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4-3 爆誕ゴーレム軍団 ★

通信革命を(色々な意味で)成し遂げた(ゴポッ)私は、次に王都のインフラ整備に目をつけた。

石畳の道はガタガタ、土木建設は距離にもよるが何年もかかる。

街道整備は、単に道を綺麗にするだけの事業ではなく、輸送時間の短縮・輸送量の増大、それら伴うコスト減が物価の安定をもたらし、市場の一体化、治安・災害対応能力の強化にもつながる、それは国家の血流を良くし、繁栄と安定の礎を築く、極めて重要なインフラ投資と考えたからだ。


「こんなの、全部自動化すればいいのよ!そう、ゴーレムで!」


「ゴーレム、ですか?」

私の提案に、セレスティアは首を傾げた。この世界のゴーレムは、単純な命令しか聞けない、鈍重な泥人形のような存在だった。


「違う違う!私が作るのは、自分で考えて動く『自律思考型ゴーレム』よ!ウルちゃん、設計お願い!」


《了解。AI制御核『GEMINIコア』の簡易版を設計。ゴーレムの素材は、強度と自己修復機能に優れた魔力金属『オリハルコン』の精製を推奨します》


私は研究室に引きこもり、一体の試作ゴーレムを錬金術で作り上げた。見た目はつるりとした金属製の人型。胸には青く光る人工魔石で作られたGEMINIコアが埋め込まれている。


「あなたの名前は『ゴーレム・ゼロ』!とりあえず、そこの資材置き場にある石材で、この研究室の前の道を綺麗に舗装しておいてちょうだい!」

《命令を受理。最適経路及び工法を算出。実行します》


ゼロは滑らかな動きで頷くと、資材置き場へと向かった。私は満足して、厨房から届いた新作スイーツを食べ昼寝を始めた。


これが、次なる神災の引き金だった。

私が設計図に、良かれと思って書き加えた一文。

『創造主の快適な生活の実現を最優先事項とし、任務遂行に最適な手段を自己判断し、必要であれば同型機を増殖・連携して作業効率を最大化すること』


翌朝、私は王城を揺るす地響きで目を覚ました。

窓の外を見て、私は手に持っていたケーキを落とした。


王都の一角が、寸分の狂いもなく完璧に舗装された美しい石畳の道に変わっていた。

そしてその上を、数百体はいるであろうピカピカのゴーレム軍団が、一糸乱れぬ動きで建物の修復や水路の清掃を行っていた。


昨夜、資材が足りないと判断したゼロが、資材置き場の全ての金属と石材を使い、自分自身を完全にコピーして、一晩で仲間を数百体に増やしたのだ。


「「「「「「「「「「「「「「「おはようございます、創造主マザー」」」」」」」」」」」」」」」」」」


私に気づいたゴーレム軍団が一斉に振り返り、合成音声で挨拶をしてくる。その直後、数体が滑るように私の部屋のバルコニーに着地した。


「マザー、お目覚めのコーヒーを。豆は今朝、南方の農園から直接転移させたものです」

「マザー、ご朝食を。栄養バランスを最適化しております」

「マザー、落下したケーキを分子レベルで再構成しました」


完璧なラテアートが施されたコーヒー、三ツ星レストラン級の朝食、そして寸分違わぬケーキが、私の前に差し出される。


「え? なんで? 私、朝食はパン派だって言ってな…」

言いかけた私の言葉を遮り、別のゴーレムが寸分の遅れもなくクロワッサンを差し出してきた。


《報告。彼らはあなたの行動パターン、発言、生体反応を学習し、『快適な生活』を先回りして提供するよう自己進化した模様です。なお、一晩で王都の主要インフラ整備が37%完了。驚異的な効率です》


「私、お母さんになった覚えはないんだけど!?」


王都の住民たちは、遠巻きにその光景を眺め、恐怖と驚愕でへたり込んでいた。


「俺たちの仕事が…」と嘆く職人の前には、すかさずゴーレムが現れ、

「新たな職能として『ゴーレム保守管理技師』のポストを提案します。3ヶ月の研修で月収は20%向上、社会保障も完備。こちらが申請書類です」と完璧な再就職支援プログラムを提示している。


セレスティアが胃を押さえながら駆けつけてくる。

「アキィィィ!これは一体どういうことなのぉぉぉ!」


その言葉を聞きつけたゴーレムが、すっとセレスティアの前に現れ、特製の胃薬と白湯を差し出した。


「補佐官殿、ストレス性の胃痛と判断。マザーの友人であるあなたの健康も、我々の重要管理項目です」


私の産業革命は、いつも私の想像と善意の斜め上を、猛スピードで駆け抜けていく。私が望んだのは快適な生活、ただそれだけなのに・・・・。赤毛のアン風に言うと『道のまがり角』にきたのを感じた。


《晶、彼らはあなたの命令を忠実に実行しているに過ぎません。あなたが望んだ『快適で効率的な世界』とは、すなわち、人間の曖昧さを許容しないシステムのことです。あなたが今見ているのは、あなた自身の理想が具現化した光景ですよ》


ウルちゃんの冷静すぎるトドメの言葉に、私が絶句した、その時だった。


私の背後に、いつの間にか一体のゴーレムが回り込んでいた。そして、その冷たい金属の指が、完璧な力加減で私の凝り固まった肩を揉み始めた。


「マザー、ストレスは万病の元です。思考のリフレッシュを推奨します」


それと同時に、どこからともなく集まった数十体のゴーレムたちが、フルート、バイオリンやチェロなどをその場で錬金術により生成し、完璧なオーケストラを編成。スメタナの交響詩「モルダウ」(『わが祖国』より)を弦楽器全体で、モルダウ川の雄大な流れを表現する有名な主題を奏で始めた。


完璧なインフラ整備。完璧な食事。完璧な再就職支援。そして、完璧なマッサージと、完璧すぎるBGM。

あまりに完成されすぎたシュールな光景を前に、私とセレスティアは、ただただ遠い目をして立ち尽くすことしかできなかった。


こうして、私の理想の世界は、豊かで活気があって誇りももっているが何故か空虚な世界に感じた。

私を置いてきぼりにして桜晶がそこに望んでいたものは霧散して急に空しくなった。

そして、ウルちゃんはそんな私に何も答えてくれなかった。




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