クラムボン山梨 ~満点パパの理由~
「……嫌だぁ、この人満点よ!? 」
答案を採点していた企画展の受付嬢が悲鳴を上げた。
尊敬の調子はまったくなかった。
いかがわしいモノでも見るように、
すが目で睨めつけてきた。
「ありえない! 」
叫びながら仰け反るように立ち上がる。
パイプ椅子が倒れ、けたたましい音を立てる。
興奮に息を切らしながら、一言ずつ、
人差し指で私の胸を手酷く突いた。
「何で! アンタは! こんな!
非常識な! 問題が! 解けるのよ! 」
「クラムボンはモランボン」
「クラムボンはモランボン」
「どうしてクラムボンはモランボン? 」
「ワカラナーイ、日本語難シイ」
「パナコランで肩こらん」
「パナコランで肩こらん」
「どうしてパナコランで肩こらん? 」
「わからなーい」
幼馴染みの山梨賢治は、一言で言って馬鹿だった。
彼の語る文法体系は私の常識を破壊して憚らなかった。
「動詞『ゲロ』について。ゲロは特殊な動詞です。
試しに活用させてみましょう。
ゲロらない
ゲロります
ゲロるとき
ゲロれば
ゲル
この時、命令形が、
動詞『ゲル』であることがわかります」
「何て魅力的なんだ! 」
「続いて、動詞『ゲル』。基本的には五段活用です。
『ガ、ギ、グ、グ、ゲ、ゲ』と活用されます。
しかし、『ゲル』が不規則動詞であるのは、
仮定、命令形が、動詞『ゲロ』とまったく同じで、
区別されない点です。
試しに活用させてみましょう。
ガル(「ガルル……」と唸って威嚇する)
ギル(一般に「ぎった」として使われる活用。
例:「さっきの店でぎったラムネをよこせ」)
グル(他と組んで、誰かをハメること)
グル(教祖のこと)
ゲル(ゾルとゲルのゲル。化学用語)
ゲル(ゲロる、即ちゲロを吐くの意)」
「お前は最高だぜ、山梨! 」
「はい、それでは、今学んだ二つの動詞を使った
会話文を読んでみましょう。
アントーレ・アロレンスさんに続いて
発音してください」
「……」
「……」
しばしの沈黙。
「飲み過ぎたのかい、山田? 」
「飲み過ぎたのかい、山田? 」
「……ゲル」
「……ゲル」
もったいぶって例文を読むアントーレ・アロレンスは
もちろん山梨の腹話術だ。
「お前、アサハラに似ているな? 」
「お前、アサハラに似ているな? 」
「明日からアサハラ ショウコって呼んでいいか? 」
「明日からアサハラ ショウコって呼んでいいか? 」
「……グル」
「……グル」




