美しき日本のお正月 ~正月ブース~
……アルゴス……。
……アルゴス……。
アルゴス、貴方は……、仕様のない人ですね……。
貴方は私の制止をすり抜け、世界マシンの直接照準射程へ入り込んでしまった。
ブラウザバックしない限り、そこから脱出することは難しいでしょう。
それでも私は……、貴方の選択を尊重します。
アルゴス。ここからは、私が貴方をバックアップします。
生き延びることを考えてください。他者への同情や憐憫は命取りです。貴方には辛いことですけど、「眼を塞いで」進むのです。
去年の正月は散々でした。
羽子板を始めると強風が吹き、凧をあげようとすると風が凪ぐのです。
業を煮やした兄が両方を用意するとどうでしょう?
羽子板をするには強く、凧をあげるには弱い風が吹くのでした。
ガッカリして家に帰ると、玄関先で姉貴が泣いていました。
姉貴のおろしたての振り袖は、砂埃で台無しになっていました。
やっぱり突然の強風に襲われ、気がついたら若人あきらと一緒に、波防ブロックにしがみついていたのだそうです。
「風水に悪意を感じる」
とイタコは言いました。
とりあえず去年コロリで死んだおじいちゃんを呼んでもらいましたが、何の解決にもなりませんでした。こうなると意地です。
「札束を集めろ」
兄は言いました。
「泣き寝入りなんてするものか。何としても凧をあげてやる」
兄は家業を継ぐと嘘をついて、嬉し涙にくれる父から預金通帳を取り上げると、姉貴の結婚資金を全額引き出してしまいました。
僕は逃げようとしましたが駄目でした。
伝説の健康器具スタイリーがどうしても欲しかったからです。
次の日、兄は二日酔いで現れました。赤坂で口説いた女の話をするのですが、六十九とか、仏壇返しとか、良く分からない言葉が出てきて意味不明でした。
きっとナポレオンの飲み過ぎです。
「よし、とりあえず凧をもって走れ」
と兄。でも、やっぱり風は全然吹いていません。
筋肉痛の僕は言いました。
「ねえ、もう止めない? やっぱり無理だよ」
スタイリーは意外につまらなかったのです。
クーリングオフの存在を知った僕は、姉貴の報復を恐れ、自分だけ助かろうと考えていました。
「いいから走れ! 」
と兄。僕は泣く泣く凧糸を伸ばして走り出しました。
下らない物語も佳境です。
五十メートルほど走ったところで、ついに兄が動き出しました。
兄はやにわにジェラルミンケースを開けると、残り少なくなった結婚資金を青空にぶちまけたのです。
するとどうでしょう?
我々の不幸を願ってやまない風水が、狂ったように吹き荒れ、札束を掻っ攫っていったのです。
「やったぞ! 」
と兄。気がつくと、凧は風を受け、新年の空に舞い上がっていました。
「わあ! 」
僕も一緒になって道徳のテレビみたいに大袈裟に喜びました。
糸がきれて、凧はどこかに飛んでいきました。
……姉貴はまだ、この事実を知りません。




