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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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偶然か必然か

しばらくの間タナトスの治療を続けていたスイセンだったが、ようやく最後の縫合を終えて声をあげた。


「はい、縫合終わりっと」


スイセンは手に付着した血を川の水で洗い流し、道具の片付けに入った。

それでタナトスは自分の右腕を見ては、傷跡を眺めてお礼の言葉を口にした。


「ありがとう、スイセン。助かった」


まだ血が滲むが、シャウの治癒までの手当てとしては充分だ。

あとは布で縫合部を保護して、タナトスは地面に座り込んだ。

麻酔のおかげか大した痛みはない。

それと傷のせいか軽い熱を感じるが、体を動かすのに影響が出るほどでもない。

ただ感覚が麻痺していて右腕は全く動かせないが、左手と体には力が入る。

これなら身を守る程度の戦闘はできるはずだ。


「よし。じゃあ行くぞ、ミズキとスイセン」


タナトスは腰に差している鞘を調整し直してはすぐに立ち上がった。

このことにミズキは驚きの声をあげる。


「え、大丈夫なんですか?それと、行くってどちらへ?」


「反抗組織の統括者が判明したんだ。重要なことだから、いち早くシャウ達にも伝えないといけない。正義の勇者アリストの協力も(あお)がないと駄目だろうしな」


統括者リボルトの護衛である仮面の人物。

何者か分からないが、とてつもない実力者であったのは間違いない。

悔しいが、今のタナトスでは勝つことは難しい。

それに他にも隠し玉となる実力者がいると考えたら、とてもタナトス達だけで太刀打ちするのは無理な話だ。

できれば奇跡の勇者アカネと正義の勇者アリストと、人間の中でも飛び抜けた実力者の協力が欲しい。

でないと、統括者リボルトを追い詰めるなんて無謀に等しいだろう。

結局は総出で立ち向かうしかない。

タナトスはそう考えて、言葉を続けた。


「今から正義の勇者アリストに話をつけに行くぞ。シャウがいれば、少しは聞いてくれるだろう。俺を見逃してくれるかどうかは分からんが…」


「そ、それなら私達だけで伝えに行きます!タナトスさんは身を隠してくれれば、その間に話をまとめることはできると思います!」


「いや、駄目だ。どちらにしろ俺も表舞台で動かないといけなくなる。濡れ衣を晴らすためとはいえ、いつまでも舞台袖でこそこそと動いている場合じゃない」


「それでも、もしまたケガでもしたら……」


「心配するな。自分の身くらい守れるさ。それに、話をしたいのはリボルトのことだけじゃないんだ」


心配の声をあげて不安そうな表情を浮かべるミズキに、タナトスは小さく微笑んで明るい声で答えた。

実際タナトスがいない方が話し合いはこじれないで済むだろうが、状況説明となると彼がいなければ難しい。

統括者リボルトを目の前にしたのはタナトスだけで、アルパ街にある反抗組織の拠点を知っているのも彼だけだからだ。

そして一番に話したいのは、反抗組織が謎の血を使って実験をしていることだ。

証拠も手にしている以上、直接提示して説明するしかない。


「さて、行くか。夜遅いが、一刻も争う」


反抗組織が何を企んでいるのか分からないため、タナトス達はすぐに行動を始めた。

彼らは食の街アルパの周りの農村におり、シャウ達がいる場所までは距離があった。

そのため体力の消耗を気にせずに早足で移動をしていき、暗い道を歩いていく。

すでに反抗組織の拠点を叩いていて、檻に閉じ込められた多くの魔物を始末したあとだ。

だから順調に進むことができると思ったが、向かっている途中で小柄な狼の魔物に出くわす。

数は二匹だけで、いくら手負いでもタナトス一人で充分に事足りる敵だ。


「スイセン、援護を頼む」


「おっけーですよぉ」


秒殺だった。

タナトスが魔剣を引き抜くと同時に踏み込んで一匹の魔物の頭を切り落としては、スイセンは短剣でもう一匹の魔物の腹部を切り裂いて(はらわた)をぶちまけさせた。

そしてトドメとして体の中身を垂らしては足掻いている魔物の頭に、スイセンは短剣を振り下ろした。

こうして二匹の狼の魔物の命は絶たれる。

それぞれ刃物に付着した血を振り払い、武器をしまってからタナトスは死体を見下ろして呟いた。


「作物でも荒らしていたんだろうな。それでもわざわざ襲ってくるとは、気性の荒い魔物だ」


人間と魔物が大きく争っていたのは、もう二年以上前のことだ。

それでもずいぶんと周辺に魔物の数が多いことを考えると、案外自分が住んでいた森に限らず魔物に襲われやすいものだと思う。

そう感じて、歩き出しながらタナトスは言葉を続けた。


「けっこう魔物が徘徊しているものなんだな。ここらへんは魔物が少ないとシャウが言っていた気がするんだが、案外当てにならない話だった。たしか、俺を探している間にも魔物に襲われたって言っていたよな」


この言葉にミズキが反応して答えた。


「はい、その時もたいした数では無かったので、スイセン一人で片付けてしまいましたが……」


タナトスを捜索している間に起きた魔物との戦闘をスイセン一人に任せたことに、ミズキは気に()んだ口調で言った。

そのことにスイセンがとっさにフォローを入れる。


「お姉ちゃんは私が守るから、気にかけないでよ!それにアスクレピオス街では私を守ってくれたんだから!」


「うん、ありがとうね。スイセン」


ミズキは優しく微笑んで、嬉しそうな言葉で返した。

そのやり取りを見ながら、タナトスはふと今までのことを思い出した。

思えばミズキと初めて会ったときも、すぐに魔狼という魔物に襲われた。

その時は少女の臭いにでもつられたのかと冗談を口にしただけで気にかけていなかったが、森からリール街までの護衛するときも森の入口まで魔物に襲われて斬り殺すことになった。

ただ、まだこのときは森には魔物が多いからという理由で別に違和感を持たなかった。

けれどシャウが仲間に加わってからは、どうだろうか。

あのときはシャウがスルメイカを口にしていたから、その臭いに釣られて鹿の魔物が三頭やってきたと思っていた。

しかし餌を与えた後も鹿の魔物は追いかけてきて、更にそのあとにお腹が空いたという理由で狩りをしに森に再び足を踏み入れたとき、異様に魔物が多く集まっている感想を抱いた記憶がある。

さすがにこのときは違和感があり、さっき騒いだから魔物が集まっているだけなのかと独り言を口にするほどだった。

では、更にそのあとはどうだろうか。


鉱山の街レイアに向かう時の山中で、シャウとミズキは魔王の幹部サタナキアと戦闘したと言っていた。

しかも山中でタナトスが助けに来た時も、ミズキ達は黒熊の魔物に襲われていた。

不運だとしても、いくら何でも魔物から集中的に襲われすぎだ。

黒熊の魔物が何度も雄叫びをあげたのもタナトス達が足を踏み入れてからで、鉱山の街レイアの鉱山でも蜘蛛の魔物が巣を作り始めていた。

それはただ魔王幹部のサタナキアが蜘蛛の魔物を放っただけかもしれないが、ミズキと剣を買いに行った時を思い出せば近くで少女が魔物に襲われることになっていた。

続けてアスクレピオス街で魔物が放たれた時は、宿屋でミズキは魔物に襲われていた。

これは、本当に偶然魔物が入ってきたのか詳しい状況を知らないタナトスには分からない。

もし突然魔物が建物に入ってきたのなら、魔物はミズキのみを狙っていた可能性がある。

そして魔物が比較的に少ないと言われている食の街アルパ周辺で、魔物に何度も襲われているという結果まであった。

ここまで来ると、何かミズキが持っているように思える。

でも仮にミズキに何かあるとしても、それが何なのか全くの不明だ。

それに全てはただの偶然の可能性だってある。


「まさかな……」


タナトスは誰にも聞こえない声量で呟いては歩き続け、ようやく三人は食の街アルパへと足を踏み入れることができた。

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