第六十九話 「距離感」
デミミノタウロスのドロップ品を回収しながら反省会だ。
今回は魔素核やカプセルの他に片手斧や両手斧も手に入った。
「たぶんあのスピードだと急な方向転換は無理だと思うのよ。」
「じゃあ、十分引きつけてから横方向に逃げる感じですか?」
「それか十分に距離があるうちに、もう一回矢で射ってスタンさせるか。」
「スタンってなんですか?」
「矢が当たった時に敵の動きが一瞬止まるでしょ?あれがスタン。」
「矢に付与して貰った魔法ですか?」
「そうそう。」
「んー、距離があれば両方狙えるかもしれません。」
「無理をせず、避けるの重視でもいいわよ?」
SPゲージの減りを見る限り、突進は何度も連続では使えないだろうし。
SPゲージこと精力ゲージは必殺技ゲージみたいなものなのかな?
実際のところ私が精力ゲージとして『認識』しているだけで、本当は気力ゲージとかそんな感じのものなのかもしれない。
サナのゲージも攻撃のたびに若干上がってるし。
「とりあえず突進が来そうな時には教えるわね。」
「わかりました。」
直線距離が短いところで戦うのも手よね。でもそれじゃ射線が通りません。曲がり角の影から射って隠れるとか?みたいな事を話しながら新迷宮5階への階段へ向かう。
と、いうより階段付近の扉のある小部屋に向かって歩いている。
なんだかんだで迷宮に入って結構な時間が立っているので休憩兼、淫魔法【ラブホテル】の出口づくりのためだ。
マップによると、この先には敵も他のパーティーもいないので呑気に歩いている。
とはいっても、隠形感知系の淫スキル【引き出しの秘密】で罠だけは警戒しているが。
無事小部屋の前に付いたので、中に何もいないことをレーダーで確認した上で入る。
広さ的には八畳間くらいの大きさで休憩をするには十分な広さだが、この中で戦闘となるとかなり大変だろうという印象を受ける。
地図を見直すと各階層の各階段の近くに似たような部屋があることが多いみたいで、ゲームだとセーブポイントとかありそうな感じだ。
とりあえず淫魔法【ラブホテル】用のショートカットを階段の近くに作成できるのはありがたい。
淫魔法【ラブホテル】を扉に使い、いつものように部屋を選択する。
今回は迷宮のカラーに合わせて緑が基調の洋風の部屋にした。
「サナ、ちょっと上の階へ行って地図だけ覚えてくるから、先に休んでて。」
「はい。お気をつけて。」
一緒について行くというかと思ったが意外と素直に引き下がったので、ラブホテルの部屋から出て、迷宮の小部屋を抜け、新迷宮5階への階段を登る。
レーダーで敵がいないのは確認済みだが念の為、隠形スキル兼体温感知スキルでもある淫スキル【夜這い】も使っておいた。
階段を登りきった所で、勇者装備の「変成の腕輪」で効果を拡大して、淫魔法【夜遊び情報誌】を使い、新迷宮5階と6階の情報と地図を手に入れ、淫魔法【盗撮】を使って記録もしておく。
これは画像として記録しておくことにより、どこででも特性【ビジュアライズ】で地図を見ながら対策を立てられるというメリットがある。
ざっと目を通しただけだが、新迷宮5階にいるパーティーは12組くらい。
モンスターも大量にいるので下の階より人気がない階層のようだ。
レベル30以上のランク3の敵も出るというのもあるが、ランク1からランク3までの敵が同じ名前で混在してるのも不人気の理由かもしれない。
レベル30のデミオークとかデミゴブリン(本来地上1~2階を中心に徘徊しているらしい)って、わりと初見殺しよね。
ステータスとかも一部今の私に匹敵するくらいだし。
鑑定持ちがいないと危ない陰湿な敵分布だ。
ついでにいうと3匹以上のパーティー体制で徘徊しているモンスターも多い。
多い時には6匹パーティーだ。
階段周辺は人通りというか探索者パーティー通りが良いのか、敵の分布が少ないのが救いだな。
少し広くなっていることだし、ここまで釣って来て戦うというのも一つの手だろう。
失敗したらさっき休憩に入った下の階の小部屋まで戻って避難してもいい。
よし、用は済んだので、さっさと階段を降りてサナのところへ帰ろう。
新迷宮に人型のモンスターが多いのは魔族や魔王が誕生した迷宮だという逸話になにか関係があるのだろうか?とか、そんなことを考えてながら歩いているうちに部屋に到着した。
そういえば本来はこんなに上の階層までくるつもりは無かったので、昼飯の準備をすっかり忘れていた。
こんなに敵がいないとは思ってなかったのだ。
全部王子様が悪い。
これで切り上げるにしては経験値的にも金額的にも稼ぎが少ないので、ラブホテルの方の部屋に入ったらサナと相談してからショートカット使って迷宮入り口ホールの露天かギルドのレストランまで戻って何か食べよう。
と、部屋に入る前に種族特性【トランスセクシュアル】で男の身体に戻っておく。
ついでに装備も作務衣に替えてしまおう。
魔法の防具扱いで軽めになっているとはいえ、休憩には向かない。
そういえば、こんなに長い時間、淫魔の身体でサナと一緒にいたのは初めて会った日以来な気がする。
なんとなく淫魔の身体だと距離感というか上下関係的なものを感じてしまうんだよな。
いや、忘れがちだけど立場的にはサナは私の奴隷なので正しいといえば正しいのだが、隷属魔法である淫魔法【愛の奴隷】が何か悪さをしているんだろうか?
どっちかというと私が淫魔の身体の時にはサナがその辺りの線引をしっかりしているせいかもしれない。
女性の身体の方がスキンシップしやすいとか思ってたのが遠い昔のことのようだ。
そんなことを思いながらラブホテルの部屋のドアを開ける。
「ただいまー。」




