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ヒロイン  作者: 十矢


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20/20

がんじょうにこていした

 少し上がったあと山の頂上までいくのかと思ったら、けっこうな低空で海にいく。


 そのあとまた少し上がったけれど、それでも低空だ。

 それほどに速さはでていないけれど、山の岸壁に沿っていくため、少し怖い。


 ときどき張り出しがあり、ぐぅと曲がっていく。

 躱して、また曲がる。

 あまり竜は、上にのぼりたくないらしい。


「ちょっと……低過ぎないかしら」

「平気だろ」


 そうはいっても、先ほどから風を気にしている。


「今日荒れるのか?」

「そうかしら、わからない」


 ハッシュリシアスも後ろを飛びながら、竜にたずねている。

 そのまま飛ぶと、少しだけ高くなった。

 それでも岸壁にはまだ近い。


「なにか急いでるの?」

「違うな」


 考えてみるも思い当たるような出来事は、ない。

 山沿いをそのまま沿うように上がっていく。

 なんだろうと思ってみていると、わたしたちより、はるか山の高くに竜の影がみえ隠れする。

 団体のようだ。


 お祭りをしていた街とは違う方面にいくようだ。

 ライラリックュスがわたしの竜に寄せたあと、少し声をあげつつ聞いてくる。


「もしかして、あの団体と遭遇しないようにですか!?」

「まぁ……な」


 なんの団体なのだろう。

 小さくしか観えていないけれど、先頭の竜は旗を揚げている。

 わたしたちの位置なら、よほどこちらを意識しなければ、向こうは観えていないはずだ。


 何機かいるため、こちらはそのまま少しずつ上げながら、山をのぼっていく。


「まだいるわ」

「あの連中は、別の街だな」


 はじめに観えていた先頭からの集団が、まだ続いていた。

 前回のわたしたちの団体ほどではないけれど、それでも数がいる。


「途中でわかれるのかな」

「どうかな。ただ、あまりいい連中じゃない」

「わかるの」

「装備やまとまりでなんかな」

「そう」


 ヒロスターニャがいうなら、たぶんそうなのだろう。

 山を少しずつ飛びながら、上がるとようやく集団がいなくなる。

 そのあと速さをあげていく。

 それで、ロープなどを頑丈にしたらしい。


「あまり上げると、ついていくのが大変だぞ」

「置いていくことは、しないさ」


 ハッシュリシアスが苦笑いしている。

 ついてこい、と言っているのだ。


「少し気分が上がっているの。悪いわね」

「いいさ」


 ヒロスターニャを迎えにいったときに、なにか気分が悪そうだったのは、いまの話しを聞いたからのようだ。


「よほど、よくない噂ね」

「なにか言ったか」

「なにもないわ」


 高くなってきた頃になると、山の頂上がみえてきた。

 出発する前の予想通り、上は風があるようだ。

 ひとつ山を越えられそうだと思っていたら、その先もまだずっと山が続く。

 谷になり、また山になっている。


「ロープちゃんとな」

「ベルトと腕に固定されているわ」

「頑丈だな」

「なんだか出る前の言い方があったから」

「そうだな」


 表情はここからはみえていないけれど、にやりとしているだろう。

 ライラリックュスはゴーグルもしていて、長くなるとみているようだ。


 谷を過ぎて山をのぼると、また次の谷になる。

 ひとつ越えると風向きが違うのは、谷の風のようだ。

 三度ほど繰り返してから、ようやく小さい谷の街が見えた。

 でも、そこは目的じゃないため下に観ながら、また上がっていく。


「あんなに谷に住んで平気なのかしら」

「その土地でしか、みつからないものや鉱山もあるんだろ」

「ヒトは少ないのね」

「そうだろうな」


 先ほど下からみていた集団のいた位置くらいになると、左方面は開けていて、ほかの街にでるようだ。

 わたしたちはまっすぐ向かい、さらに山をいく。


 ハッシュリシアスがときどき自分の竜に話しかけている。

 以前わたしにそんなに話すのかと聞いていたから、話す気になったのだろう。

 竜と話しをするのは、いいことだ。


 まっすぐ山があるため、上がっていく。

 ライラリックュスが、うわぁと言っていてみるのは、山の左側が崖になっている。

 下に続き、底は川がある。


「けっこう上ってますね」

「もう少し高くなるわ」

「うわぁ……」


 ライラリックュスもベルトで固定してあるのだから、落ちはしないだろう。

 それでも、声に出す気持ちはわかる。


 ときどき左右に揺れるのは、羽を大きく羽ばたいている。

 三機の竜なため、これでも抑えめだ。

 以前の団体での飛ぶときには、先頭が速度を落とすと、最後尾がかなり遅くなるため、その分荒い飛びかただった。


「この山の先かしら」

「そうだな、もう二つくらいあるか」

「ライラリックュス平気?」

「……えぇ落とされないだけ平気」


 おくれて返事がくるのは、少し気分が下がっているらしい。

 ちらりと、ライラリックュスの竜がこちらを見る。

 けっこう気を使う竜らしい。


 だいぶ見晴らしがよくなると、かなり高い山だったことがわかる。

 さらにもうひとつあるために、上はもう雲の中にある。


「少し雲あるけど」

「気にするな。あれくらいは薄い」


 竜がいうなら、安心だ。


「以前雷……」

「ははっ……あの頃のは思い出すな」


 雷雨に突っ込んでいたときには、たしかにあまり思い出したくない。

 いい経験じゃない。


 少し暗くなり、それが過ぎると、次の山沿いになっている。


「もう少し!」

「はい!」


 さらに速度が上がり、ライラリックュスが頷いている。

 ようやく頂上だ。

 すっと明るくなると、壁が近くなっていたけれど、上手く上がれた。


「頂上だぞ、降りるか」

「冗談ね。踏み場所ないわよ」

「まぁ……眺めはいいな」


 ハッシュリシアスが驚いた表情をしているため、わたしもみると、たしかにいい眺めで感想がすごいしかない。


「すごいわ」

「本当だな。上ってきてよかった」


 ときどき竜と飛んでいると、絶景をみられるけれど、ここの景色もそのひとつに入る。


「下がるのが惜しいな」

「空気は、だいぶ薄いわ」

「回復用のでも、食べてな」


 そのまま少しの間、右回りで空を飛ぶ。

 竜も、この眺めは気に入ったようだ。


 数周かしたあと、向きを変える。


「下りるぞ」


 ヒロスターニャがゆらりと、頂上から離れていく。


「ここまで上ってきたのは、久しぶりです」

「そうなの」

「街から街まで、少しずつ飛んでるから」


 ライラリックュスが飛ぶときに、少しためらう感じだったのは、慣れてなかったことらしい。

 けれど、いまの様子はけっこう眺めを真剣にみている。


 ヒロスターニャがゆっくりと下げていく。


 山沿いは近くなるけれど、今度はそれほどには怖くない。

 ただ空気は薄く、呼吸は荒い。

 呼吸用のマスクはあるけれど、そこまでではないため、そのままにする。

 竜たちは、やはり肺も頑丈なのだろう。

 以前子どもの竜が病気をしていたときもあるため、成長するとここまで頑丈になるのだと思う。


 下りになるも、速度は上げない。

 たぶん呼吸や負担を考えているのだろう。

 薄い雲があり、それを越えてもまだ山は続いている。


「街まで遠いね」

「もう少し進まないと、観えないな」


 上は温度が低いはずなのに、汗をかいてくる。

 ベルトもロープもあるため、そこまで力は要らないけれど、それでも運動していることになるのだろう。

 ハッシュリシアスがまた話しだす。

 意外と高い場所にも慣れている。


「怖くないの」

「そうでもないが、街までまだ離れてるな」

「時間かかるみたい」


 風があまりないのは、よかった。

 強い風の場合、竜にもわたしたちにも、疲れがでる。


「どれくらいかかりそう」

「わからないな」


 ヒロスターニャも、そこはわからないらしい。

 それでも確信もった飛びかたなため、ここの山は、はじめてではないみたいだ。


 山は、先ほどの崖よりも柔らかい肌になり、草や木が高くなっている。

 ときどき高いところが好きなのだろう鳥が、近くで通り過ぎていく。

 下ってきて、また上ってからだんだんと低くなってきた。


「あれかな」

「どれのこと?」


 ハッシュリシアスが横に並びながら、話す。


「小さい川がみえて、そのさらに向こう」

「川」


 なかなか見つけられないでいると、ヒロスターニャが少し斜めにしてくれる。


「見えるか」

「そう! あれね」


 街が小さくみえている。

 街道もあるらしく、路が向こうにまで続く。


「もう少しだな」


 以前団体で飛んだときにも思ったことだけど、ハッシュリシアスは長飛び旅に慣れているらしい。

 ほかの竜乗りと話していたり、背中に乗っけてある装備品を器用に使う。

 わたしもあれくらいは、できるといい。


「けっこう飛んできたわね」

「三時間……もっとか」

「そんなに?」

「上にいると時間なんてわからないものさ」


 ライラリックュスも少しほっとしている。


「平気そう?」

「さっきの」

「なに」

「さっきの団体、大陸からきたんじゃ」

「なんでそう思うの?」

「旗みたことあるかも」

「そうなの……」


 かなり遠い位置ではあったけれど、ライラリックュスには観えたみたいだ。


 山の間の川に沿うように下がり、だんだんと街の様子がわかってきた。

 十字型に、街路ができている。

 街の入口は、四か所あるようだ。


「真ん中の広場がおおきいわ」

「けっこう大きい街だな」


 二人は街並みをみるくらいには、余裕があるようだ。

 近づいてくると、たしかに大きい街だ。

 ここであれば、装備品をたくさん仕入れられるだろう。


 けれど、街の入口がわたしの眼でもはっきりしてくると、だんだんと様子がおかしいことに気づいた。

 手前にある入口でヒトが集まり、荷物を降ろしたりしている。

 竜も待機しているようで、何頭か離れた位置にいる。


 街の上の高いところで、別の竜たちがぐるりと降りようとせずに回っている。


「どうしたんだ」

「わからないわ」


 このまま広場にまで降りていくのは、危険かもしれない。

 話しをする前にヒロスターニャは、入口近くまで下げていく。


「降りる?」

「そのほうがいいな」

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