二日目 俺の性癖
「どやった?」
家に帰ると居候が真っ先にそれを聞いてきた。ちなみにマンションの玄関口で、彼の部屋のインターホンを押した時、やはりただではロックを解除してくれなかった。
3度目にインターホンを押した際、俺が『ムラムーラ村の伝統民謡』という自作の歌を歌ってやると、サビに入る直前で通話を切られた。しかしロックは解除してくれた。
「店は最高だった」
「店は? 中国人の人はどうやったん?」
「よかったよ。五点満点中、3,5点だ」
居候への建前上、満点と言ってあげたかったところだが、なにぶん俺も足ツボに関してはいささか手厳しい。リアルな評価を下さねばならなかった。
「低いな」
当然、居候の反応は不満げだ。しかし俺にとってこの点数は決して低くはない。
「この点数は良い方だよ」
俺はキッパリと言い切った。ついでにその理由も説明してやった。
「まず、5点というのはなかなか付けられない。というか、俺もまだ出会ったことがないかもしれない。4点はかなりのレベルだ。俺が抜群に上手いと褒め称える人は、だいたいこの4点に入るものだ。そして3点は、まあ満足出来たレベルだね。よって3,5点は十分良いと言える」
ついでにその内訳も教えてやる事にした。
「彼はね、力はある。力に関しては間違いなく4点だろう。しかし問題は“指の太さ”だ。人によって好みはあるだろうが、少なくとも俺は指が太いのはあまり好きじゃない。だいいちツボに深く刺さらない。足ツボマッサージに関しては、俺はけっこう女性担当者を好むものだ。細い指でグッと、ツボの奥深くまで差し込んでほしいんだよ。だから指の太さに関しては2点と言わざるを得ない。しかし、技術面では見事だった。指の太さというハンデを見事に技術でカバーしていた。まあそうだな……技術面も4点という事になるから、まあ総合点は3,5点というのが妥当な所だろうな」
「なんでそんな上から目線やねん……」
しかしそれでも彼は不満げなようすだった。まあ、俺も彼の顔に免じて高得点を付けてあげたいところだったが、残念ながらウソはいけない。だいいち、何度も言っているが3,5点というのは決して低評価ではない。むしろ高い方だ。
「ところですーたさ。今日は誰と飲みに行くん?」
おもむろに彼がそんなことを尋ねてきた。俺は自分の布団に倒れ込みながら答えた。
「サラリーマン時代の元同僚だよ」
「そういえば昨日会ったやつも会社の同僚じゃなかった?」
居候は仰向けに寝転んだ体勢のまま言った。
そういえば、今日一日居候を見る限り、俺は彼が布団に仰向けになっている姿しか見ていない。彼は昔からそうだ。居候はとにかくよく、寝ころびたがる――そして、仰向けになりたがる。
「ああ、だが別人だね。今日会うやつはまだその会社にいるんだ。お互いその会社に勤めて二年くらい経ったときにね、彼は東京へ異動したんだよ」
俺は横になりながら、自分のリュックへと手を伸ばした。約束の時間まではまだ時間がある。こんな時は“あの作業”をしようじゃないか。
「でも、本当に会えるかどうか分からないよ」
自堕落にリュックを漁りながら、俺は投げやりに言った。居候が思わずと言ったようすでこちらに驚いた顔を向けた。
「え?どういう意味?」
「嫌われてるんだ」
「だれが? すーたが? そいつに?」
「ああ」
荷物から引っ張り出したタブレット。俺は慣れた手つきで目当ての画面へと進んでいく。
「なんで嫌われてる奴と会う必要があんねん……」
さすがに可笑しかったのか、彼はフフと笑い混じりにそう言ってきた。
「最初は仲が良かったんだよ。だけど東京へ異動したあたりから彼の様子がおかしくなった。俺が連絡しても、基本は既読スルー。たまに返ってきたと思えば、仕事で忙しいから連絡しないでくれって返事が返ってくる」
「嫌われてるやん」
「俺が会社を辞める時も、一応報告はした。なんてったって、社内では一番仲が良い同僚だったからね。少なくとも俺はそう思ってた。そしたら彼、なんて言ってきたと思う?」
「『死ね』って?」
「惜しい。たった一言、『おつー』とだけ返ってきた」
「嫌われてるやん」
「いいや、そうとは限らないよ。現に俺が『その対応はひどいんじゃないか。もっと何かあるだろう』と送ったら、『ごめんごめん、悪かった』って謝ってきたんだからね」
「んでから?」
「それから俺が『全然良いんだよ。気にしないでくれ』ってメッセージを送った」
「じゃあなんて返ってきたん?」
「『それはよかった。じゃあ申し訳ないんだけど仕事中に連絡しないで』ってきた」
「やっぱ嫌われてるやん」
俺はだらしなくうつ伏せになりながら、“例の作業”を再開させていた。
「やっぱり、嫌われてるかな?」
「てかなんで嫌われてるやつと会う事になったん?」
それに関しては俺も不思議だった。自分でもどういう風の吹き回しなのかさっぱり理解できないのだ。
「今回東京に来るにあたってね、一応ダメ元でその元同僚に連絡を入れてみたんだよ。そして飲みに行けるかどうかを聞いてみたら……なんというか……いや、実を言うと俺もよく分からないんだ……」
「なんやねん、それ」
俺はふと、携帯を開き、“彼”とのメッセージ履歴を見返してみた。名を、『森 正也』と言った。
履歴を開いた途端、画面をスクロールさせるまでも無く、目当てのやりとりはすぐに見つけられた――
8月31日(月)
俺:久しぶり。元気か? 既読22:27
森:おひさーまぁやってますよ 22:38
正直、この時点で返事が返ってきたこと自体、俺にとっては奇跡的に思えた。やりとりは続いた――
俺:おお!久しぶり!まだ東京住んでる? 既読22:38
森:フロム、トーキョー 23:03
俺:俺9月の連休東京行くねんけどさ、その時空いてる? 既読23:10
9月1日(火)
森:今のところ空いてるけど 10:20
俺:アザス!また予定いうから飲みに行こや! 既読11:11
森:空いてるだけでブンちゃん(俺のあだ名)と飲みに行くとは言ってないんだよなぁ 13:45
俺:ちくしょう!! 既読14:00
俺:無理か!! 既読14:00
この日はこれっきり、返事は返ってこなかった。まあ、予想はしていた。返事が返ってきただけでも、かなり意外な事だった。
しかし、その二日後、さらに仰天するようなメッセージが、正也から返ってきた。
9月3日(木)
森:無理とも言って無いで 21:14
俺:ホンマに!?20日行ける?? 既読21:31
俺:19日は藤岡さんと、21日は大学の友達と会う予定やねん。(実はこの時、居候との連係ミスにより、俺の中では居候と飲みに行く日は21日だと思っていた。しかし実際、居候の方はこの日、ウーバーイーツのバイトを入れていた為、居候はてっきり19日に俺と飲みに行くものだと思い込んでいたのだった。結果的に藤岡さんとの予定をずらすことで調整した) 既読21:32
森:多分大丈夫よ 21:46
俺:ナイス!! 既読21:47
こうして俺は、なんとか彼と再会する約束を取り付ける事が出来た。そして正式に日程が決まってから、俺は再び森にメッセージを入れた。
9月15日(火)
俺:20日何時から飲みいく? 既読 18:03
しかしその日、彼からの返事は返ってこなかった。
そしてまた次の日、様子見がてらにメッセージを送ってみた――
9月16日(木)
俺:まあ当日また連絡するわ! 既読13:26
また、返事は来なかった。
このまま既読スルーされて連絡が取れなくなるのだろうか? 当時俺の頭の中では、そんな不安がよぎっていた。
次の日、俺はまた彼に連絡をした。中途半端に約束だけをされてしまうと全体的な日程調整が掴めなくなる。俺は催促の意味も込めてメッセージを送った。すると、やっと彼から返事が返ってきた。
9月17日(木)
俺:いつまで飲む?オールする?それをあらかじめ決めときたい。友達の家居候すんねんけど、友達がその時間次第で予定立てたいって言ってたから、それ決めよ。 既読18:31
森:オールは無しで。てか、どこでやる? 21:00
俺:近いところでいいよ 既読21:03
9月18日(金)
森:では目黒駅で 9:49
俺:俺の泊まるところと近いわ。何時から飲む? 既読9:57
森:20時からかな? 11:45
俺:わか!(『わかった』の略) 既読11:45
俺はホッと胸を撫で下ろした。しかしその反面、俺の内心では少しばかりの不安もざわめいていた。――彼はいったい、俺の事をどう思っているんだろう? こののらりくらりとした彼の様子からは、その考えがまったく読み取れなかったのである。
「まあ、ホンマに嫌いやねんやったらわざわざ会わんやろ」
森とのやりとりの事を聞いた居候が、そう言ってきた。
「どうだろうねぇ」
俺は再びタブレットに目を移し、作業に取り掛かっていた。
「てかお前それ何してんの?」
と、彼はとうとう俺がいま行っている作業について興味を示したようだった。
「マンガのセリフ付けだよ。言ったろう、ある台湾人が俺の小説をコミカライズしてくれて、その人から送られてきたマンガ原本のセリフを中国語から日本語に翻訳してるんだ」
俺が説明してやると彼は体を起こし、俺の端末画面を覗き込んだ。そして彼は俺の作業途中のマンガを大まかに眺めると、やや怪訝な反応をしてみせた。
「なあ、すーた」
「なんだい?」
日本語に翻訳、と言ってもそう大したものではない。スマホの方で自分の小説ページを開き、その中で出てくるセリフと照らし合わせてマンガにセリフを入れていけばよいのだ。
むろん、中国語と日本語では同じ文章だとしても文字数が全然違ってくることもある。そのため、もともと中国語が入っていた吹き出し部分に日本語を入れようとしても、セリフの文字数と吹き出しスペースの広さが合わなかったりするのだ。その場合は、原版のセリフとは少し違うセリフ回しを新たに考えて入れなければならない。これはこれでなかなか難しいものである。
そうして夢中になって作業を続けている俺に、居候が尋ねかけてきた。
「お前、それさ……サスペンス物なん? エロ小説書いてるって言ってなかった?」
せわしなく動く俺の指が、止まった。俺は彼の方をジロリと振り返った。
「これのどこが……サスペンス物だい?」
彼の言っている事がまったくもって理解できなかった。
「いや……サスペンス物っていうか……なんか、女の子がいっぱい殺されてるやん」
それを聞いて、俺は目の前の端末画面へと目を向けた。
「ああ。死んでるね。殺されてるね」
「濡れ場のシーンはどれなん?」
その問いかけに、俺はたった一言、こう答えた。
「どれって……これだよ」
たくさんの女の子達が、絞殺、銃殺、刺殺、あらゆる方法で殺されている。エロいシーンなんて、これ以外にいったいどこにあるって言うんだ?
「……」
居候は何も言葉を発さない。俺はそんな彼を無視して、再び作業に取り組んだ。
「え……どゆこと? どゆこと? 女の子が殺されるところがエロいのん?」
「だからそうだと言ってるだろう!いったいきみは何なんだね⁉」
彼のはっきりとしない態度に、俺はつい声を荒げてしまった。
「おまえ……やばいな……」
彼はそう言ったきり、しばし無言になった。
しかし、やはり彼はどこか納得がいかないのか、頭の中でいろいろと整理するように少し間を置いてから、再び話しかけてきた。
「エッチシーンとかはないの?」
「あることにはあるかな?」
作業を続けながらぶっきらぼうに答えた。
「え……だから、それはなんなん? その……それは……どういう風に興奮したらええのん?」
俺は視線を空中に彷徨わせ、彼の質問を少し考えてみた。
「うん……まあ、なんというかね、セックスの時に女の子が絶頂を迎える瞬間と、女の子が死ぬ瞬間って言うのは、結構似てるものなんだ。まあ、こういうのはいわゆる『リョナ』と呼ばれる性癖なんだけど……」
「……りょな?」
聞き慣れない単語だったのか、居候が口を挟んで反復した。
「正式には『猟奇オナニー』という。略して『リョナ』だ。その中でもいろいろと“宗派”はあるものだが、俺はどうも……“不憫な女の子”を見るのが好きみたいなんだ」
「……」
「なんだか、守ってあげたくなる。……この手でね。だから恐怖に怯えた女の子とか、訳も分からずに呆気に取られた表情で死んでいく女の子とかに、こう……グッとくるんだよ」
「いや……守ってあげたくなるっていうか……殺すねんやろ?」
居候は目を泳がせながら、一つひとつを“指さし確認”していくように不明点を挙げていった。
そんな彼に、俺はある事を聞いてみた。
「ストックホルム症候群……ていうのを、知ってるかい?」
「いや……」
解説が少々長くなりそうだと感じたため、俺は頭の中で言葉を選びつつ、出来るだけ端的に解説を試みた。
「まあ簡潔に言うと……人質になった女性が犯人の男と寝食を共にするうちに、犯人に対して好意を抱いていくという奇異な現象だよ」
「なんで?」
「詳しい原因は分からない。たとえば生き残るために犯人に気に入られようとする被害者の本能的な行動だとか、もしくは被害者が犯人から食事やトイレの許可などを貰っているうちにだんだんと犯人に対して感謝の念を示す様になっていくからではないかと考えられている」
「……」
居候は黙って俺の方だけを見つめていた。
「俺はね、いつかこんな物語を作りたいんだ」
俺はもういっそのこと、彼に自分の事をさらけ出してみようと思った。俺のもっとも興奮するシチュエーションを、話してみる事にした。その内容とは……
ある男が、たくさんの女の子を殺害する。実に、いろいろな方法で殺害する。理由は何でもいい。性的興奮を得る為? 実は男はその女の子達と敵対する立場にあってそれで仕事の為に殺していたとか? ……まあ、そこの“設定”についてはいざ書くときに決めればいいだろう。
ある日、彼は命乞いをする女の子を一人だけ助けてやる事にした。理由はただの“気まぐれ”だ。実際、彼は今までその少女と同じように命乞いをする女の子をたくさん殺してきた。そして彼は命を助けたその少女を自分の家に“監禁”するのである。
そうして二人は共に過ごしていくうちに、少女はしだいに男に対して恋愛感情を抱くようになる。例のストックホルム症候群の仕業だ。そうなると、愛情に渇いていた男の方もその少女を愛する様になるまでにはそう時間はかからなかった。
やがて愛し合うようになる二人。男は、いま自分のすぐとなりで愛らしい寝息を立てている彼女を見つめながら、今までに自分が虫けらのように殺してきた女たちの事を思い出していた。みんな、かわいい女の子だった。すると途端に、彼はすさまじいまでの恐怖心に駆られるのだ――
ひょっとすると、もし、違う人間を助けていたのであれば、いま目の前にいるのは、別の女の子だったかもしれない――
男はそう考えると、思わずこの少女を抱きしめたくなるくらいの、得体の知れぬ恐怖をその身に感じた。
彼は今まで、女の子達を“人間”だとは思っていなかった。“モノ”だと思っていた。だから殺せた。なんの罪の意識もなく、たくさん殺せた。
しかし、違った。なぜなら、自分の目の前で、警戒心の欠片も無い寝顔を見せているこの少女とは、それまで実に様々な話をしたからだ――
彼女の故郷の話……
彼女の趣味の話……
彼女の生い立ちの話……
彼女には、たしかに“人生”があった。決して一秒で奪われていいはずのない、積み重ねてきた膨大な“一秒”があったのだ。
だったら――
――今まで殺してきた女の子達も同じだろうか。
彼は後悔した。彼は愛すべきだったのだ。この少女のように、殺すのではなく、愛すべきだったのである。
そうして彼は誓った。この少女を、とびっきり愛そうと思った。今まで殺してきた女の子達の分も一緒に、ずっと、ずっと……
「――こうして、初めて愛を知ったその男は、命の尊さをも知ったということさ。俺はいつか、こんな、誰もが涙をするようなラヴ・ストーリーを作ってみたいんだ……」
長い話を語り終えた。俺はフッとため息を吐く。うつ伏せで頬杖を突きながら、俺はボウッと前を見つめていた。
彼はどんな反応だろうか?
どうだ?
そう言わんばかりに、何も言わず、居候の様子を窺ってみた。
「も~~~~うッ!!」
しかし、どういうわけか彼は駄々をこねる子供のように、ゴロゴロと身悶えながら唸っていた。
「俺の部屋にヤバいヤツおるってぇ~~ッ!怖いってぇ~ッ!殺されるってぇ~ッ!」
思っていた反応と違い、俺は狼狽した。
「何を言ってるんだ⁉ ちゃんと俺の話を聞いていたのかね⁉」
「いや、ただのサイコパスやん!」
「バカを言うな!男は最終的に命の尊さを知ったんだぞ⁉ 今までの殺人を後悔したんだ!良い話じゃないか!」
「いや、だからそこが怖いねんって!ただ単に女の子殺して興奮するとかやったらまだマシやけど……いや、それも十分ヤバいけど……お前の場合なんていうか……その……変に女の子への情とかも混じってて、それがもうサイコパス臭がプンプンすんねん!」
俺は何も言えなくなった。たしかに……ただ単に女の子を虐殺するだけのスプラッター映画には俺はなにも興奮しない。女の子を虐殺したうえで出てきた感情の芽生えなどにグッとくるのである。俺は……サイコパスだったのか?
「てかお前ってさ。そういう小説書いて金貰ってんやろ? そんな残酷な小説書いて食べる飯って美味いの⁉」
本当に、痛いところを付いてくる。俺は発狂するように怒鳴り返した。
「うるさい!俺だって辛いよ!将来自分に娘が出来て、一緒にお風呂に入っている時に『将来パパのお嫁さんになりたーい』とか言われたりするなかで、もしも娘に『パパはどんなお仕事をしてるの?』なんて聞かれたとき、どう答えたらいい⁉ 小説家は別に良いとして、どんな小説を書いているかなんて言える訳が無かろう!物語の中で散々女の子を殺して得た金で家族を養うなんて俺も嫌だよ!」
「せやったら普通の小説書けや!」
「書いてるさ!俺だって、友人に胸張って見せられるような普通の小説を書きたいんだよ!だが誰にも相手されないんだ!だれも俺の事なんて見てくれない!そもそも、普通の小説ではまったく面白い小説が書けないんだよ!」
だめだ。涙が込み上げてきた。
「SNSでも表アカのフォロワー数なんてほんの数人だ!だが裏アカの方ではすでに1000人を超えている!俺だけど……俺じゃない、もう一人の俺が……勝手にどんどん先へと行ってしまうんだよ!もう“自分”じゃないみたいだ!闇☆遊☆戯でさえこんなに一人で暴走したりなんかしないよ!」
俺の訴えに、居候は何も言えないようで、ただ俺とは一切目を合わせようとはしなかった。
「でも、たしかに世界は広いっていうけど……そんなんに金払うやつおんねんやな……ただのサイコパス同好会やん」
彼の言い草に、さすがの俺も怒りが沸騰した。
「やあ!きみ!訂正したまえ!俺を侮辱するのはまだしも、ファンを侮辱するのは許さんぞ!いいかね⁉ 言っておくが、きみの知らない世界だってあるんだ!俺は思うが、『リョナ』好きに悪い人間はいないと思うぞ!物語で散々人を傷付けている分、現実ではみんないい人なんだ!俺は彼らと作品を作りあい、感想を言い合い、互いに同じものを好きでいる事に誇りを感じている!そこにはきみなんぞには想像もつかんような友情の世界があるんだ!」
「まあ……何でもいいけどリアルでそういう事はやったらあかんよ」
「だからやらないと言っとろうが!」
彼はそれからもしばらくの間、俺と目を合わそうとはしなかった。




