【序章】02 続きの話
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花々が咲き誇り薫る5月。
5日間続くフローラル王国建国祭の中日。
王宮庭園で10歳に成る高位貴族家子女たちの集うお茶会がフルーブ王家主催で催されている。
わたしオリビア・アーシュレイも厭々ながら昨年に引き続き、王宮へと足を踏み入れた。
昨年は、パトリシア王妃殿下の手下で或るクレール夫人にとある仕掛けをされ、王妃主催のお茶会で飛んでもない失態を演じさせられた。
事前にわたしへと憑いている猫型精霊アルプの気付きにより、わたしたち(祖母と母)はメガネをかけると云う茶番を演じ、後日、麗しのローラン(詐話師)神父のお陰で、何とか最悪の評判から脱することは出来たのだけど、王妃殿下が何故わたしたちに悪意を向けるのか、その理由が判明しない状況で、再び王宮へ訪れたくなかった。本気で!
また何か仕掛けられたら面倒なので、わたしは金縁メガネを掛け、やわらかい紫のデイドレスを着ている。この色味は、ライラックカラーとでも言えばイイのだろうか。
別にローランの紫眼を纏っているワケじゃないデス。念の為。
フローラル王国の貴族たちは、肉体的な完璧さを『良』としているため、公の場で隠せない視力調整具〔メガネ〕をかけることを厭う。
視力の悪さは、遺伝すると思われているため、縁組に大きな影響を与えるからだ。 殊に嫁ぐ未婚の令嬢が公でメガネを身に着けるコトはない。
一応わたしの弱視は、血筋的なモノではないとローランから夜会などで説明をしてくれているが、実際に初夏らしいディドレスを着ているのにメガネ姿を晒しているのは奇異に見えるようだ。
ざっと会場の庭園を見渡すと、用意されているガーデン・テーブルと椅子に着席している親子たちは未だ居ず、多くの方々が互いに挨拶を交わし世間話に興じている。
茶会の会場には、今回、わたしと同じ年齢の7大公爵家の子女は居ない。
今年の春に2家ほど陞爵されて王国内の侯爵家は29家と成った。そして出席している侯爵家の子女は、わたしを含めて6人。
伯爵家は、下位から上位まで現在のフローラル王国では約500家くらいで、子女は80人程の出席だ。
この86人の内で、何名が王立ロイス貴族学院に通うわたしの同期生となるのだろうか。 予想が難しい理由は、高位貴族家の貴族学院入学は嫡男以外、義務とならないため。 次男や娘などは各家での任意ってしまうからだ。
そう言えば、祝福が発現し寄宿学校(7歳~12歳)に入学している10歳の子供たちも、フローラル王国建国祭中日の子供会には出席させられているのよね。
五月の花々が鮮やかな彩に負けないよう小さな紳士淑女たちは、華やかな略式正装を着て、美しい庭園風景の中を家族に連れられ、国王夫妻やレオナルド第一王子殿下や王族たちの前へと向かい、粛々と挨拶をするため並び始めている。
病弱で有名だったレオナルド殿下は、すっかり元気になった姿を、出席した貴族たちの皆に見せている。
レオナルド殿下からの手紙で〔実は仮病で公務をサボってた〕等とぶっちゃけられたので、(意味不明だわ)と手紙を読んでいないことにしたわたしの苦労など気にせず、レオナルド殿下は此方を見ながらニコニコと笑んでいた。
此の茶会に出席している6つの侯爵家の家格順位で2番目は、我がアーシュレイ侯爵家。
一番初めに挨拶されているのは、フォクス侯爵夫妻とフォクス小侯爵夫妻に子息のセドリックさま。
フォクス小侯爵令息のセドリックは、ヒロインの攻略対象者である。
そうゲーム『ライ花』上で、オリビアの婚約者の癖に、ヒロインへと心を移した浮気者の脳筋セドリックで或る。
セドリックは、周囲の子供達より背は高いが、赤毛青眼の未だあどけない少年だった。
幾らあどけない顔付の美少年でも、自分の浮気を棚に上げ、美少女のオリビアを拘束し断罪しやがって!と云う忌々しい感情は拭えない。
成長したイケメンのセドリックが、マッチョな肉体でオリビアのか細い腕を掴みあげていた姿を思い出し、自然と続く断罪シーンのスチルが脳裏に浮かんでしまう。
よく考えたらセドリックって、第二王子フェリクス殿下の虎の威を借りているだけの小心者だよね。 婚約破棄くらいオリビアと二人の時に話せば良いのに。
そんなコトを考え、わたしは思わず眉を顰めた時、レオナルド殿下の真紅の瞳とバッチし目が合ってしまった。
『イカン、イカン』とわたしは軽く頭を振り、祖父と祖母たちに促され、煌びやかな陛下たちの前まで歩みを進める。
祖父母たちに続いて国王陛下たちへ儀礼的な定型の挨拶をし、カーテシーをする。 陛下からの声掛けで、わたしたちは顔を上げ、祖父母たちと軽く話しはじめた。
そこへ妙に響く声でパトリシア王妃殿下が祖母に話かけた。
「あら? オリビア嬢は、今日は茶会の初めから、視力補正具を付けていらっしゃるのね。」
「はい、恐れ入ります、王妃殿下。 陛下たちが御列席される恒例になっている建国祭の記念すべきお茶会で、前回のように思いがけない手違いで、皆様を御不快にさせる訳には参りませんもの。 王妃殿下方のお目を汚していることは、誠に申し訳ございません。」
にこやかな表情で話すパトリシア王妃殿下と祖母。
「オホホ、、。」と、和やかに微笑み合ってるけど、張り詰めて居る空気が怖い。
二人の背後には、『ゴゴゴゴゴー!』と云う効果音が、おどろおどろしい文字で、浮かび上がっているような幻影をわたしに見せていた。
流石は若くても王妃殿下デス。
祖母の冷気を纏ったアルカイックスマイルを物ともしない。
ポーターに案内されて、わたしたちが庭園のお茶会会場に入ってからは、「アーシュレイ侯爵令嬢は、噂通り視力補正具を付けていらっしゃるのね。」と出席されている皆さまからヒソヒソ声で噂されて居ました。
「こんな場所に。」とか「みっともない、、、」とか「不似合いね。」だとか、まあ色々と。
そんな声にわたしは(大きなお世話よ!)と、心の中で叫び、気を紛らわしていた。
わたしに対する噂話の声が聞こえる度に祖父は、厳めしい顔を益々険しくしてたけど、こうなった原因の一つは祖父に或るのだから辛抱して下さいな。
祖母や母と王妃殿下から悪意を向けられる原因を話していたのだけど、どうやら2年前に祖父母たちが出席した建国祭のグランドフィナーレの夜会で、祖父はフルーブ4世の御前で、ハッチャけた孫娘自慢をしたコトにあるのではないかと結論付けた。
祖母によれば、それしか思い至らないとのコト。
まあそれが無ければ10歳ならないわたしが、そもそも昨年、王妃殿下主催の王宮での茶会に招待されることも有り得なかったしね。
てなことを考えている間に話が終わり、わたしたちはその場を辞し、次席の方へと場所を譲った。
わたしは祖父母たちと一緒に、幾人かと社交的な挨拶を交わしながら、茶会会場の庭園から出口へと向かった。
わたしはメガネをかけて身体に瑕疵があることを露わにしつつ、多くいる茶会出席者たちから憐れみと嘲りの視線と声に晒され続けるのは、小一時間経たずとも流石に精神的な疲労感を憶えてしまったのだ。 それは祖父母たちも同様で。
好奇の視線に晒され疲れたわたしたちは、来賓した親子たちが集う賑やかで美しい庭園の会場から、静かに出ることにした。
今回、母が不参加だったのは、夫のエスコートが無い状況でパトリシア王妃殿下が、どの様な攻撃を仕掛けて来るか分からないから。
ホント意味が分からない。
祖父が国王陛下に、パトリシア王妃殿下のご意向を確認したけれど、「気のせいだろう。」と、軽く流されただけだったとか。
プロメシア王国と休戦協定を結び30年過ぎて国外が安定していると、人間て国内で揉め事を作りたくなるモノなのかしらと、くだらない邪推をしてみる。
そして城内に慣れていた祖父母の後ろからわたしは姿勢を崩さないように歩いていると、従者の恰好をした青年が近付いて来て、祖父に「レオナルド殿下がお呼びです。」と伝えていた。
彼の話では、レオナルド殿下が祖父母とわたしたち3人を招いているとのこと。
わたしは(折角、町屋敷へ帰れると思ったのに)と、内心でブツクサ文句をブーたれながら、祖父母たちと共に従者から促され侭、豪奢で広大な迷路を進むのだった。
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