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第3話 風のあとに残るもの



魔物が倒れ、森の中に静けさが戻っていた。


討伐隊の男たちが、地面に倒れた獣を囲むようにして立っている。体長は人間の倍ほど、黒い毛並みに鋭い爪、そして喉にはラルスの矢が深く突き刺さっていた。


「……信じられないな」


誰かが呟いた。


ティアはまだ石の破片を手の中に握りしめたままだった。呼吸が浅く、心臓の鼓動が耳に響いていた。けれど、不思議と恐怖はなかった。


ラルスが一歩近づき、魔物の体に足をかけて矢を引き抜いた。


「お見事だったな。あの一投がなけりゃ……こいつの爪が誰かに届いてた」


「わたし、そんな……ただ、手が勝手に」


ラルスは軽く眉を上げると、石の破片を見た。


「それ……ただの石だよな?」


ティアはうなずいた。


「……石、なんですけど。持つと、空気が軽くなる気がするんです。……ずっと、そうでした」


ラルスはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと漏らした。


「やっぱり、あんたのことは、もう少しちゃんと見ておくべきだったな」


それはどこか、自分自身に言い聞かせるような声だった。



帰り道、森の木漏れ日が差し込む中、リゼ婆が村の入り口で待っていた。


「よく戻ってきたねぇ」


ラルスが軽く手を振ると、リゼ婆はその目をティアに向けた。


「風はなんて言ってた?」


「……まっすぐに、進めって」


リゼ婆はそれを聞くと、笑ったように、でもどこか寂しげに目を細めた。


「……昔も、似たような子がいたんだよ。あの風に、どこかへ連れていかれてさ」


ラルスがそのやり取りを横目に見ていた。だが、何も言わなかった。


村に戻ると、人々が口々にティアを労った。「すごいよ、ティアちゃん!」「さすがだなあ」と口々に声をかけながら、その目は笑っていなかった。


ティアはそれに気づいていなかった。


彼女の視線は、ただ風の向く先──遠く、帝国のある方角を見ていた。


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