【序章】01 あれからのこと
◇◇
「おっす、おらゴクウ!」
ではなく、、、。
悪役令嬢の役をジタバタしつつ何とかスルーしちゃった、お久しぶりなオリビア・アーシュレイです。
今は健康マニアな何処にでもいる普通の侯爵令嬢ですわ。
パトリシア王妃殿下が仕掛けて来た謀のお茶会から2年が経ち、旧暦の新年祭を迎えてジェロームは、今頃セクティウス大聖堂で〔聖冠の儀〕を粛々と受けているでしょう。
〔※詳しくは拙作(【改訂】メガネを掛けた悪役令嬢 ーはじまりの巻ー)にて。〕
ホント、あれから色々ありました。
わたしは遠い目をして、此の2年間を思い返した。
◇◇
やっぱりメインイベントは、わたしの愛すべき弟のジルに、祝福の儀(夏至祭)で、Lv2の風属性の祝福が顕現したコトでしょね。
加えて、ジルの乳兄弟で或るセルジュ・バーニュにLv1の水属性の祝福が在ったりして、祖父たちの驚喜のフィーバーが、一層加熱した。
因みにジルの守り石は、新緑系のスフェーン(楔石)だった。
どうやらペンダントにした模様。
猫型精霊アルプの話では、『愛し子のオリビアの魔力と我に多くの精霊たちが集まって来ていたため、オリビアに近しいジルとセルジュの魔力が刺激されて増えたのだろう』とのコトだ。
そう言うことは、姉のわたしにあらかじめ教えていて欲しかったと、グチグチと口の中で文句を言ってみる。
『ライラックの花が咲く頃に』のゲームでは、攻略対象者だった弟のジルベールに、祝福は発現していなかった。 勿論、悪役令嬢だったわたしにも祝福などなかった。
それに加えて喜ばしいコトに流行病は、ロベリア教皇猊下たちの尽力で、フローラル王国東部の港からアーシュレイ領地へ到達することなく、祖父や母たちは流行病に罹患せず、今日も元気に領主館で滞在している縁戚たちを持てなしている。
既にゲームシナリオから大きく外れ、『ライ花』のプロローグは、現実世界でキャンセルされた。
流行病で祖父と母が死去することもないので、父がアーシュレイ侯爵を継ぐのはまだまだ先。 しかも母が健在なので、父は愛妾と再婚することもない。 その為ヒロインのアリシアは、アーシュレイ家の養女になることもない。
母が存命のため、父は再婚や養子縁組などの手続きに煩わされることが無いから、今世ではヒロインに祝福の儀を受けさせていると、わたしは推測している。
幾ら『ライ花』のゲームシナリオから大きく逸れているとしても、ヒロインに光属性の祝福は発現していると思うのよね。なんとなく。
異母妹のヒロインが神殿の寄宿学校卒業してから、どのような未来を選択するのか、アリシア・エバンス男爵令嬢の将来は、今のわたしには全く分からない。
(彼女とわたしが異母姉妹で或ることを知るのは、わたしと同じ転生者のデジレと父と祖父母、そしてアリシアの母親くらいだろう。 後は、家令のセバスと息子で執事長のクロードかしら。)
願わくば、ヒロインとは関わるコトなく上手く擦れ違って、トラブルの少ない人生を生きたいモノです。
◇
そしてセカンドインパクトなイベントは、、、。
王城での茶会を済ませ王都の町屋敷から戻って直ぐに、何と侍女長のサマンサが、領主館から放逐されたコトだろう。
わたしには、滅茶苦茶ハッピーなコトだけども、唐突な出来事で頭の中は『???』が、いっぱい湧いてきた。
サマンサは、辞する挨拶をすることもなく、気付いたら領主館から消えていた。
新たな侍女長をセバスから紹介されて、アーシュレイ家の領主館から放逐されていたのを、わたしは知ったのだ。
サマンサ子飼いの侍女やメイドたちも、スッキリ居なくなっていた。
母を『ハズレ妻』、『田舎の野蛮人』、『若旦那様から忘れられた哀れな妻』等々と、わたしに聞こえるような陰口を叩いていた使用人たちが居なくなり、領主館内の空気が明るく爽やかになった。
セバスからは「サマンサたちは、老齢に成ったため、辞して生家に戻りました。」と、説明されたけれども本当の理由は分からないが、わたしに否はない。
侍女長のサマンサは、祖母の従姉妹であるため、下手に逆らえないと母から聞いていただけに、マジで吃驚した。
好奇心の赴くまま母に事情を尋ねると、柳眉に整えられた細い眉をひそめて、困ったように言葉を濁されてしまった。
わたしとしては、まあ悪い変化でなかったため、母に質問を重ねることはなかったけれど。
わたしは自室に戻ってから、デジレとコレットと手を合わせて、サマンサが領主館からログアウトした喜びを分かち合った。
祖母が指名した新しい侍女長は、家令セバスの次女で、父より1歳年上のリゼット・キュリー士爵夫人。
御主人は、アーシュレイ騎士団に勤めるキュリー騎士。 キュリー男爵家の縁戚で騎士爵の方だ。
そしてリゼットは、旧領主館(パステール地区)で、曾祖父レナールや亡くなった曾祖母に仕えていた人になる。
どことなくコレットに似た品のある御婦人だった。
ローランとの約束で、新たに侍女見習として雇ったメナシード伯爵家のニコルちゃんのコトがあったので、わたしは侍女長だったサマンサが消えてくれて面倒事が減ったと思えてホッとした。
ローランは、寝込んでいたニコルちゃんを実家から内緒で救出した(攫ったとも言う)そうなので、下手に侍女長のサマンサからニコルちゃんのコトを勘繰られたくなかったのよね。
美麗なローランに連れられてきたニコル・メナシード伯爵令嬢は、伏し目がちで人の顔色に怯えていて気弱そうに見えた。
前世で見慣れた懐かしい黒髪を1つ括りにして、黒に見える濃緑色の瞳を持った大人しい1つ年下の小さな少女。 加えてわたしと変わらぬ背丈のスモールさに好感を持ってしまった。
だって身近に居るデジレやコレットたちは、あっと言う間に成長してしまい、気付いたらわたしが一番幼く見えてしまっていたのだもの。
乳児院で育てられたニコルちゃんは、オドオドしている態度を改めたら、小さな淑女として見られるようになるだろう。
ミランダ先生の話では、ニコルちゃんの実家で或るメナシード伯爵家は、数ある伯爵家の中で中位に当たるとか。
フローラル王国は、伯爵家の数がとても多い。
その理由は、旧カナーン王国で侯爵家以上だった高位の貴族家を伯爵位以下に降爵(爵位を下げる)したり、フルーブ1世に協力したカナーン時代の下位貴族たちを伯爵位に陞爵したからだ。
旧カナーン王国では、フローラル王国と反対に、王族が多かった分、公爵家や侯爵家の数が多かった。国王の一存で愛妾や寵臣の数だけ、公爵・侯爵など高位の爵位をカナーン王家は授けていたそうだ。
フローラル王国のフルーブ王家も子供の数は多いが、王族を降嫁させるためだけに、爵位を上げることはない。 基本的には、王族が降嫁した家の家名に《ロル》の称号を授ける名誉と持参金(領)のみだ。 特にフルーブ3世は、公爵家を現在の7家に規定したため、此れ以上公爵家が増えることはない。
陞爵する場合は、国王の独断でなく王室典範に則り、枢密院議会で決めるそうだ。
閑話休題
フローラル王国中央地帯に或る旧王都から、かなり南東に離れた場所にあったメナシード伯爵家は、カナーン王国建国当初に爵位と領地を賜り、それ以降の混乱期を無事潜り抜け、フローラル王国建国時はフルーブ1世に逆らわず家名と家格を保って来た。
それはそれで凄いとわたしなどは思うのだけれども。
ミランダ先生によれば、時流を読み、それを為すのが一般的な貴族家の当主というものらしい。
そんなメナシード伯爵家のニコルちゃんは、タウンハウスに或る階下の使用人部屋での下働き生活を、両親から余儀なくされていた。
何というシンデレラストーリー。
ニコルちゃんを助け出したのが王子さまじゃなくて、猫型精霊アルプから救出を依頼された胡散臭い笑顔の神父でゴメンだけどもね。
「私が両親とは違う黒髪と濃緑色の瞳で生まれたせいなのです。」
ニコルちゃんは、背中を丸めて小さな顔を伏せ、呟くようにわたしへと話した。
両親から可愛がられている双子の妹リリアナは、母親と同じく金髪碧眼の美少女なのだそうな。
いやいやいや、、、
違う違う。
根本が違うのよ、ニコルちゃん。
実母だと思ってる女性は、ニコルちゃんの伯母にあたる。
つまりニコルちゃんの実母の姉になるヒトなのよ。
そしてニコルちゃんが、双子の妹だと思っているリリアナは、異母妹になるのだよと教えたくて、口の周りがムズムズ緩みそうになるのを、わたしは必死で堪えていた。
猫型精霊アルプから聞かされていた話は、メナシード伯爵家の重大な秘密だから、他家の子供で或るわたしが、迂闊に口に出せないコトなのだ。
〔※詳細は、ep57 アルプの頼み ⇒ https://ncode.syosetu.com/n9075kx/58/〕
でもってニコルちゃんは、闇の精霊の加護を持つ特別な存在なのだ。
ぐっ!
精霊のことは禁忌事項に付き、制約魔法にのせいでニコルちゃんに話せないのが歯がゆい。
自己否定的なニコルちゃんをこれから時間をかけて、猫背になりがちな気持ちを癒して上げたい。
と、此の頃のわたしは真面目にそう思っていた。
ニコルちゃんが、他人の目を気にしてオドオドしちゃうのは、貴族令嬢として乳児院で養育されていたのが大きいのかも?と思う。
いっそのこと平民の孤児として、孤児院で育っていた方が、逞しく育ったのかしら。
ローランの話だと乳児院は、貴族出身のシスター(修道女)たちが、乳母の代わりに幼児教育をして、貴族令嬢としての行儀作法や心構えを教えるそうだ。
中には、家から乳母を派遣される乳児もいるのだとか。
3歳位までは、手入れの行き届いた広い子供部屋で、3~5人の乳幼児を保育し、その後、寄付に合わせた一人部屋へと移し、貴族の子弟として必要な教育を施す。
王都パルスに或る大神殿の乳児院で養育されるのは、伯爵以上の高位貴族の子女たちだから、それに見合う教育が行われる。
乳児院に派遣されているシスター(修道女)たちは、事情により婚姻出来ない貴族令嬢たちや、事情があり離婚された貴族夫人(主に懐妊出来ないため)たちであるため、乳幼児に貴族としての常識を教えるのだ。 細々としたことは下働きの者がやる。
乳児院の幼児たちは、ユリウス教にとって多くの寄付金を与えてくれ、そして未来の聖職者たちを育てる貴重なゆりかごでも或る。
かわって孤児院は、親や親族が居ない平民の子供たちを保護する施設だ。
または子供を育てるのが、難しい家庭環境の場合に、教区のチャペル(礼拝堂)に預けられる。
貴族たちの寄付によっても成り立っているが、多くの孤児は女神レト神殿の管理下になる。 詰り親権が神殿へと移る。
稀にその地域の領主が管理している孤児院もある。その場合は、領主に親権が或る。 ストリートチルドレンよりは、孤児院の方が生存率は高いとのコト。
親の職種に因り、児童労働の年齢は様々だが、孤児たちは7歳の洗礼式後、神殿からの紹介で見習いとして様々な労働に携わる。
孤児院には、成人として認められる13歳まで住めるそうだ。
孤児たちは幼い内から院で生存競争に晒され、生活に必要なことは自ら身に付けなければならないので、逞しくなるそうだ。
ニコルちゃんの場合は、乳児院で貴族令嬢として育てられたため、生家のメナシード伯爵家に帰った途端、平民として扱われ慣れない労働に身を置くことに成った。
7歳の幼児には、階下暮らしと下働きをさせられて、精神的ダメージが大きかったモノと思われる。
救出したニコルちゃんと一緒に居た小姓のオスカー少年が、もう少しフォローしてくれていたらと思わないでもないけど、良く考えたらその時の彼は、12歳。
前世で言えば小学6年生くらいだから、引っ込み思案である見知らぬ7歳の幼児の面倒を見るのは無理だよね、、、と思い至る。
まあ、内気な侭ニコルちゃんは、わたしの侍女見習を今も続けている。
◇
そして葡萄祭が行われる秋になり、祝福が顕現した弟のジルと乳兄弟のセルジュは寄宿学校へと入学し、オスカー・ロイエン伯爵令息は、留学生として王立ロイス貴族学院へと旅立った。
その間、2度ほどレオナルド第一王子殿下から、意味不明な手紙がわたしに届いた。
彼もオスカーと同じで秋から、王立ロイス貴族学院へと通うそうだ。
良く分からない意味不明なレオナルド殿下からの手紙は、〔よければ会って話したい〕等という碌でもないコトが綴られていたので、わたしは季節の挨拶だけの返信をした。
庭園で同席していたレオナルド殿下は、忘却してしまったのだろうか。
義母のパトリシア王妃殿下の悪意ある茶会のことを。
パトリシア王妃殿下から、ふざけた罠を仕掛けられる程、嫌われているわたしにレオナルド殿下は、どうしろと云うのだろう?
何とか茶番を演じて誤魔化して、王城のある王都から一目散に逃げ出して来たわたしたちなのに。
これ以上面倒なフルーブ王家との関りなんて、わたしは真っ平御免被りたい。
わたしは母や祖母たちにそう宣言して、それ以降の私的なレオナルド殿下の手紙を受け取らないコトにした。
と云っても、翌年に催される王宮庭園での子供会(10歳のお茶会)には、高位貴族の子女として参加しないと駄目なのですけどね。
(続く)
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