になった。


 たっぷりと、その事を後悔したのは、それから一時間も経たないうちのことだった。


+++


「頼むから、何もしないで」

 怒りを通り越して、放心しながらアタシは言った。


「でもぉ……」

「いいから、何もスンナ!!」


 あくまで手伝おうとするアルフに、アタシは強い口調で告げる。

 最初は楽できると思っていた。

 作業が半分になる、とまでは思ってなかったけど、五分の四位になるのは期待してた。 

 だけど、それは間違いだった。

 アルフは掃除の才能と言う意味では、ゼロどころかマイナスだった。

 

 バケツの水はひっくり返す。

 装飾品は割りまくる。

 窓拭きさせれば、ガラスを割る。

 

 綺麗になるどころか、逆にアタシの仕事が増える、といった有様だった。

 邪魔以外の何者でもない。

 この少年はありがた迷惑を体現していた。


「うぅ……」

 うるうるした瞳を向けてくるけど、アタシは首を振ってノーを突きつける。

 すると、アルフはショボンと肩を落として、西館の廊下の隅っこにしゃがみ込んでしまった。

 そのまま悲しげな視線をアタシに向けてくる。


 もちろん、無視することにした。

 これで、仕事に専念できると、心底ホッとして作業を再開する。


 昨日もした事なので、勝手は分かっている。

 邪魔物が居ないと、昨日以上のペースで作業は進み――――昨日より三十分早く作業を終えることが出来た。

 最初から一人だったなら、きっともう一時間は早かった事だろう。


 まあ、いいけどね。

 アタシは綺麗になった廊下を見て、一人満足気に頷く。

 ふとそんなに真面目にやる必要があったのか、という思いが脳裏を掠めたけど……いいや。

 掃除をするのはそんなに嫌いじゃないしね。


 一区切りついたので再び元の廊下に戻ると、そこに居たはずのアルフの姿が無い。

 一人でいる事に飽きてどこかに行ったのか、と周囲を見回したその時。


「マイカ~~~。バケツに水を汲んできたよ~~~」

 などと叫びながら、アルフが食堂の方から両手でバケツを抱えて、こちらに向かって走ってきた。

 たどたどしい足取りで。


 激しく嫌な予感がした。

「ちょっ、こ、こっちに来るな。もう終わったから、それは必要ないわっ!」

 アタシは早口で慌てて止めようとする――――が。


「え? 何?」

 アルフは上手く聞き取れなかった模様。

 そのまま走り続けて――――想像通り、盛大にすっ転んでしまった。


 その勢いが反動になったのか、バケツが手から離れて宙を飛ぶ。 

 それはクルクルと回転しながら、中の水を壁や窓や、廊下に振り撒いていく。

 中の水の体積を減らしたバケツは、壁に激突して掛かっていた絵画を傷つけると、そのまま反ね返ってアタシの所に飛んできた。

 咄嗟の事に避ける間もなく、バケツはアタシにぶつかった。そして、残っていた中の水が全部アタシに降り注ぐ。

 そうして、空になったバケツは、カランと音を立てて廊下に転がった。

 一転がり二転がりして、止まる。



 アタシはその様子を、呆然と見下ろしていた。

 ポタポタとアタシの濡れた髪から雫が零れ落ちる。

 見ると、辺りも水浸しだった。


 …………最悪。

 これは…………やり直しね。せっかく終わったと思ったのに……。


「マ、マイカ……。その……ごめんなさい」

 アルフは悪いとは思っているのか、恐る恐るアタシに謝ってくる。

 だけど――――。


 次の瞬間、アタシの罵声が館の中に響き渡った事は、言うまでも無い。



***



 それから、アルフはミスした分を取り返そうとしたのか、午後のアタシの作業を悉く邪魔しまくった。

 獣どもの餌やりも、飼い主なんだから多少は使えるのかと思ったら、全然そんな事はない。

 ペットたちと遊んで、いつまでも片づけを行う事が出来なかった。


 だけど、奴は恐るべきにも、猛獣と戯れていたので、強引に引き剥がす事も出来ず。

 結果、アタシの午後の作業に大いに支障が出たのだった。


 アタシに責がないとは言え、自分に与えられた作業が満足にこなせないのは、非常に腹立たしい。

 なので、アタシの不満は積もりに積もっていた。

 幾ら怒鳴っても、アルフは「次は頑張るよ」と、一向に堪えた様子は無く、逆にアタシの疲労がどんどん増すばかりだった。

 

 イライラと苛立ちを燻らせながらも、何とかそんな邪魔にも耐えて、ようやく今日の終わりを迎える事が出来た。

 夕食もそこそこに、アタシは部屋に戻った。

 部屋に戻るなり、アタシはベットに倒れこみ、顔を枕に埋める。



 流石に……しんどいわ…………。

 

 この広い館に、使用人が執事しか居ない理由が分かった。

 絶対皆、仕事がきつくて辞めて行ったに違いない。


 アタシが勝手に確信を得て、そのままのんびりとベッドに身体を落ち着かせていると――――突然ガチャリとドアが開け放たれた。

 続けてアルフが勝手に部屋に入ってくる。


「何勝手に入ってきてんのよっ!!」

 アタシは残っていた力を振り絞るように跳ね起きて、アルフに怒鳴る。

 幾ら客とはいえ、いや客だからこそ、勝手に部屋に入るのはマナー違反でしょ?

 しかも、アタシは曲がりなりにも女よ!?


 だけどそんなアタシの怒りが分からないのか、アルフは不思議そうな顔をしていた。

 まるで何で怒られたのか分かっていないと言う顔だ。


 イラつく……けど。

 アルフは本気でアタシの怒りが分からないんだろう。

 短い付き合いだけど、それはよく分かった。

 そんな奴を相手に、真面目に腹を立てているのもアホらしい。

 アタシは今日一日で堪った怒りを飲み込むように、一度だけ深く息を吐いた。


「……で、何よ!?」


「あ、うん。えっとね、マイカにいいもの見せたいと思って……」

 一応アタシの機嫌が悪い事ぐらいは分かるのか、アルフは上目遣いでアタシを見つめてくる。

 整った顔立ちで童顔のアルフのそうしたしぐさは可愛らしい…………と思うには、アルフはアタシと歳が近すぎた。

 はっきり言って、更にイライラが増すだけだった。


「必要ない」

 きっぱりと告げたアタシに、アルフが縋りつくように近づいてきて腕を引っ張る。

「ええ~~~。そんなこと言わずに行こうよ~~~」

「引っ張るな! うるさい!! めんどくさい!!」

「そんなぁ……」


 アルフはアタシをそのいいものが見れるという場所に連れて行きたいというより、まだ遊び足りないという想いの方が強いように見える。

 子供か!


「うざいの……」

 突っぱねようとして、アタシはあることを思い出した。

 正直本気で疲れてるけど……そんなことを言ってもいられない。もうそんなに時間があるわけじゃ無いかった。

 

 ……いい機会か。 

 まだ愚図っているアルフに視線をやると、アタシは右手を挙げてアルフのざわめきを制した。

 アルフは口を噤み、困惑した表情をアタシに向けてくる。

 その顔を見ながら、アタシは静かに提案した。

 


「そんなことより、アンタに連れて行って欲しい所があるんだけど……」


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