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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第三章・魔法と不老長寿の秘薬・後編
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カオスな仲間

銀髪少女であるカオスは一人楽しそうに部屋の中を自由に歩き回り、大きな水槽やら豪華なデザインが施されている家具を見渡している。

そんな状況下で少なくとも二十秒以上は間が空いた後、ようやくランディア国王はタナトスに向けて言い放つのだった。


「タナトス。お前は俺と交わした約束事を忘れたのか?それとも約束を果たしに来たのか?」


彼が言う約束とは、前に騒動を巻き起こしたカオスを捕縛するというもの。

厳密に言えばランディア国王からの一方的な願い事ではあるが、その前にカオスを二度と『哀楽の国』へ立ち入らせない約束をしている。

だから彼は不服そうな表情を浮かべていて、わざと刺々しい言い方をしていた。

対してタナトスは悪びれる様子は無く、ありのままのことを伝える。


「カオスとは個人的な条件を結んだため、これから俺達に力を貸してくれるようになった」


「つまり、そのじゃじゃ馬を仲間にしたというわけか?」


「少し違うな。全面協力してくれるわけじゃないが、ひとまず敵でも無いってところだ。なんというか、彼女は独断で行動を共にしてくれている」


「独断だから何だと言うのだ?その程度の言い分では、まるでお前が(ほだ)されたように聞こえるぞ」


「どうも説明が難しいな。とにかくカオスなりに重大な決心をして仲間になってくれている。納得しやすい言い方に直すと、……そうだな。俺の説得で協力的になった捕虜だ」


実際の経緯とは意味合いが多少異なってしまう答え方だが、あえてカオスの処遇は捕虜だと言いきった。

これは僅かでも曖昧な言い方や含みある発言をしてしまうと、ランディア国王が(いぶか)しげな対応をするためだ。

そして内容を噛み砕いた返答ではあるものの、今のやり取りで相手はタナトスの意図を()み取れたらしい。

国王はカオスに対して信用は覚えずとも、現在へ至る経緯に納得する反応を示してくれた。


「ふむ…。個人的に満足いく答えでは無いが、要はお前の協力者になった解釈で良いのだな。なら、アイツに一つ訊いて欲しいことがある。あの国際パレードに居た一般人をどうしているかだ」


敵国の少女については情報源扱いという認識に改めたようで、ランディア国王は密かに気がかりである事を訊く。

戦争のきっかけとなった日、あのときパレード開催地には各国からの観客が大勢来ていた。

そして『憤怒と影の国』によって観客達のほとんどが捕虜とされてしまっているため、開戦から時間が経過した今でも他国は付け入る隙を得られずにいるのだ。

またこれからの行動指針に関わる質問であり、その質問はタナトスを経由して(いま)だ室内を歩き回り続けているカオスに伝わる。

すると彼女は一応敵国の中心部に居るにも関わらず、呆気らかんとした態度で答えた。


「一般の方々ですか!マンドリンという人が自爆したせいで負傷者は出ましたが、大半は無事ですよ~!さっすがに不自由な生活を送っているとは思いますけどね!」


まだ情報が圧倒的に足りず、ランディア国王は手間だと思いながらもタナトスを経由して質問を続けた。


「…あー、その人達はどこに居るんだ?」


「私も完璧に把握しているわけじゃないですけど、『憤怒と影の国』へ送られているはず!でも移送の関係上、ある程度の人数は開催地に留まらせたままですかね~」


正直、おおかた予想通りの返答内容ではあった。

それよりランディア国王にとって重要かつ収穫なのは、あっさりとカオスが質問に答えてくれていることだ。

これほど簡単に『憤怒と影の国』について情報が入手できるのは、純粋に喜ばしい話だ。

しかもカオスという人間性からして、情報の正確性には欠けても一切虚偽を含めている様子が無い。

この割り切りの良さは相手がしやすく、しっかりと本題が通じるのは助かる一面だと思いつつ、次々とタナトスに訊かせる。


「……じゃあ、次の質問だ。えっとな…、国王アービスは次に何をするつもりなんだ?」


「それは私にも分かりませんね~。もし具体的な事を知っていても、さすがに機密情報なので教えられませんが!」


「なら、国王アービスの目的は?」


「もちろん目的は大陸の完全一掃です!そのために核爆弾頭という兵器まで用意していますから!」


「かくばく……なんだって?」


「核爆弾頭です!着弾すれば、たった一発で大陸の地表半分が見事に消滅すると聞いてます!他にも沢山の秘密兵器がありますよ~!」


感覚が麻痺しているのか、何やら恐ろしいことをカオスは何気なく答えてしまう。

ただランディア国王は困り顔を見せ、この現実的な問題に(きゅう)して呟いた。


「これは……、予想以上に戦力差があるという事になるな。しかも大陸を一発の爆弾で吹き飛ばすなど、とても正気とは思えん」


それだけ強力な爆弾を用意できるのも恐怖だが、真に恐怖すべき点は一発で全て破壊することをアービスが想定している所だ。

征服後の事まで考慮している破壊工作や戦術とは、あまりにも訳が違い過ぎる。

何より核爆弾頭を落とした後は完全に何も残らないことを明言しているから、本気で大陸一掃する狙いだと分かってしまう。


しかし、同時に不思議に思える点が浮かぶ。

本当にそこまでして破壊してしまえば当然『憤怒と影の国』から豊かさが無くなってしまう事と、それほどまでに各国を叩き潰したいのだろうかという二つだ。

いくら元の関係が険悪だとしても、完全破壊より服従させる方がよっぽど利己的なはずで、余計な問題や戦後処理も最小限に抑えられる。

簡単に言ってしまえば、どんな目的であろうと一国の主が取るべき選択では無く、やはり愚策の一言に尽きてしまう。

だからこそ、ランディア国王がアービス国王に対して抱く印象は短い一言に集約された。


「まったくもって酷く狂っているな」


自国の多大な消耗を覚悟しなければいけないという問題では無くなってしまい、もはや彼は黙りこくってしまう他なかった。

そんな時、ルミナがカオスに向けて尋ねた。


「ロイ様は絶対に中立です…。ですが、さすがに大陸破壊を見逃すとは思えませんが……」


「それについてはアービス様が少し前に直接話したそうですよ!もしかしたら爆弾で吹き飛ばすかもしれないから、自分の住処周辺は結界魔法で守っておいてくれって!」


「……そういえば、アービス国王の来訪する予定がありましたね。そうですか……。その時の用件が…そういう内容だったのですか……」


ルミナは一人納得するが、その話を聞いてシャウが驚き半分でくいついた。


「え、でもルミナちゃんが大陸を飛び回っている時に爆破されたら危険じゃないの?」


「……ロイ様であれば大陸どころか、惑星全体を瞬時に覆えます……。そのため私がどこに居ようと…、たとえ離れた一帯だろうと、爆破より早く結界を張ることで完璧に守れます…」


「へぇ~?そう聞くと、なんかフクザツな気分かも」


核爆破自体もしもの場合に過ぎないが、それだけ完全に守り切れることを聞くと大陸全体を守る事すら容易に思える。

そのせいでシャウは率直な意見を口にしてしまう中、ルミナは欠片も動じている様子が無ければ、ロイが何を胸中に秘めているのか具体的に把握しているようでもあった。

それより彼女はロイの思惑とは別に思う所があり、タナトスに向けて助言した。


「問題があるとすれば……。ロイ様が自由自在に守れるとしても…、秘薬の材料がある場所までは難しいということです…。さすがに厳密な群生地を把握しては無いですから……」


「そうか。だったら、ミズキやカオスのためにも爆破を許すわけにはいかないな。元より俺は他人を見殺す気なんて無いが」


「…タナトス様が大陸を守るのは自由ですから……、そのことについては何も言いません…。でも……いえ、何でもありません…」


明らかにルミナは何か言いかけたが、すぐに口をつぐんで黙ってしまう。

けれど、特に問いただす必要性が無いことから彼女の発言を全員が流し、次にタナトスは落ち着き無く歩き回っているカオスを捕まえた。


「それじゃあ、俺達は一度賢者の家へ行ってくる。ランディア国王、あの件は頼むぜ。なるべく完全密閉の造りでな」


「既に様々な問題が起きてしまったが、それでも明日の朝までに工事を終わらせる。…あぁ、あとできれば、この書状をメルス女王陛下に渡してくれ」


「分かった。渡すだけなら任せてくれ」


そう言って彼はランディア国王から一枚の封筒を受け取る。

まったく厚みが無く、恐らく入っているのは数枚足らずの手紙だろう。

それから瞬間転移しようとする直前、思い出したかのように国王は慌てて言い出した。


「そういえば、もう一つの用件を忘れていた!賢者の付き人よ、賢者への頼み事についてだ」


「……もうその件は……。しかし……、分かりました。ひとまず聞くだけなら…」


「聞いてくれるだけでも助かる。…そして頼み事というのは、戦争が完全終結するまで結界で『楽園と輝光の国』全域を守って欲しい。あの地にマンドリンの墓を建てたいのだ。あいつには義理があるからな」


「勝手な約束はできませんが…、ロイ様に伝えておきます。当然、果たされる保証なんて持てませんけど……」


「その時はその時で構わない。これは一方的な頼み事であり、大した見返りも用意できない話だ」


期待せず、当てにもせず、まして戦略的な意味を含まない頼み事であるために、ランディア国王はしつこく説得する姿勢は示さなかった。

しかし恐らく気まぐれの類なのか、ルミナは小さく頷いてから思いつきで喋った。


「…ん、そうですか……。なら、見返りは焼きチーズをお願いします……」


「焼きチーズ?あぁ、もしかして先ほど酒場で食べたやつか?よし、任せてくれ。念のため最高のフランベチーズを用意しておこう」


「ありがとうございます……。楽しみに…していますね」


タナトスと共に瞬間転移で『哀楽の国』から去る直前、ルミナは優しい目つきをランディア国王に向けた。

心を許したかのような素振りで、子どもが無邪気に応える際の明るい微笑みにも見えた。

先ほど彼女は否定的な言葉を口にしていたが、あの態度は約束を果たすことを前提にしているものだと直感で分かる。

そんな少女の優しさに触れたランディア国王は感化され、タナトス達の姿が忽然と消えた後に独り言をこぼした。


「結局、苦難を乗り越えるべき時には無償の助けが必要になるか。いや、マンドリンの墓を作ろうと思っている時点で私も同じかもしれん。…ふふふふっ……、我ながら随分(ずいぶん)感傷的になっているな」


彼は理性で感情を制する事に優れているだけであって、実際は誰よりも感情豊かな本質と人生経験を持ち合わせている。

だからなのだろう。

今回の出来事を機に、もっと積極的かつ前向きに国同士で協力するべきだと思い始めていた。

このような心境変化が起きている一方、タナトス達は『喜愛の国』にある宮殿内へ瞬間転移していた。

すると真っ先に出会ったのは偶然通りかかった巨体の男性エルフ、星騎士隊のリブラ隊長であった。


「お?おぉ!?うおおぉおお!タナトス君じゃないか!いきなり現れるなんて驚いたなぁ!一体どんな筋肉の使い方をしたんだい!?」


以前と変わらず雰囲気含め全身が暑苦しく、他の人とは比べ物にならないほど筋骨隆々としている見た目だ。

何気ない視線ですら力強い。

更に声帯にまで強靭な筋肉を付けたのかと思ってしまうほど迫力が込められており、こちらに向けて発せられた声のみで鼓膜が破れてしまいそうな恐怖まであった。

そのせいでタナトスは苦々しい心境を思わず抱いてしまい、かなり小声ではあるものの不満を漏らしてしまう。


「不思議だな。本当なら都合が良い再会なのに、絶妙に面倒臭い相手だ……」


「はっはっはっはー!またまた無愛想な事を言うんじゃないよー!おっと!そこにいるのはルミナちゃんとカオスちゃんだね!そして前に賢者の家で会ったシャウさんか!」


無駄に大きな身振り手振りでリブラ隊長は挨拶を交わそうとする。

そんな彼に合わせるようにシャウ達も元気が良い手振りで返す中、先にタナトスは書状を差し出した。


「まぁ、ちょっと急いでいるから挨拶はほどほどにしてくれ。まず先にランディア国王から預かった書状がある。メルス女王陛下宛てだ」


「女王陛下に書状?よし、分かった!私が責任持って届けよう!それはそうとタナトス君!前にお願いしていた事を覚えているかい?」


タナトスが近づいて書状を預けるなり、リブラは食い気味に会話を続けてきた。

ただ彼が何のことを言っているのか即座には思い出せず、つい渋い顔を浮かべる。


「お願いって、なんか俺頼んでいたか?」


「君がじゃなく私から頼んだ事だよ。ほら、武術を教えるってやつ」


「……あぁ、そんな約束したかな。でも、これから起きるような大規模戦闘で使える技はさすがに無いが…」


そう言いながらタナトスはリブラ隊長の体を見て、変化に気づくことがあった。

それは前には見られなかった些細な変貌で、彼の屈強な肉体に黒い紋様が濃く浮かび上がっていることだ。

しかも紋様はカオスの顔に出ているモノと酷似しており、彼が魔薬の被検体であったことを思い出す。


「リブラ、その模様ってファッションでつけたのか?」


「あぁ、これかい?この前、酷く苦しい症状に(さいな)まれてね。それを耐えていると、なぜか起きた時には黒い模様が出来上がっていたんだ。罪人のような印みたいな上、どうしても消えなくて困っている所さ」


「ランディア国王の言っていた魔薬の禁断症状か。そして悪魔化と呼ばれているような変化まである。…この黒い模様、カオスから見てどうだ?」


タナトスが声をかけたとき、カオスは『喜愛の国』の宮殿内は初めてだったのか、飾ってあった花を勝手に()っては辺りを見回し続けていた。

しかし呼びかけられたことに気づくと急いで駆け寄って来て、リブラ隊長に出ている紋様を見るなり答えてくれる。


「あ~、この紋様は私やアービス様と同じですね!浮かび上がっている範囲が狭いため同一効果まで持っているとは断言できませんが、魔力と身体能力の底上げはされているはずです!」


「やっぱりそうか。じゃあリブラ、最初出会った直後にしたことを覚えているか?」


「うー……んと、確か筋力比べだった覚えがある」


「そう、あの時は成り行きだったが力比べだ。今一度やってみようぜ」


本当に強化されているのか知るため、タナトスはリブラと力強い握手を始めた。

単に握手するだけでは握力勝負同然だから、通常なら分かりづらい確認方法だろう。

また以前のリブラはどれくらい力強かったのか、タナトスの記憶は非常に曖昧であった。

だが、全く覚えていなくとも彼は瞬時に悟る。

握られた瞬間、そして本気で握り締められた時、それは確実に魔王幹部に迫る力強さが内包されていた。


「これは…素直に驚いたな。前とは比べ物にならない強さだ。というより、前はまだ不完全で魔薬の効力が出て無かっただけなのか」


発言とは裏腹にタナトスの表情は涼しいものであって、ほんの僅かとも動じている気配は無い。

それほど握り締められているはずの手も問題無く、むしろ簡単に握り返しているくらいだ。

けれど、明らかに以前より抵抗されている感覚があり、これくらい強いならと思ってタナトスは提案を持ち掛けた。


「リブラなら武術全般の基礎が仕上がっているだろうしな。実戦で使えるか分からないが、なるべく有効になりそうな技を教えるぜ」


「おぉ、本当かい?なら今すぐ訓練場にでも行こうじゃないか!」


「いや、できれば書状の事を先に済ませて欲しいが」


「むむぅ、それもそうだな!なら、これはアエル副長に頼むかな!んんっ…、ちょっと失礼するよ。おーーい!!アエル副長ー!!!」


突如、リブラ隊長はとてつもない大声を轟かせてアエルのことを呼び掛けた。

その凄まじい声量は宮殿内どころか街全体に響き渡っていても不思議では無く、途方も無い爆音の衝撃によってタナトス達の体が震えあがった。

すぐ隣で爆弾が爆発するより恐ろしく、もはや一つの必殺技ですらある。

正直、今の叫び声ほど有効な打撃技があるのかも怪しい。

何にしろリブラを除く全員が驚いている間に金髪少年であるアエル副長が猛スピードで駆けて来て、出会った直後に怒声を飛ばした。


「こんの馬鹿隊長ぉ!みんなの鼓膜を破る気なのか!?遠慮が無いにも程があるし、もう何というか…色々文句が出過ぎて何も言えないよ!」


「でも、急用の際には良い伝達手段だろう?それより書状をメルス女王陛下に届けて欲しいんだ。私は急用ができてしまってね。……あぁ、せっかくだからルミナちゃん達は副長と一緒に行くといい。きっと歓迎してくれるよ」


リブラは鍛錬している間の時間潰しとして、ルミナ達三人にアエル副長との同行を勧めた。

断る理由が無い事から相談も無く決めようとするが、ただ一人アエルはカオスの姿を見て怪訝そうにしていた。


「書状の件は分かったよ。それよりも、この奇抜な恰好した女の子って……もしかして『憤怒と影の国』所属じゃないか?どうして居るのさ」


彼は一度たりともカオスと直接会ったことが無い。

それでも彼女の装備品からして所属国は簡単に推測できて、強く警戒する態度を見せた。

事の発端や状況から考えて、あまりにも当然過ぎる反応。

まして現状を思えば、今すぐカオスを捕縛しようとするのが順当な対処だろう。

だが、第三者が説明するより早く、カオス本人が明るい笑みを見せながらアエルへ近づくなり手を握った。

このとても気軽な様子で不用心な行動は予想外であって、虚を突かれた思いだ。


「初めましてアエル副長!お察しの通り私はアービス様に仕えている者です!しかし~、なんと今はタナトス兄さんの仲間でもあるんですよ~!」


「兄さん?え、どういうこと?似ていなければ種族も違うみたいだけど……。そうか、血が繋がっていない妹が居たのか」


なぜかアエルは、良くも悪くも相手の発言を鵜呑(うの)みにしてしまう。

彼の幼さ(ゆえ)なのか、はたまたカオスの素直過ぎる反応からして無意識に本音の答えだと認識したのか。

どちらにしろ誤認があるのは確実であって、少し慌ててタナトスが訂正する。


「一応言っておくが俺の妹じゃないぞ。カオスなりに親しみを込めた呼び方をしているだけで、兄さん呼びなのは何となくみたいなものだ」


「あ、そういう感じの子か」


カオスが奇天烈(きてれつ)な思考をしている事は察しているらしく、すぐさまアエルは彼の言葉の意味を充分に理解する。

だが、その言い方にカオスは一方的な不満を覚えたのだろう。

急に口を尖らせて、ちょっと文句っぽい口調で喋り出した。


「兄さん呼びしているからには、私の中では家族のように特別扱いしているんですけど~?」


「…嘘だろ?初耳と言うか、そこまで深い意味を含めている感じじゃないと思っていたが。そもそも魔法やら銃撃された事なんて、ついさっきの話だしな」


「たとえ相手が親愛なる家族だろうと、厳しく接するのが『憤怒と影の国』では一般的なコミュニケーション方法です!時には殺害も()しません!」


「親を殺している俺が言うのもなんだが、ずいぶん物騒な価値観を植え付けられているな。……とりあえず、そっちの方はメルス女王の所へ行ってくれ。俺の方はできるだけ早く済ませるから」


さり気なくタナトスが自身の不穏な過去を漏らす中、間もなくして彼らは別行動でそれぞれの目的地に行く。

タナトスとリブラ隊長は兵士の訓練場に向かい、シャウ達とアエル副長はメルス女王陛下が居る謁見の花園へ移動する。

そしてシャウ達の方では案の定カオスの行動によって賑やかな対談となる一方、広々とした訓練場でのタナトスの手解きは、すぐさま殺し合いと変わらないほど苛烈なものへ発展していた。


「身体能力だけじゃなく、傷の治りも割かし早いな。裂傷があっという間に塞がっているし、まず何より小さな傷で済むほど頑丈だ」


身体の節々から血を(したた)らせているリブラ隊長に対し、無傷のタナトスは冷静な分析をしていた。

本当はケガを負わせるつもりでは無かったのだが、いきなり実戦で使えるレベルに技を仕上げるとなれば、どうしても強引な手段が必要となってしまうものだ。

とにかく経験を積み、あらゆる動作の無駄を削ぎ落としていく。

それから精度と練度を上げていけば、ようやく一つの有効な技へ昇華する。


そういうものだとタナトスは理解しているが、文字通り血反吐を吐くほど必死になって今ここで新技習得する必要性を感じていない。

あくまで教えているのは体術に過ぎない。

だからタイマン形式のみでしか効果は見込めず、集団戦や兵器戦では意味を成さないはずだ。

けれどリブラ隊長は生真面目であり、とてつもなく修練を積んだタナトスでも感心してしまうほど熱心だった。


「タナトス君、もう一度頼む!この技を是非とも自分のモノにしたい!」


「良いぜ。そんなに意気込んでくれるなら何度だって叩き込み、感覚を掴めるまで付き合ってやる」


「ありがたい!よし行くぞ!!」


リブラ隊長は雄叫びに近い声をあげつつ、あくまで手合わせとして立ち向かい続ける。

間違い無く実力はタナトスの方が上回っているが、(はた)から見ればリブラの方も人外同然の強さを誇っていた。

またタナトスと手合わせをする度に動きの速度が格段に跳ね上がっており、強化された身体能力に慣れ始めているようでもあった。

まさしく訓練という枠を越えた手合わせで、生物の枠を越えつつある力と技。

まして戦闘の最中で成長する姿など、普通は目撃できるものでは無い。

そのため居合わせていた兵士達は驚愕していて、誰もが驚嘆の言葉を呟いていた。


「す、すげぇ…。ここまで星騎士隊長が凄いなら、戦争に負ける気がしねぇよ……」


「まさか動きが見えないって現象が目の前で起きるなんてな。もう全部が残像にしか思えないぜ」


「ってかよ、あの黒服の男もおかしいだろ…。なんであんな体格差があるのに、あんな簡単にいなしているんだよ……?見ていて訳が分からない」


そんな言葉が口から出ている間にも、二人は数十回に渡る攻防を繰り広げていた。

当然かもしれないが、もはや並の兵士がまともに追える攻防は何一つない。

それでもタナトスは細かなに指示を出すことで、リブラの動きに修正を入れていた。


「足から腰に入る力の流れが固い。もっと綺麗な脱力を意識しないと勢いが死ぬぞ」


「はっ!なんのなんのぉ!」


「いい加減な気合を入れても瞬発力は生まれない。元から柔軟性は足りているんだから、自然体で工夫を凝らせる技を身に付けろ。ほら、また上半身だけ使った攻撃だ。足元は広く構えたままで良いから膝を少し狭く締めろ」


「うっ!ふぅ!うぉおお!!ぬぉ……てゃ!」


「今度は慎重に考えすぎだ。逆に悪くなっているぞ。もっと直感的な身のこなしでありながら、相手からすると変則的にも感じる鋭さを持ってだな…。お?なんか時折良い力強さがあるな」


「筋肉の使い方だけながら君に劣らないほど超一流さ!見たまえ!この流動する筋肉!」


「………凄い無駄で余計な魅せ方だ」


確かにリブラ隊長の筋肉の(たく)みな使い方は目を見張るものがあるが、それは相手に筋肉をアピールする動きに等しい。

だが、何か思う所があったのだろう。

タナトスは一旦距離を取った後、彼の呼吸が整うまで待ってみせた。


「予想外にも基本能力は引き上がったが、これだと教える技を変えた方が良さそうだな」


「む、強力な一撃必殺の方が私好みではあるが……。それとも他の強力な技かい?」


「強力になるか分からないが、方向性こそは真逆の技だ。その技はズバリ……超絶軽いパンチとでも言っておこうか」


「なんだかダサく聞こえるな?」


「分かりやすく言っただけだ。適当に高速筋肉魔法ラッシュとでも呼んでくれ」


「それは非常に響きが良い名前だが、もしかして連撃なのか」


「連撃に繋がるかどうかはリブラ次第だな。とりあえず一発だけ披露してやるよ。………俺流にイメージしやすく名付けるなら…、咆哮牙(ほうこうが)


そう言ってタナトスは瞬時に技を放った。

それは打撃技だったのか、魔法の類だったのか、または実は隠し持っていたかもしれない武器によるものなのか、ずっと見ていたはずの兵士達には分からない。

遅れて分かったのは、リブラの後方にある壁に大穴が出来ている事のみだ。

また彼がどんな技を披露してくれたのか理解するのに、一番近くで見ていたリブラですら時間を要するのだった。


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