ねんだい
アンティークのお店で石についてたずねていると、泣く石をみせてくれるという。
竜との関係は、わからない。
何種類もあるという石のなかのひとつなのか。
ほかにもショーケースのなかには、たくさんの鉱石や魔導石が並ぶ。
それでも、値段はまだそれほどでもないため、もっと質の良いものは、他に保管されているのだろう。
大切そうに、手袋をしてから中から取り出す。
見た目がさきほどの石より、少し違う気がする。
「これですか」
「不思議なものなんですよ」
店員がケースの上に出してくれるため、二人ともみるけれど、どう泣くのかよくわからない。
「これどうなるんですか」
「少しお待ち下さいね」
離れると、カウンターから水の入るコップを持ってくる。
下に敷物をしてから、上から水をポタッとたらしている。
少し待つと、キュウだかミュゥだかよくわからないけれど、音がする。
「これって」
「水や魔力など、そのほか種類をいくつか合わせると、こうして鳴くんです。子どもたちは、なかに竜がいるね、とよく言いますね」
「鳴いてる……」
「なんだか寂しいな」
「そうです! 伝わる話しだと、この鳴き声が地の竜が昔を懐かしんでるといいます」
少しだけわかってきた。
雨が関係するのかは、わからないけれど、地の竜の近くに、こうした鉱石や魔導石がいくつもありお祭りの時期になると鳴き声を頼りに、ヒトが探すお祭りなのだろう。
「普段は、聴こえないのですか」
「そうですね。普段の雨やわたしたちが魔力をいくら使っても、この時期しか反応しません。これは、加工してあるため、こうしてお見せできます」
そのあと、いくつか質問をしたあとアンティークの品のインテリアと、腕輪などを少しだけ購入した。
お店をでると、ライラリックュスが改めて話しをする。
「鳴きってそういうこと」
「加工して鳴くのだから、そのまま地面にあるときには、気づかないのかもな」
石については、わかってきた。
あとは、竜が声を探しているというものだ。
「竜が話しているのは、その石?」
「でも、時期がきたらあぁして、聴こえるだろう」
違うのかもしれない。
天気がよくても雨とも言っていたし、それなら、石の鳴き声とは違うのか。
ライラリックュスが買ってある腕輪をして、なにか遊んでいる。
でも、なにか考えているようだ。
「どうしたの?」
腕輪をくるくるしている。
「これって」
「なに」
腕輪をした腕をこちらにみせてくる。
ハッシュリシアスものぞきこむようにしている。
「なにか書いてあるな」
わたしも近くにいくと小さいけれど、なにかある。
「これは小さいけれど、泣き石よね」
小さく並べられている石は、それだ。
「なにか読める?」
「どうだろうな」
ライラリックュスが外すと、今度は日にかざしたりしている。
「みたことあるような……」
「わかるの?」
「もう少し、はっきりしていれば」
「あ、あの場所いきましょう」
「どこ」
上手くいくかもしれない。
開いているといいけれど、いってみよう。
「ここって」
「セイントクロスだな」
ハッシュリシアスを待ち合わせていた場所だ。
二人とも、セイントクロスを見上げているけれど、それではない。
「はやくいきましょう」
教会のなかに入っていく。
やはり神父さまかシスターが場所を離れていたから、閉まっていたらしい。
扉は開いていた。
いまはなかのベンチにはヒトはいなく、音楽も鳴っていない。
教会のもっと深くは、わからないけれど、少なくとも、いまは神父さまだけいる。
「旅のかたでしょうか。もしかして、さきほど来られたりしましたか?」
「はい。もう一度来てみてよかったです」
「それは、なかなかに良い機会です。さきほどに戻ってきたところなんですよ」
落ち着いた声に、眼鏡をかけている。
服装は、ほかの教会でもみかける神父服だけれど、少し色や飾りが違う。
首襟にあるバッチが豪華であり、それなりに位が高いヒトらしい。
「慌ただしいなかですが少し大きめな鏡、それか、反射するものを貸していただけないですか?」
「鏡……ですか。ちょうど正面の横にある壁に、鏡がありますが、そちらでは、どうでしょうか」
さっそくライラリックュスを連れていく。
よくわかっていないらしい。
「え……わたしが映るだけですよ」
「違うわ。腕輪」
神父さまも興味ありそうに、こちらに来る。
ライラリックュスの腕輪を持ち上げて、そのまま鏡の前にいく。
「ちょっと、どういうんですか」
少し戸惑っているけれど、みたほうが早いんじゃないかな。
「ほら、見てみなよ。文字が読めるかも」
「え」
鏡には、腕輪の文字がよりはっきりと映る。
「そうでしたか。腕輪に文字があるんですね。これは、なに文字でしょうね」
ライラリックュスの腕近くまで来て、鏡をみている。
わたしも鏡をみると、たしかになにか書いてある。
「ライラリックュス読める?」
「読めますか? わたしも少しずつなら」
「神父さまも読めるんですか」
「いろんな書物を倉庫で読むことになりますから」
意外と神父さまも、勉強することがあるらしい。
腕輪を近づけたり、遠くにしたりしつつ、読める角度を探す。
「むにゃ」
「ふにら」
「とまは」
「ちょっとなにそれ」
「旧い文字で妖精……竜……なんでしょう」
「魔導書のにも似ていますが、それは、ずいぶんと旧いものになりますね」
判別は、大変だとわかる。
ハッシュリシアスとわたしは、お互いに待つしかない。
でも、すぐにはわからないらしい。
「読めないですぅ!!」
「なにか腕輪にまつわることでも分かれば、いいのですが」
二人がムズカシイ顔をする。
ライラリックュスは、泣きそうな顔にもなっているけれど。
アンティークショップでみつけたときには、詳しくはわからないみたいだった。
はめてある石は、泣き石だ。
竜に関する話しなのだろうか。
腕輪に、なにかわかることはないか。
「この腕輪は、どれくらい旧そうなんだ」
ハッシュリシアスが、腕輪の装飾をみている。
「ある程度推測ですが」
「おそらく、百年は経ってますね」
「もう少し経ってるかもですよ」
ライラリックュスと神父さまが、腕輪をみている。
「倉庫に、なにかしら飾りなどに詳しいのはありませんか?」
ハッシュリシアスがたずねると神父さまが、そうですね、と言ってから、いまみている鏡を動かしはじめる。
ぐっと抑えると、すぐ横にある壁が少しずれた。
「ここ扉なんだ」
「避難経路にもなっているんですよ。どうぞ」
中に進むことになった。
外からみていたときには、そんなに広い教会では、ないと思っていたのに、扉を入った空間は前にも左右にも通路が延びている。
「広いですね」
「表にあるのは、一部なんですよ」
そのまま進むと部屋がいくつもあり、そのひとつの中に入ると、いくつも棚が並ぶ。
「倉庫といっても、ちゃんとしてるな」
「シスターに管理していただいていますが、わたしもしっかり使ってるんです」
「こういうのもお仕事なんですね」
さっそくハッシュリシアスがたずねた装飾に詳しそうな内容の書物を探す。
わたしは、みてもよくわからないけれど、ハッシュリシアスは中身がわかるらしい。
「みるのは、どこで」
「後ろに進むとカウンターがありますので、灯りつけて使って下さい」
シスターたちは、いまは休みらしい。
子どもたちの姿もみない。
「灯りは……」
「こうですよ」
ライラリックュスが照明をつける。
倉庫も通路もあまり壁に、窓がない。
避難通路というから、窓は目立つのかもしれない。
「わたしあまりわからないわ」
「この辺りみていてください」
ライラリックュスがみせてくれる。
なにか装飾らしいとは、わかるけれど、この年代と腕輪は、どう見分けるのか。
「ねぇどう探すの?」
「文字は、あまり詳しくないんですね」
「竜のなら、少しだけ。あとは、もっとずっと前の……」
「百年くらいだと、この辺りなんですよね」
持ってきてくれたのをみると、たしかに、腕輪の飾りと似ている。
でも、ハッシュリシアスは別のをみている。
「もう少し旧いとおもうな。城にあるやつは、三百年代のをみたことがある」
「けっこう時代感じますね」
「あの城も、そろそろ改修だよ」
「そうなんだ」
今度お姫さまに会いたいけれど、その前にお引っ越しされるかもしれない。
「ここはどうですか」
神父さまが、また違うのも持ってくる。
「いい感じですね。この部分似てます」
ようやくわたしにも、わかる。
似たもののデザインを探していき、それで年代を詰めるみたいだ。
おおよそ、三百年前の代。
もっと前くらいらしい。
「それでしたら、妖精時代の王国文字……?」
「妖精時代って」
「時代史は、ニガテですか?」
「近代より、ずっと前なら知ってるんだけどね」
「いまの大陸時代だと近代以降は、四つくらいには、区切りがありますよね」
二つ前ほどの時代ね。
「時代史の勉強は、好きなの?」
「わたしは好きですよ」
「お姫さまと、三度は繰り返したな」
わたしだけ、よくわかっていないらしい。
あとで、しっかり勉強しよう。
「旧王国文字ですと、この辺りの資料です」
驚いてしまう。
ここの倉庫は、豊富……というより、なにかを調べるために造ってあるみたいな資料の厚みだ。
旧王国文字の一覧ではあるけれど、この中から、探さないといけない。
ハッシュリシアスは、腕の運動をしている。
少し竜に話しにいくのは、おそくなるかもしれない。
いや、確実にそうなりそうだわ。




