第4話 無の色、風の導き
夜の村は静かだった。
木の家々のあいだを抜ける風が、どこか言葉のように耳をかすめていく。そんな空気の中で、ティアはリゼ婆の家の戸口に立っていた。
「入りなさい」
声は、思ったよりも穏やかだった。ティアが扉を開けると、暖炉の火がぱちぱちと音を立て、薬草の香りが鼻をくすぐった。
「今日は……どうして私を?」
「話したいことがあってね。あんたにしか見えないもんがある」
リゼ婆はそう言って、囲炉裏のそばに腰を下ろした。
「まず、こいつを見ておくれ」
そう言って取り出されたのは、掌ほどの丸い石だった。淡く光を反射するそれは、先日の魔物の体から取り出されたという魔石だった。
「魔獣ってのはね、普通の動物が長く生きて、魔力を宿すようになるとこういう石を体に作るようになるのさ」
ティアは魔石をじっと見つめた。何の変哲もない石に見える。
「ちょっと、あんたの魔力を込めてごらん」
「魔力を……? どうすれば」
「石に触れて、さっきみたいに。あのときみたいに、力を流すだけさ」
ティアはそっと石に指先を添えた。目を閉じる。すると、胸の奥がかすかに熱を帯びるような感覚があった。
次の瞬間──
魔石が、淡く、**白く**光を放った。
ティアは驚いて手を引いた。
「これ……白?」
リゼ婆は静かに頷いた。
「やはり、そうかい……」
「リゼ婆、魔石って……色がつくんですよね? 属性で」
「そう。火なら赤、水は青、風は緑、土は黄。魔石は込められた魔力の属性を、色で映すのさ」
「じゃあ……白は?」
「“無”じゃ」
ティアは息を呑んだ。
「無属性……?」
「属性を持たぬ魔力は、どんな形にもなれるし、どんなものにもなれぬ。だからこそ、恐ろしくもある」
しばらく沈黙が落ちた。炉の火だけが、部屋を柔らかく照らす。
ティアは、目を伏せたまま、白く光った石の余熱を指に感じていた。
(……どんなものにもなれぬ、か。私は……)
「それを正しく知ろうと思うなら、村では限界がある。ティアが何者なのか、どうして風に選ばれるのか……」
リゼ婆はそれ以上、何も言わなかった。
ただ、火の灯りを見つめながら、誰にも見えない顔で、うなずいていた。
ティアは膝の上で手を組み、しばらく目を伏せていた。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「帝国に行きます。……魔法に詳しい人を探しに」
ティアの言葉に応えるように、囲炉裏の火がひときわ高く揺れた。
外では、ひとすじの風が戸を鳴らしていた。
リゼ婆は目を細めた。
「風が、そう言うておるよ」




