黒い聖書
カップが手から消えたラーラが、文句のつづきを賢者と戦士のどちらにいうべきか二人をみくらべてにらむと、「説明してくれ」と、ガットがラフィーからリミザをひきはがし、肩にかついだ。
「 ―― 《黒魔術》の《リビングデッド》で生きかえったやつなんて見るのもはじめてで、いまいち納得いかねえから、おまえがお茶をいれるぐらいでリミザを好きにつかうってのにも腹がたってたんだが、 ・・・この魔術は、『そういうもの』なんだな?おい、おれたちにもちゃんと説明してくれよ」
棺桶にリミザをよこたえながらラフィーをみる。
「・・・きみたちに説明しても、・・・」
「いいから説明しろっていってんだ! いいか、ラフィーよくきけ、おれは頭はわるくたって、そういうのなんとなくわかるんだよ。 おまえさっき、《あせってこまった》んだろ?」
「『こまった』?さっきリミザに怒ってたのが?」ラーラがくちにしてから、なにかに思い当たったようにラフィーをみた。
「まあ、プライドのたかいおまえが、おれたちによけいなこと知られたくないってのもわかるけど、いまはリミザのことを考えて、我慢して話しとけ」
棺によこたわるリミザの眉が、ひきつったように動くのをみながらガットは蓋をとじた。
腕を組んだラフィーが、ガットとラーラからの視線にまけたようにため息をつく。
「 ―― わかりました。では、・・・まずは初歩的なところから。『黒い聖書』のことですが、もちろん、知ってますよね?」
ラフィーはラーラをみた。
「そりゃもちろん。《賢者》がつかう《黒魔術》に必要な《道具》でしょ」
「ほんとうならそのこたえを徹底的に馬鹿にして笑いたいところですが、いまはやめておきます。 いいですか?『黒い聖書』が道具屋で売られているのをみたことありますか?」
ものすごくまゆをしかめたラーラが、そりゃないけど、と負けをみとめる。
「 ―― 『魔族の聖書』なんだな?」
ガットのこのつぶやきに、ラフィーはくちをあけ固まった。
それをみたラーラが、アタリなのね?とガットの背をたたく。
「どうしたのよ?ガット? なんか今日、すっごく冴えてるっていうか、なんか、きゅうに頭よくなったっていうか・・・」
「うるせえな。もともとおれは、本読んだり考えたりするのが好きなんだ。だけど、親父にうちの『戦士』家業にそういうのはいらねえから、『考えるな』って言われて育ったんだよ。だから、ガキのころは、親父にかくれて教会のじいさんとこに遊びに行って、本をかりてた。そのじいさんがきかせてくれた、おもしろいはなしに、『禁断の聖書』っていう、魔族の司祭からうばった聖書のはなしがあったのを思い出したんだ。《賢者》が《黒魔術》につかう聖書は、それなんじゃねえのか?」ぼりぼりとひげをかき、ラフィーをじっとみる。




