下僕のように
「・・・実際、ラフィーのあの魔術がなかったら、ほんとはリミザは、もう完全に死んでたわけだし・・・」
「そりゃ、おれもわかってる。・・・わかってるけどよ、棺桶からリミザを起こすのはあいつしかできねえとか、戦う時だって、ラフィーの命令がねえと動けねえ上にいわれたとおりにしか動けねえとか、ほんっとめんどくせえんだよ。あんなふうにお茶をいれるとかは動けんだから、なんか、こう、前みたいに、リミザの気持ちで、もっと自由に動けるとかねえのかよ。あれじゃまるであいつの『下僕』じゃねえか」
足をくんで椅子にすわるラフィーにお茶をいれ、魔術でとりだした焼き菓子をすすめているリミザをめでさすと、「おやおや」とわざとらしくラフィーがまゆをあげてみせる。
「リミザ、どうやらむこうにいる方たちも、きみにお茶をいれてほしいようだね」
「え?でもおれ、ラフィーさまにしか、いれないので」
まゆをさげてこちらをみるリミザに悪意はないし、それが事実だ。
ラフィーに魔術をかけられ動いているリミザにとって、ラフィーは『主』でありリミザは『従』という立場になる。そのうえ、自分で考えることはない操り人形のような状態なので、ラフィー以外の仲間であるガットとラーラは、《ラフィーさまの仲間の戦士と魔法使い》ぐらいの認識しかない。
「あんたが、最初からあたしたちみんなにお茶をいれて、って言えばすむことだけど、べつにあたしとガットはリミザにお茶をいれてほしいわけじゃないもの。 だいたいあんた、『自分で飲むお茶は自分でいれる主義だ』とかいってたくせに、なにリミザににやらせてんのよ」
「 ちょっと、術のかかりぐあいをみようとおもったんですよ」
ラーラの指摘にお茶をすすったラフィーはほほえみながら足をくみかえた。「 ―― なにしろわたしもこんな黒魔術をつかうのははじめてなので、様子をみてみようと思いましてね。 どうやら《リビングデッド》になっても学習能力はあるようですよ。最初に棺桶から起こしたときにお茶をいれる指示をだしたあとは、もう指示しなくともお茶の支度をするようになりましたし、テーブルもポットもだして、お茶菓子まで用意するようになりましたからね」
自分の手柄のようにラフィーがうなずくのに、ラーラは腹が立つ。
「それって、リミザのもとの性格ってことでしょ?人に気を遣える人間なのよ。あんたとちがって」
「たしかに。リミザはもとから気遣いが細やかでしたね。あなたとちがって」
にっこりとカップをかかげる
「やるか?クズ司祭」
いつものようにラーラは杖を両手でにぎる。
「いいですけど、リミザは仲裁にはいりませんよ」
いつもの倍の余裕をみせ、ラフィーはほほえんだ。




