表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・中編
45/338

閃光の刃と魔人の刃

最初に状況の悪化に気がついたのは、他でもないシャウだけだった。

ミズキを守るために遠くからの攻撃にも警戒していた分、いち早く察知できたと言えるだろう。

シャウがタナトスとスイセンに加勢しようと動き出したとき、つい足を止めてミズキに声をかけた。


「あー…ミズキちゃん、どうしようか」


間抜けにも思える発言だ。

対してミズキは焦りの言葉を吐く。


「と、とにかくタナトスさん達の攻撃に加わりましょう!」


「うん、それもいいんだけどね…。ほら、あっち見て。あれって、明らかにこっちに向かって来てるよね」


嫌そうな表情でシャウはそう言いながら、南の方を指さした。

シャウに言われてミズキはそちらの方に視線をやると、荒々しい様子でこちらに向かってやって来ている騎馬隊の姿が、すぐに目についた。

装備や鎧を見るだけでリール城の兵士と分かり、奇跡の勇者アカネの増援だと理解できた。

このことにミズキは更に焦りの声を漏らす。


「わわっ、どうすればいいんでしょうかシャウさん!」


あたふたとミズキが反応するも、その言葉が耳に入ってないのかシャウは自分の頭を掻きながらぼやくだけだ。


「うーん困ったなぁ。この様子だと、奇跡の勇者の残りの仲間はポメラ師匠に行ってるのかも。となると、ポメラ師匠が帰ってくるのは遅くなるだろうし…。さてさて、どうすればいいのやら」


「シャウさん!あれこれと悩んでいる時間なんてありませんよ!とにかくタナトスさん達を助力して、奇跡の勇者様を先に倒しておきましょう!そうすれば騎馬隊もなんとか…」


「え、それは無理だね。タナトスもだけど、奇跡の勇者……アカネちゃんもそんな本気じゃないし。…うん、決めた!ひとまずミズキちゃんは逃げて!私とポメラ師匠は最悪捕縛されてもどうでもなるけど、ミズキちゃん達はそうもいかないから!ということで山で身を隠してて!私は時間稼ぎだ!」


シャウはそう言いながら手に持っていた三節棍を振り回しては、武器を長棒へと変形させる。

ここで騎馬隊を一人で食い止めるつもりだ。

いくら英雄と謳われている平和の勇者でも、一人では無謀だとミズキでも分かる。

だからミズキは右往左往としてしまっていた。


「でも、シャウさん!」


「いいからいいから!とにかく行動しないと状況は悪化する一方なんだよ。ほら、早く行ってくれた方が私も時間稼ぎが容易だから、ね?」


「……す、すみません。どうかご武運で!」


ミズキは躊躇う気持ちを残しつつ、うしろ髪引かれる思いのまま山の方へと駆け込んだ。

仕方ない事とはいえ、ミズキは情けない気持ちでいっぱいになっていた。

自分の実力が足りないばかりに、才能が無いばかりに誰かを守れる立場じゃない。

ただ守られる存在にすぎないんだと悲しくなる。


そしてシャウが騎馬隊と衝突するまで数十秒、その前に先に奇跡の勇者アカネと戦うタナトスとスイセンの方の状況が変化した。

タナトスとスイセンの二人がかりの猛攻により、さすがに奇跡の勇者アカネは耐え切れなくなって、タナトスの殴打を腕で防いだ時に後ろへと姿勢を崩した。

それから尻餅を着いたとき、スイセンが短剣を持ち直して飛びかかった。


「終わりです!」


「あ~らあら、それは甘いんじゃないかしら?」


スイセンの追撃に対して、奇跡の勇者アカネは嘲笑った。

それと同時に、地面が不自然な盛り上がりをいくつもみせる。

一体何かとタナトスが身構えたとき、地面の下から突き抜けて多くの閃光が天へと向かって飛び出した。

まるで地雷だ。

そして最悪なことに、飛びかかっていたスイセンには閃光の対処が間に合わない。


「う゛ぅっ…!」


閃光はスイセンの腹部を一気に突き抜けて、まるでバケツをぶちまけたように血を噴き出させた。

スイセンの血が飛び散り、笑っている奇跡の勇者アカネの顔にかかり、目を見開くタナトスの顔にも血が付着する。


「スイセン!」


タナトスは叫んでスイセンの体を抱え込むも、それは奇跡の勇者アカネからしたら千載一遇のチャンスに他ならない。

すぐに奇跡の勇者アカネは横笛を振るって閃光を操り、タナトスにではなくスイセンを狙って刃を振るう。

今、スイセンを抱えているために剣は振れない。

回避しようとしたらスイセンに当たる。

だからタナトスは自分の身で庇うようにして、スイセンを守りながら前方へ跳んだ。

結果、奇跡の勇者アカネが振るった閃光の刃は、タナトスの背中を大きく切り裂いて赤い血が舞った。

スイセンとタナトスの鮮血が混じって飛び散り、草原の葉を赤く染める。


「何をしてるんだ…俺は…!」


タナトスは着地して、悔しそうに呟いた。

タナトスからこんな言葉が漏れたのは、ミズキにスイセンを含めて守ると約束していたからに他ならない。

しかしショックを受けている時間なんてない。

尻餅を着いていた奇跡の勇者アカネは立ち上がり、振り返って容赦なく横笛を振るう。

もはやひと呼吸の猶予もない連続の攻撃。

けれどタナトスは虚ろ目となっているスイセンを静かに地面に置き、振り返らないまま剣を握り直した。


「なによそ見をしているのよ!あなた、おバカじゃないの!」


奇跡の勇者アカネが罵倒の言葉を口にして、閃光の刃の雨をタナトスとスイセンの真上に降り注がせた。

そして閃光の刃は、血と共にタナトスの足元の地面を抉る。

激しい衝突音と巻き上がる土埃。

土埃のせいでタナトスの姿は見えないが、奇跡の勇者アカネは油断しない。

次に横笛に光りを貯めて、更に強い輝きをみせた。

完全な殺意だ。

捕縛なんて一切考えてない行動。

それから奇跡の勇者アカネが横笛を振るうと、今までの閃光の刃と比べてふた回りは大きい閃光が放たれた。

大剣という言葉に表すにしても、大きすぎる閃光の巨大なる刃。

それが唸りをあげて、土埃ごと呑み込もうとしている。


「調子に乗るなよ……!」


声と共に土埃から血まみれのタナトスが、目を赤く染めて飛び出した。

そして奇跡の勇者アカネに立ち向かいながら剣を振るい、巨大な閃光の刃を甲高い音を鳴らして裂く。

速い、と奇跡の勇者アカネが驚きの声をあげる時間すらない。

タナトスは奇跡の勇者アカネの目の前に接近していて、二擊目の剣撃を振るった。


「くっ!」


慌てて奇跡の勇者アカネは閃光を操り、タナトスの剣撃を弾く。

しかし次に横笛を振るうよりも速くタナトスは剣を切り返し、素早く三擊目の剣撃を放っている。


「この…!」


すぐに奇跡の勇者アカネは横笛を持ってない方の手を動かす。

するとどういうことか閃光が壁のように発生して、タナトスの三回目の攻撃を阻んだ。

見れば奇跡の勇者アカネのもう片方の手には、儀式用のような装飾された短剣が握られている。

閃光を発生させていた道具は、横笛だけでは無かったということだろう。

しかしタナトスはお構いなしに更に剣を振るう。

奇跡の勇者アカネは次に横笛を振るって、閃光を発生させてタナトスの攻撃を防いだ。

続けて儀式用の短剣で突く動作をして、閃光の槍を発生させてタナトスの体を貫こうとする。

けれどタナトスは体を逸らして避けては、絶え間なく剣で切り裂こうとした。


そこからは、もう文字通り光速の剣撃の打ち合いとなる。

魔人の力を発揮させたタナトスは力強い剣撃を放ち、奇跡の勇者アカネは閃光の刃を倍の数に増やして攻撃する。

もはやあまりの速さに音が重なり過ぎて、響音が轟いて耳が痛くなりそうなほどだ。

光りが散り、烈風が発生し、血は舞って、殺意ある視線が交差し合う。

だが打ち合いは長く続かず、先に限界が来たのはタナトスの剣だった。

ただの剣が閃光の刃を耐え切れるわけもなく、ヒビが入って次の閃光を打ち払った時には剣が砕ける。


「終わりよ!」


奇跡の勇者アカネは剣が砕けた瞬間を隙と見て、素早く閃光を発生させてタナトスの体を裂こうとする。

けれどタナトスは懐からスイセンの短剣を取り出して閃光を打ち払い、続けて奇跡の勇者アカネを蹴り飛ばした。

嗚咽を漏らして奇跡の勇者アカネは後ろに転がるも、閃光でタナトスの動きを封じようと囲む。

しかしタナトスは駆け抜ける。

体中を閃光の刃で切り裂かれようと関係なく走り、一気に詰め寄って叫びながら拳を振りかぶる。


「これで、少しは大人しくしてやがれぇ!」


そして血まみれのタナトスは追撃として、強力な殴打を奇跡の勇者アカネの腹部に打ち込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ