10-3 《晶、あなたの思考は、時々、物理法則よりも先に常識を置き去りにしますね。》 ☆
私はコンソールを操作し、作戦計画を構築していく。
「ラエヴァノール! ボルガノン!」
二人の長老が画面越しに頷く。
「あなたたちには、この戦いの、さらにその先をお願いしたい。直接戦闘に参加するには、敵の規格が違いすぎるわ」
『むっ…ワシらが役立たずだと申すか!』
「逆よ。あなたたちにしかできない、未来を創る仕事よ」
私は二人に、ウルちゃんが予測した戦後の惨状を見せた。たとえこの戦いに勝ったとしても、惑星環境は激変し、長い氷河期と生態系の崩壊が待っている。
「ラエヴァノール。あなたたちエルフには、森の叡智を結集し、世界樹の種子や古代の生命情報を保存する『生命の方舟』計画を。来るべき氷河期を乗り越え、再びこの星に緑を取り戻すための準備をしてほしいの」
『…承知した。賢者殿。我らは、未来に命を繋ごう』
「ボルガノン。あなたたちドワーフには、その魂を込めた『ものづくり』の技術で、全文明が生存可能な巨大地下シェルター都市の建設を。そして、惑星核から直接エネルギーを取り出す、巨大な魔力増幅炉の建造をお願い!」
「どういったものを未来に残すか指示をだすわ。それからゴーレム全てをあなた達に託すわ。」
『フン…! ワシらの出番は戦いの後か! よかろう! 誰一人死なせねえ、最高のシェルターを創ってやんぜ!』
彼らが未来を創るなら、私は、その未来へ続く道を、こじ開ける!
「セレスティア、魔王、そしてウルちゃん! 私たちで、この神々が仕組んだ盤面をひっくり返すわよ!」
私はスクリーンに、ドワーフのゴーレムから回収した『星渡りの航海図』を映し出した。
「防戦一方じゃジリ貧よ。やることは一つ。反撃よ」
私の言葉に、誰もが息を呑んだ。
「セレスティア、ワープドライブの理論を覚えている? 目的地へ進むんじゃない。目的地側を引き寄せるのよ。この理屈を応用するわ」
私は航海図に示された二つの座標を指し示した。
「一つは、今回出撃してきた『剪定者』たちの出発基地であり、ハーヴェスター・オリジンの中継ステーション。そしてもう一つは…おそらく、この第七庭園ガイアを管理している 『創造主』の観測拠点 」
私は不敵な笑みを浮かべた。
「太陽が放つ、惑星を滅ぼすほどのスーパーフレア。この絶対的な破壊エネルギーを、ただ防ぐだけじゃもったいない。この『神の槍』の届け先を、神様自身のおうちに変えてあげるのよ!」
オペレーションルームが、アキのあまりに突拍子もない宣言に静まり返る。その沈黙を破るように、ウルちゃんの極めて冷静な声が、全員の脳内に響き渡った。
《作戦概要を理解しました。飛んでくる惑星破壊規模の銃弾を、その場でキャッチし、銃弾を発射した相手の眉間に、寸分の狂いもなく投げ返す、と。…晶、あなたの思考は、時々、物理法則よりも先に常識を置き去りにしますね。》
絶望的な状況の中、私の瞳には、もうかつての空虚感の影はなかった。そこにあったのは、仲間たちと共に、絶望的な未来をこじ開けてみせるという、燃えるような、強い意志の光だけだった。




