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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・前編
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忠告

タナトスは先に町並みだけでも改めて見ておこうと街道を歩いていると、一軒の露店を見つける。

店頭には主につるはしやハンマー、ロープにピックなど鉱山で扱うであろう道具が置いてあるが、中には短剣も置いてあってタナトスの目を引いた。

店の中の方も覗いてみると、他にも多くの種類の道具が置いてある。


「おっと、狩猟用の槍もあるな。使えそうな剣が置いてあるか聞いておくか。すみません!」


売店には人の姿が見当たらなかったので、奥にいると思ってタナトスは呼びかけの大声をあげた。

しかし反応はなく、ただ虚しくタナトスの声が響いただけだった。


「おーい、いないのか!……なんだ?もう閉店の準備にでも入ってるのか」


再度、呼びかけても反応はない。

そのため少し残念そうにタナトスは踵を返し、店頭から離れていこうとした。

するとその時、店の奥から荒々しい足音が近づいて来ると共に、急いで来た熟年の女性の声が届いてくる。


「待って待って、お客さん!いっやぁ、ごめんね待たしちゃって。ちょっと今、主人のケガを手当していてね。全く、自分の傷も適切に処置できない不器用で困っちゃうよ。あっははは」


現れたのは年齢は40代であろう、よくいる主婦といった印象を受ける女性だった。

服装も髪型も少し年齢を感じさせるもので、明るい笑顔にはほうれい線がうっすらと唇の横に浮かび上がっている。


「ケガか。ご主人は大丈夫なのか?」


「いやぁ、心配かけて悪いねぇ。しかし大丈夫だよ。なんてことない傷だし、それにうちの主人は鉱夫だからね。ケガなんて日常茶飯事さ。今回は……まぁ、ちょっと仕事とは別なんだけどね」


「仕事とは別ってことは、なにか事故にでも?」


タナトスは他の道具を眺めながら質問を投げかけた。

すると、おばあさんはどこか気難しそうな顔をして答える。


「事故って言えばいいのかねぇ?何でも鉱山の奥に蜘蛛(くも)のような魔物がいたらしくてね。その退治にケガしたって話だよ。さてさて、それよりお客さん。お探しの物は何だい?うちは金物の売店屋だからね、お目にかなう物がきっとあるはずさ。それと多くの鍛冶屋との繋がりがあるから、お取り寄せや注文だってできるよ」


「ほぅ、それはいいな。なら一級品とはいかなくとも、長剣はないか?旅の護身用として使いたい」


「護身用ならダガーがあるけど…、長剣の類は今は少し乏しいねぇ。悪いけど、時間があれば明日の昼頃に、もう一度来てくれるかい?実は剣の入荷はちょうど明日で、品定めするならその時だね。もちろん、そのときは品質のいい物があるのは保証するよ」


「そうか。それなら明日また来よう。どちらにしろ、こちらも代金の用意は明日じゃないとできなかったからな。じゃあすまない。また来るので、その時に頼む」


「あいよ。待ってるからね、お兄さん!」


品物が無いなら仕方ないとタナトスは早々に切り上げて、手を小さく振るおばあさんに背を向けて早足でその店から離れていった。

このあと、タナトスは適当に他の店を見回ってはそれとなく街についての情報を仕入れていった。

しかし、最初にシャウが説明した通りのことが大半で、特に目新しい情報は皆無だ。

とにかくレイアは鉱山として活用されていて、治安は比較的に良く、仕事には困らない場所。

そして特別な娯楽は少ないが、特産の酒があって人々の交流は盛んであるという親睦が比較的に深い街であること。

きっと山中の街ということもあって、閉鎖的な部分があるから街人達の間の親睦が深いのだろう。


「さてと、少しは時間は潰せたな。そろそろポメラの方も見ておくか。ミズキの話の件も気になるしな…」


タナトスはぼやいては、ポメラの家の方へ向かって歩きだした。

まだ見慣れない光景に、初めてに等しい歩く道。

そのせいか少し迷いつつはあったが、何とか古ぼけ気味の家へと辿り着くことができた。

昔から住んでいて愛着でもあるのだろうか。

英雄と呼ばれている以上それなりの褒賞を得ているはずのポメラの家は、決して新築とは言い難い状態だ。

むしろかなりの築年を経ていてる方だと見て分かる。

しかしだからと言って小さい家というわけではなく、一人暮らしと考えたら必要以上に大きいと言える。

少なくともタナトスの貧しい家とは比べ物にならない。


「入るぞ」


タナトスは特にノックなどの挨拶をする真似はせず、不躾に玄関扉を開けてポメラの家へと入り込んだ。

そこで良いタイミングに、玄関と直結しているリビングからポメラの呆れた声が聞こえてきた。


「ミズキよ。お主、本気でそれがまかり通ると思っておるのか?」


その短い一言だけでタナトスは察する。

ちょうどミズキが、妹のスイセンをリール城に暗殺者として投降させないで済ませれないか、と説明した所だろう。

それで話を聞いたポメラの第一声の反応が、まさに今の一言だ。

そしてポメラはタナトスが入ってきたことに気づきはするも、この話を先決するべき重大のことだと分かっていて特に会釈と言った反応はしなかった。

ただ何とも言い難い困った目つきでミズキを見つめるだけだ。

対して、見つめられ続けるミズキは分かっていた反応ではあっても体を萎縮させてしまい、細々とした声で言い返す。


「すみません…、ポメラさん…。助けて貰っておいて、私が都合が良い事を言っているのは重々承知しています。それに正しい事とは到底言えないことなのも分かっているんです。それでも…、私はそうしたいんです」


「ミズキ、私は論理的に物事を考えしがちではあるが、別に感情論は否定するわけではない。だからお主の気持ちは尊重をするし、ほんの僅かだろうが分かってはいるつもりじゃ。しかしだ。王の暗殺という事が事だけに、とても安易にそうですかとは言えん」


「そう……ですよね」


口ごもりながらのミズキの言葉。

このまま話していけば、間違いなくミズキの意見が折れてしまうだろう。

だからすぐにタナトスは助け舟を出した。


「横槍で悪いが、ポメラ。先に言っておくと俺はミズキの意見に賛成だ。理由は簡単、何もただ逃げるだけというつもりは無いからだ」


「何じゃ突然。スイセンをリール城へ突き出さないのは、何か狙いがあっての逃亡だと言うのか」


「あぁ、スイセンから今回の全ての元凶を聞き出して、その根を俺たちで断ち切る。おそらく今、スイセンをリール城に暗殺者として捕縛させても、元凶を探し当てるのは難しいはずだ。違うか?」


元凶を聞き出すという話は突拍子もないことだった。

けれど、何も咄嗟に思いついたことを口にしたわけではない。

タナトスはミズキ達を守るには、外敵を始末しなければいけないとは考えてはいた。

つまりは外敵の大元を断たなくてはいけない。

だからこそのタナトスの発言だった。


「む…、確かにリール城内は様々な派閥があり、今は王がいないため余計にややこしい状況ではあるじゃろうが…。しかし、元凶を叩き出した所で解決できるのか?ただ敵を斬れば済むという話じゃないぞ」


「それでも、そうするのが一番だと言わせてもらう。今回の件、俺たちしか解決できない。これから俺たちにどんな困難があろうと、俺たちがしないといけないんだ。何より、俺はミズキから守るようにと依頼を受けているからな。駄目だと言われても、この選択をさせてもらう。…もし、意地でもスイセンをリール城へと連れていくと言うのなら、ポメラ。お前が相手でも俺は容赦しない…!」


ほんの僅かだけ、ピリッとした冷たく敵意のある空気が流れた。

そのことにミズキは一番に反応して、慌てて発言する。


「だ、駄目です!仲間同士で争うことは絶対にしないでください!」


大声で言ったもの、ミズキの言葉が両者共に耳に入っていないのか、ポメラとタナトスは睨みあったままだ。

目を逸らさないのは、二人共本気で考えているからこそのものだ。

しかしやがてポメラは目を伏せて、ふっと溜め息を吐いた。


「やれやれ、参ったものじゃ…。いいじゃろう。このままこちらがスイセンを捕縛していれば、元凶から仕掛けてくる可能性はあるからのう。手がかりを掴みやすくはなるかもしれん」


「……その発言、賛成ということでいいんだな?」


少し遠まわしなポメラの言葉に対し、タナトスは意志の確認をしっかりと取る。

くどいかもしれないが、ここであやふやなままの認識にしておかないためだ。

難しい決断だ。

だからポメラは躊躇いは見せるが、しっかりと言葉にする。


「……そうじゃ。賛成と受け取って貰って構わない。おそらく…、いや間違いなくシャウは賛成するじゃろうからな。私は私の意思というより、シャウの意思に従おう」


「本音で言ってしまえば、賢くない選択は嫌いってことか。別に悪いとは言わないが、時には苦難の道を選ぶのも大切だぜ」


「分かっておる…」


またポメラは浅い溜め息を吐く。

連発された溜め息で、よほど好まない選択だったのが分かる。

その中、結局はタナトスの説得により賛成を得たミズキはタナトスの方へ向いて頭を下げた。


「ありがとうございます、タナトスさん。そしてポメラさんも、無理にお願いする形で申し訳ありませんでした。とても助かります。では、早速スイセンにこの事を話してきますね」


ミズキはそう言って席を立っては、早足でリビングから出て行く。

その後ろ姿を見届けてからタナトスは、ポメラの向かい側の椅子に座り込んだ。

そしてぽつりとポメラは言葉を漏らし始める。


「タナトスよ、この選択をしてしまった以上、一つだけ忠告しておきたいことがある」


「なんだ?」


「この選択で恐ろしいのは、他の勇者のパーティーを敵に回してしまうということじゃ。それで、一人だけ絶対にまともにやり合っては駄目な勇者がおるんじゃ」


「お前がそう言うなら相当な人物なんだろうな。誰だ?」


「間違いなく最強の勇者で、殺戮の勇者と呼ばれている。そやつの名はクロス。白髪に赤目が特徴の青年じゃ。はっきり言って、殺戮の勇者の実力は魔王と遜色ない。魔王と対峙したことがあるからこそ、そう確信持って言える」


「魔王と遜色ない…か。にわかに信じがたいが、本当なら確かに相手にはしたくないな。それでも、俺は負ける気はしないが」


「そうじゃな…、お主は魔王を打ち倒した奴じゃからな……。それでも、おそらく……殺戮の勇者には…」


そこでポメラは言葉を濁し、深く考え込んでしまうのだった。

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