《指示》ではない
やめとけ、とガットの声が割って入る。
「こんなとこでおまえらが魔術合戦したら、遠くにいる魔族が寄ってくるかもしれねえだろ。そんな騒ぎで入国拒否されたらどうすんだよ」
いままでもそんなことが原因で、一週間国境の森で待機させられたことがある。
「めずらしくガットが頭をつかいましたね。その意見には賛成です」
ラフィーがカップにくちをつけ、ラーラも不満そうに杖をしまった。
「はい。では、お茶でも飲んで、おちついてください」
ラーラがうつむいたそこに、ハーブティーのみたされたカップがさしだされた。
おどろいたラーラがラフィーをみると、椅子にこしかけた男もおどろいた顔をしている。
「 ―― ちょっとまった。リミザ、わたしはそんな《指示》だしていませんよ」
カップをテーブルにおき、身をのりだしたラフィーに、リミザがほほえみかけた。
「だって、ラフィーさまの《指示》は、要はこの旅があなたにとってより良いものになるように、っていうものでしょう?」
「 っそ、それは、 ―― それは、黒い聖書とわたしの《契約》内容だ。わたしがおまえにだす《指示》は、棺からだしたときにおまえを使役するもので、それとはちがう」
ラフィーの顔がみたこともないほど赤くなる。
教会の《司祭》から、このパーティーの《賢者》になった男は、どんなときにもほぼ顔色を変えないままここまで来ている。
感情というものをきっと教会に置いてきたのだろうとガットは思っていたので、赤い顔で怒りをこめたようにリミザをみるその様子が意外だった。
「ええ?でも、あなたの旅はこの人たちといっしょにしてるものだから、この人たちと仲良くしたほうが、旅はずっと良いものになるでしょう?」
リミザがまるで死ぬ前のリミザのようなことをくちにした。
「そうよ!リミザ、そのとおりだよ!」
カップをうけとったラーラが立ち上がってリミザを片腕でかかえこんだ。
「やっぱり、死体になってもリミザはリミザなんだ!優しさがあふれちゃってる!」
「弱気ともいうけどな。 ―― どうするラフィー、このままリミザを連れて森をいくか?それとも、棺桶につめかえすか?」
「ガット、何言ってんの?あんただけお茶がもらえなくてくやしいのはわかるけど、棺桶にもどさなくたって、」
ラーラがガットのほうをふりむいたすきに、ラフィーがリミザの胸を突いた。
とたんにリミザは力をなくし、ラフィーがそれを支える。




