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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
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連撃

連続的な大打撃を受けた巨猿(きょえん)は怯みを見せて、大きく仰け反った。

特にシャウの攻撃が巨猿の片足の骨を砕くもので、動きを完全に封じたかのように思えた。

しかし巨猿は後ろに倒れる直前、鼻から血を垂れ流しながらも手で受身を取っては回し蹴りをポメラに強烈に放ってきた。


「ギィ!」


「うぅっ!」


咄嗟にポメラは両手足で防御の姿勢を取るも、受けた回し蹴りの威力は大きかった。

何も抵抗できずにポメラの体は弾き飛ばされて、建物へと激突してしまう。


「ポメラ師匠!」


すぐにシャウは治癒に向かおうとするも、巨猿の攻撃の手は緩まなかった。

壁が崩れていく間に長い尻尾を器用に使ってシャウの体を巻き取り、素早く地面にへと叩きつける。

まさに抵抗する時間なんてなかった。

援護としてラベンダが連続で三本の矢を速射するも、巨猿は手で打ち払ってしまい矢尻が刺さることはない。

それどころか巨猿は片足と両手を使って走り出しており、ラベンダとの距離を一気に詰める。


「猿ごときが調子に乗るな!」


接近されてもラベンダは決して(おび)えず、弓を片手で持ってはもう片方の手で曲刀を鞘から引き抜いた。

しかし刃を振るう前に巨猿は襲いかかって来て、握りこぶしで叩き潰そうとしてきた。

素早く力強い攻撃だ。

でも迫ってくる拳をラベンダは極限まで見切り、曲刀で拳を斬りつけながらバク宙で避けて脱出してみせた。

続けてラベンダは宙で曲刀を手に持ったまま弓矢を構えて、巨猿の首を狙って速射する。

放たれた矢は風を切り、一直線に高速で向かっていった。


「もう一発!」


矢が届く前にラベンダは落下しながら次の矢を手にとり、着地する前に再び速射した。

一本目は首元を狙ったものだが、二本目は軌道が外れていて巨猿に当たりそうにない。

けれど巨猿が一本目に反応して避けようとした先には、二本目の矢が直進していた。

そのため外れるはずだった二本目が巨猿の胸元を射抜き、じんわりと血を(にじ)ませる。

シャウ達に比べたら弱々しい攻撃かもしれないが、こちらに意識を向けさせるには充分の攻撃を与えた。

数秒だけの戦闘だったが、これ以上の時間稼ぎは彼女には難しい。

ラベンダは着地して、地面に叩きつけられたシャウの方へ視線を向ける。

するとすでにシャウは立ち上がろうとしていて、ポメラの治癒も間もなくされることだろう。

再びシャウとポメラの二人が加勢できるまで、できれば十秒近くは時間を稼がないといけない。

警戒された今、真正面からの攻撃は不可能のラベンダにとって十秒というのは長い時間だ。

それでも、この目の前の魔物を仕留めるには必要なことで自分にしかできない状況だ。


「ジュエルがいれば余裕で討ち取れるのに……」


ラベンダは愚痴をこぼしながらも弓を背負い込んで、もう一本の曲刀も引き抜いて二刀流の構えをする。

そして巨猿が先に行動を仕掛けてきて、両手で地面を押し出して勢いを作ってスライディングによる攻撃をしてきた。

合わせてラベンダは直前で横に跳んで回避するも、次に巨猿は手でブレーキをかけては腕を振るって叩こうとした。

しかしラベンダは叩き潰される瞬間に曲刀で腕を切り裂き、更に跳んで回避をしてみせる。

コンマ数秒の遅れすら許されない回避行動。

まさに今のラベンダにとっては極限の状態で、巨猿の連続攻撃を回避し続けている状態だ。

でも巨猿もただ本能で動いているだけではなかったのだろう。

再び拳が振り下ろされるとき、ラベンダは反撃と回避に意識を集中させた。

けれど拳が当たる直前で寸止めをされて、意識していなかった巨猿の足払いが眼前に迫っていた。

フェイントの攻撃だ。


「しまっ…!」


油断によりラベンダは対処できず、悪あがきとして攻撃される直前に曲刀を突き刺すのが限界だった。

あとは巨猿の足払いで体を吹き飛ばされるだけで、強く壁に叩きつけられる。

更に追撃として巨猿は拳を大きく振りかぶり、殴りつけようとした。

でも一つの小さな影が巨猿の顔を覆う。

影に反応して見上げると、そこには高く跳んでいるポメラの姿があった。

高度を考えると、建物の屋根から更に跳躍した距離がある。

その高さからポメラは落下して、流星のごとく巨猿へ急接近していった。

当然、巨猿は殴打を中断して避けようとするも、そこからいち早く動き出したのは魔物でもポメラでもない。

シャウだった。


「わはは、ダメ押しの一撃だよ!」


シャウは長棒を振り回し、全力全開で巨猿の無傷である方の脚に打撃を与えた。

再び骨の砕ける音が鳴り、確かな手応えをシャウは感じていた。

これで両足の破壊となり、完全に機動力を奪う事となる。

それから間髪なく、落下していたポメラが体を捻って全力の(かかと)落としを巨猿の胸元に放った。

元からある怪力に近いポメラの筋力と、落下の勢いを合わせた強い衝撃。

それは巨猿の胸元の骨どころか、内臓を破裂させる威力となって口から血を噴かせた。

響く殴打音は全員の耳に確かに聞こえるほどで、戦闘不能にさせる一撃としては申し分のないものだと誰の目からも明らかだった。

あまりの威力に巨猿の体は地面に叩きつけられて、そのまま動かぬ体となっていた。


「ふぅ…。まったく、私の武器がないとはいえ、かなり手こずったのう」


ポメラは身軽に地面に着地して、さすがに疲れを覚えて一息ついた。

振り返って巨猿の様子を見てみれば、巨体は痙攣を起こしているだけで、とても立ち上がる気配はなかった。

ついに得た勝利だった。

しかしこうして仕留めるのに、どれだけの攻撃を受けてしまったことか。

二年前に比べると魔物に対しての勘が少し鈍くなっていることをポメラは痛感し、内心自分に呆れを感じてしまうのだった。

一方シャウは戦闘が終わり次第、すぐにラベンダに近づいて治癒を発動させていた。

優しく触れて青紫色の髪を整えさせながら、シャウは慈愛ある眼差しで見つめる。

そして攻撃の衝撃で気絶していたラベンダだったが、治癒のおかげもあり早く目を覚ます。

そして目が覚めての最初の一言は、真面目な性格でもあるラベンダらしい言葉だった。


「…うぅ…。あの猿の魔物は仕留めたんですか?まさか逃がしたわけではないですよね」


「うん、大丈夫だよ。ラベンダちゃんのおかげで仕留められたから。ほら、あそこに倒れているよ」


そう言ってシャウは倒れている巨猿を指さした。

ラベンダは手で頭を押さえて起き上がりながら見て、ポメラと同様に安堵を覚える。

遠目での確認だが、少なくとも再び襲ってくる様子は見受けられなかったからだ。

これでひとまずの約束を果たした事となり、ラベンダはシャウから離れて冷めた口調で言葉をかけた。


「とにかく、これで一時共戦は終わりです。それと先ほどの頑張りに免じて、今だけは見逃してあげますね。優先すべきことは街を救うことですし、どちらにしろ私一人では貴方たち二人の相手なんてできませんから」


「わははは、それはありがたいね。あと、そうそう。もしアカネちゃんに会ったらさ、言って欲しいことあるんだけど一つ伝言いいかな?」


「なぜ私がそんな使いっぱしりの真似事を……まぁ、内容によっては伝えないことも無いですけど。それで何を伝えたいんですか?」


「うんとね、私はアカネちゃんとは何があっても敵対するつもりはないから。それだけ伝えてくれるかな」


「……どういう意図の伝言かは読めませんが、分かりました。それぐらいなら伝えておきます。それでは、平和の勇者シャウ。次は捕らえてあげますよ」


ラベンダは冷たくそう言って、シャウに背を向けて歩いて離れて行った。

さっきのシャウが頼んだ伝言、その真意はアカネが冷静なら理解することだろう。

こうしてラベンダとは分かれて、シャウはポメラの方に向かって走って行った。

大物の撃退はしたが、まだアスクレピオス街を徘徊している魔物はいる。

そのため彼女らは休まずに行動を続けるのだった。


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