十日おいてこんなもの
「こちらからもひとことよろしいですかな?」
白髭の魔法使いがまえに出た。
「このパーティーの魔法使いであるラーラは、この滞在期間の間にわが研究所に協力してくださり、このごろ山のほうで増えてきていた野菜のかたちをした魔族を近寄らせないための魔法術を提供してくれました。おかげで山沿いの農民たちは安心して作業ができるようになりました」 ながいひげをなでながら、自分の身内を自慢するようにドウドが胸をはって前にでる。
「そんな。ドウドさま、少しでもお役に立てて光栄ですわ」
しおらしくお辞儀をするラーラを、勇者一行の仲間は『あー、あれな』という気持ちでみた。
この旅で畑があるところで必ず出てくる《野菜のかたちの魔物》に、《魔術》ではなく、畑で熟れていた《トマト》を投げつけられたラーラは、お返しに、あたり一帯がすべて《なくなる》ような大技をつかい、めずらしくリミザに説教をされた。 そこで、それなら最小限の被害で最大級の成果を、というテーマで《野菜のかたちの魔物》だけに特化した魔術を日々研究するようになり、独自に開発した魔術があるのだ。
その魔術は、《野菜》の魔物たちの皮をむくように溶かし、内側をぐちゃぐちゃにして破裂させるものなのだが、それをかけるときのラーラはとてもこわい笑顔をうかべ、『野菜は塩に勝てない』とつぶやくのをみんな聞いている。
「農民の役に立つのと《ドラゴン退治》とは、まったく関係はないでしょう」
手をあげたエイジェスがやさしい声ですすみでた。
この司祭の態度がまったく変わらないのはみんなの予想どおりだ。
あれだけの態度をとられ、ラフィーにエイジェスと仲良くなれというのは無理だったし、だれにきいてもエイジェスと友達になるのは無理そうだったし、ガットもなりたくなかったので、そのまま放置してあった。
「 ようは、この者たちをこのまま、《白銀のドラゴン》のもとへいかせていいのかということです。そのための審査でしょう」
司祭は勇者一行の近くまでくると、じろじろとみんなをながめ、白いゆびをたてた。
「ふむ。 ―― プライドだけ一人前の司祭にはすこしの自覚が、家柄は名門な二流戦士にはそれなりの覚悟が、歴史だけやたらある魔法族の魔法使いはすこしはつかえるように、あと、家を継がせるためにしかたなく養子でとられた勇者は、まあ、死んだままか。 ―― 十日おいてこんなものですが、コルックさま、いかがでしょうか」
ひとりひとりをさしてから、大臣をふりかえる。
「エイジェス、それいじょう失礼なことをいうなら、おまえは王室付きの教会から出て行ってもらうよ」
大臣よりもさきに、ムシール王が椅子からたちあがった。
「いいかい、何度でもいうけど、わたしたちはこの人たちに《ドラゴン退治》を頼んでいるんだ。彼らは仲間の一人が死んだというのに、《強くなったその状態ならきっとドラゴンを倒せる》と確信して、しかたなく、死んだままにしているんだぞ。大事な仲間を、ずっと!」
拳をにぎったムシール王に、なにかをいおうとしたリミザの口はすみやかにガットにふさがれた。




