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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第三章・魔法と不老長寿の秘薬・後編
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黒炎は新風により揺らぐ

いくら見た目に禍々しい変化が起きても、長い銀髪を僅かに逆立てるほど気迫が増していようと、カオスの根本的な戦法は何一つ変わらない。

せいぜい前と異なる点は肌に突き刺さるような気配を迸っている事のみであり、結局はタナトスの前で悠長な独自詠唱を始めてしまう。


「鉄壁強固なる古城は劣化せども盤石!豪風雨では揺れず、大地の崩壊にも耐えず!されど、守護神たる遺物であろうと内から湧き昇る黒炎(ダークフレイム)(いぶ)り焦がされる!投獄()りなす(かご)()せ!黒炎の監獄ダークプリズンフレイム!」


「こいつ、真面目なのかどうか分かりづらいな……」


どれだけカオスが早口で詠唱を言い切ろうと、誰でも独り言を呟ける程度の猶予が生まれるため、攻撃する予備動作として考えたら酷く隙だらけだ。

間も無くして、一帯を包み込むほどの巨大な黒炎が唸りあげて襲って来たが、タナトスは一歩も引かないどころか素手で簡単に打ち払ってしまう。

その防御方法は埃を払うような仕草であり、恐らく本人もそんな軽い感覚で防いだ事だろう。

そして、あっさり払われてしまった黒炎は周囲を焼き焦がすのみであって、どう足掻いても直接的なダメージを与える役割を失っていた。


「尋常では無い強さだとは思う。……だけど、さすがに相手が悪かったな」


僅かとも脅威だと感じ取ってないらしく、タナトスは余裕ある態度を一切崩していない。

こうして既に襲われているのに、物腰は自然体のままだ。

カオスは何度か彼の戦いぶりを目の当たりにしているから、自分より格段に強いこと自体は理解していたつもりだ。

しかし、彼女は彼の全力を知らなかった。

だから想像を遥かに上回る実力差を目の当たりする事になり、まるで歯が立たない事実に動揺してしまう。


「くぅ~、やりますねぇ!」


まだ出会い頭からの初撃に過ぎず、より強力な魔法を連続で撃つのは可能だ。

そう考えることで戦闘の意思を維持しようとするが、自分の強さが増している今だからこそ、タナトスが持つ異次元のような強さに感心と恐怖を覚えていた。

正直カオスからしたら、彼の実力はブライトと全く同等に感じられる。

だとしても、こんな早く気後れはしていられず、彼女は無理に虚勢を張り続けた。


「ですが、私は見事務めを成し遂げてみせます!どんな相手であろうとも達成する!それが私の役目ですから!」


「そうは言っても、だいぶ無理しているだろ。もう息切れしているぜ?」


彼に指摘されてカオスは初めて自覚する。

たった一度魔法を発現させただけなのに、なぜか短く浅い呼吸が繰り返されている。

こんなことは少し前だったら考えられない現象だ。

だが、まだ精神力と魔力の両方を枯渇していない事から、カオスは精一杯に否定してみせた。


「息切れがなんですか!これは力の使い方に慣れてないだけ!まだまだ元気は有り余っていますよ~!」


「……今は敵同士だしな。強気なのは勝手だが、これ以上は止めておいた方がいい。このままだと早死にするぜ」


「早死にですって?それが何ですか!元より私の寿命なんて十年ちょっと!今更少し縮んだくらい何てことありませんから!」


「そう軽々しく命を投げ捨てることを言うなよ。可哀そうな奴だ」


ついタナトスの口からは本音がこぼれる。

本当に寿命が短いのかどうか知らないが、自身の命を(かえり)みてないことは紛れも無い事実だ。

しかも自ら進んで寿命を削っており、幼いながらも燃え尽きようとしている様は見ていて悲しくなってくる。

こうなっては理由や経緯が違っていようと、ミズキの境遇と大差なく感じてしまう。

そうであればカオスはミズキと同じくらい強固な信念を持ち、覚悟を決めて行動を起こしているのだろう。

なら、闇雲に突っ切ろうとしている彼女を尚更止めるべきだと彼は思った。


「何か掴み取れるものがあって懸命になるのは高潔だ。だけどな、今ここで死んで何になる?俺を止めるためだけに命を散らすなんて、どう考えても無意味だ」


「命を散らすつもりなんてありません!そして諦めるつもりも無いですから!なんたって私はアービス様の懐刀!全ての命令を完璧に成し遂げ、これからも遂行し続けてみせます!」


カオスは大声で反論しながら二丁拳銃で銃撃してきて、渇いた破裂音が連続で鳴り響く。

すかさずタナトスは銃弾の軌道を見極め、最小限の身のこなしで軽く回避してみせた。


「おいおい、忠誠の示し方を間違って無いか?大前提として、お前は物言わぬ道具じゃないんだぞ」


「当然です!私は道具みたく意思が無いわけではありません!自ら望んでやっています!」


これは『憤怒と影の国』の者らしい思考回路だと言うべきなのだろう。

ひたすら妄信的で現実を直視せず、たいした根拠も無く不可能が無いような口ぶり。

こうあるべきだと思い込み、最期の一瞬まで思い込んだまま行動しようとする様は操られている傀儡(くぐつ)と変わりない。

掲げている目的以上の結果が出る道のりを探そうとしていない上、いつの間にか物事の順序が狂ってしまって命を散らすことが目的になっている。

このことに気づいたタナトスは(あわ)れみを抱いてしまったのか、突如気まぐれに等しい感覚で深入りする事を口走った。


「成し遂げると見栄を張っているが、お前自身の目的はなんだ?その命の使い方とやらは、あくまでアービスの望みを叶えるためのものだろう」


「だから何だと言うのですか!結局は部外者である人に知ったような口で言われたくありません!そもそもアービス様の願いが私の夢でもあるのです!」


愚直過ぎる言葉で根本から否定して拒絶するなり、今度は詠唱無しに黒炎の魔法を撃ち放ってきた。

それは地表を砕きながら走って来るものだが、タナトスは勢いよく踏み潰して黒炎を揉み消してみせる。


「確かにそうだ。それに俺が諭そうとした所で、そう簡単に心変わりを期待するべきじゃない。だから無理やりに心変わりさせてやる」


「は、はぁ?何を言っているんですか!どのような手段を使おうと、私は屈服しませんよ!」


「っくはははは。相変わらず威勢は良いようだが、口では何とも言えるさ」


小馬鹿にする笑いじゃなく、心を許したような笑みでタナトスは応えた。

それからだ。

カオスは瞬きをする間も無く、何か衝撃を感じる事すら無く、ただ気づいた時には彼に組み伏せられて地面へ倒れてしまっていた。

あまりにも無音で速かったため、事前に予告されていたにも関わらず、いつ動きを制されたのか分からない。

驚きの声をあげる反応もできなかった。

とにかく最初に分かったのは仰向け状態で両手首を押さえつけられ、タナトスに馬乗りされてしまっていることだけだ。

もはや反撃ができない姿勢であり、大声で文句をあげる抵抗手段しか残されてない。


「う~、こんないきなりだなんて!幼気(いたいけ)な女の子に向かって一体何をするつもりなんですか~!」


「自分から言う事かよ。とりあえず力()くだからな。すこーしだけ苦しいかもしれないが、まぁカオスなら大丈夫だろ」


「やぁ……ん…。ちょっと……!こんなこと駄目ですって!」


「今更下手な抵抗をするなよ。たっぷり時間かけて遊んでいる暇は無いんだ」


どこか不敵な事を言うなり、タナトスは魔王の力を使ってカオスの本心を探った。

何を想い、個人的に何を願っているのか。

それは相手が明瞭に思い浮かべていなくとも、潜在的な意識から垣間見ることができる。

対象が最低限の知性さえ持っていれば例外は無い。

だが、確かに相手の願いを知ったはずなのに、どうしてもタナトスには理解が難しかった。


「どういうことだ、これは……?なぜメルス女王との暮らしを望んでいる?」


タナトスが視たものは、分かりやすく一つの光景として映し出されていた。

その光景は平凡な生活風景ではあるものの、どういうことかカオスとアービス国王の姿のみならず、『喜愛の国』のメルス女王陛下まで居た。

また楽しそうに会話している風景であり、カオスとメルス女王陛下は一種のコミュニケーションとして互いに長い髪を()かし合っている。

こんな強く望むほど、特別な繋がりがあるようには思えない。

だから謎だったわけだが、カオスはタナトスの心境を感じ取ったらしく答えてきた。


「言ったはずです。アービス様の願いが私の夢であると」


「つまりアービスはメルス女王との暮らしを望んでいると?そうか、まさか恋愛感情を抱いているとはな」


「……違います。アービス様はメルス女王の弟君なのです。ただアービス様は全てを歪められて生まれ落ち、その歪みを不完全ながら修正した存在が私」


「いや、説明みたいに言われても何一つ分からないが」


「当然ですよ。これらは複雑に絡み合った結果ですから、タナトス兄さんが理解できる余地なんてありません」


「そうかもしれないが、俺でも分かることがあったぜ。お前は死んでも構わないだとか、役立つためだけに生きていると言っていたはずなのに、望んだ世界にはカオスの姿があることだ。しかも楽しそうで幸せそうな様子でな」


鋭く指摘され、どれだけ強がっても夢見る少女に過ぎないカオスの心は大きく揺れ動く。

その隙をタナトスは見逃さず、真っすぐ見つめながら言葉を続けた。


「結局、死んで叶う望みなんて無い。……スイセンもそうだ。あいつはミズキとの平穏な一生を望み、シャウと楽しく生きたかったはずだ」


「何の話ですか……」


「似た望みを持っていた奴が身近に居たって話だ。あとは…、そうだな。明るい幸せを望んでいる以上、ますます無駄死にさせられなくなった」


「……なんでそんなことを平気で言えるのですか。私はタナトス兄さんにとって敵でしょう!邪魔者でしょう!なのに、どうしてお節介をかけようとするの!」


「仮にも俺の事を兄さん呼びしているからな。少しでも親しく思ってくれているのなら、良い結果になるよう手助けしたくなるのが人情だ」


強引ながらも逆手に取る形で理由付け、タナトスはカオスを解放した。

すると彼女は反撃する意思を失いつつあり、色々と混乱しているのか半ば呆然としているように見えた。

傍から見れば、タナトスが相手を惑わしているだけだろう。


なぜなら実際問題としてカオスが考え直した所で、自身の判断による決定権など許されていない。

とにかくアービスの意志に沿()わなければいけず、国王の駒らしく従順には変わりないからだ。

要は選択が限られてしまっている彼女だが、どう足掻(あが)いても望む結果へ至れない少女にタナトスは言葉をなげかけた。


「実は今、賢者ロイに不老長寿って薬を作って貰うよう頼んでいる。もし良かったらカオスも服用しないか?そうすれば寿命が短いという問題は解消されるはずだ」


「あ……で、でも………。私が長く生きたところで、何か意味があるようには思えない…」


「そうじゃない。お前自身はどうしたいのか、俺は聞きたいんだ」


「そう言われてしまったら答えは決まっています……。でも、きっとアービス様の意に反していること。こうして私が悩む事すら背徳行為のはずです」


「一から十まで主に従うってのが、お前の選択なのか?」


「あ……うっ…、分からない……。どうすれば良いのか、今更どうして悩んでしまうのか、全てが分からない…。こんな考え、絶対いけないことなのに…」


本気で悩むのは単に甘美な誘惑に聞こえるだけじゃなく、正しいと思ってしまう側面が強いからこそだ。

けれど答えが決まっていようと、何が正解なのか薄々感づいていても即決できる内容では無い。

そのことを分かっているタナトスは、寂しい雰囲気を漂わせるだけの少女を優しく見守りながら言った。


「まぁ俺の提案は最後の手段か、頼みの綱だとでも思っていてくれ。あと一番大事なのは生きている限り選べる道だって事だ」


そう言い残した直後に彼は高速移動し、格闘のみで巨大兵器を破壊していた。

元より少女にタナトスを止める術は無い。

そのせいかカオスは任務失敗したショックは然程(さほど)無く、それより自身に残る違和感を拭えないのが問題だった。

アービスを崇拝し、生まれた時から尽力し続け、無理して大きな能力まで得たのに多大な虚無感に(さいな)まれる。

どんなに頑張っても、アービスの命令通りに事を成しているはずなのに本当の意味で役立っている気がしない。

今まで思い込んでいた何かが、取り返しがつかないほど崩れ瓦解していくような感覚がある。


「……違う、私には自分の手で築いたものなんて最初から無いんだ。この力だって、魔法だって……流れる血や命すら造られたもので……。そして今居る場所も用意されていただけ……。それでも……、私はアービス様の役に立ちたいの…」


胸の内が締めつけられる中、自分が抱いてしまう想いの正体が分からない。

ただ役に立ちたい気持ちが強いはずなのに、一緒に居たい気持ちも強い。

そして、その芽生える不思議な感情はカオスに奇妙な考えを浮かばせる要因となり、本人にも分からない行動へ駆り立てた。


「タナトス兄さん…!!ここから私を連れて行って!一緒に!一緒に答えを探して、本当に望んでいた結果を見つけさせて下さい!!どうか私にチャンスを与えて!」


まだ彼が居るのか分からない事など関係無く、カオスは心の底から空に向かって叫んだ。

その張り上げた声は広く木霊(こだま)していき、多くの者が少女の必死な訴えを聞いただろう。


それから同時刻、『哀楽の国』では最後の砲撃がルミナの尽力により防がれていた。

着弾を許したのは最初の不意打ちのみであり、無事最小限の被害に抑えられた。

また一方ではシャウが探偵である男性エルフを拘束していて、人通りが少ない路上で厳しく問い詰めている最中だった。


「こら!まだ抵抗するつもりなの!?」


「いっ、いたたた!違う違う!この体勢がキツイからさぁ。なんとか腕を楽にしたいって気持ちぐらい分かるだろぉ…!」


相手の行動を許さないようシャウは探偵の腕を捻り上げていた。

少しでも気を抜けば関節が外れるか骨折しそうなほど関節技を強く仕掛けていて、つい反射的に抵抗してしまうのは致し方ないくらいだ。

それでも彼女は容赦なく締め上げるため、強制的に不自然な姿勢を持続させられている探偵の腰や足に負担が出始めた。

このことから相手は簡単に()を上げてしまい、勝手に何もかも白状する。


「俺はよぉ、探偵ついでに根無し草のスパイ活動しているんだよ!こっ…、今回は『憤怒と影の国』の方を優先したけどなぁ!」


「根無し草のスパイって意味が分からないんだけど」


「金で何でも請け負うって事さ!ただ自分にとって都合よく動くだけで、簡単に二重スパイやら三重スパイとかするぜぇ」


「なにそれ、つまり勝手に裏切り放題って事でしょ。……もう呆れちゃうなぁ。ランディア国王が貴方を信用していないって言っていた意味が分かるよ。これは本当に信用できない相手だね」


「へ、へへへ……。掃除ついでに前金を盗んでいた一派が、ずいぶん偉そうなことを言うんだな…!」


「前金?…って、あぁ……。なんか引っかかるとは思っていたけど、そういうことなの」


どうやら前に探偵事務所を掃除した際、アカネが見つけた探偵のヘソクリらしき宝石は『憤怒と影の国』からの依頼料であり、スパイ活動するための前金だったようだ。

タナトス達が迷惑料として持ち出した割には愚痴を一つも言って来ないと思えば、元から表に出せるお金では無かったというわけだ。

もっと思い返せば探偵エルフは取り立てが頻繁に来るほど借金だらけでランディア国王まで認知しているほどだから、怪しい宝石だと一発で感づかれる可能性もあった事になる。


何にしろ真っ当な手段以外で稼ごうとした報酬であり、どんな手段でも稼ぐためなら構わないというのは、良くも悪くも『哀楽の国』における国民性を色濃く体現している。

それよりもシャウは問題の種である彼を見逃さずわけにはいかず、若干呆れた様子で喋り続けた。


「そういう義務があるわけじゃないけど、とりあえず連行させて貰うよ。貴方が共犯者だって事に変わり無いからね」


「本気かよ?さすがに惨殺されちまう」


「私の情けで穏便に済ませられる話じゃないし、もし見逃して更に負傷者が出たりでもしたら一生眠れなくなるもん。そもそもリスクを知っていて犯行に及んだわけでしょ」


「しっかしなぁ~。甘い蜜だけ楽しんで酷い目に遭いたく無いってのが俺の(サガ)だからよぉ~」


「……あれこれ言われてもね。こうしてワガママばかりじゃなく、まともな身の振り方でも考えたら?」


「これでも保険は用意してあるが、相手があのランディアだからなぁ。ちょっとばかり今回は覚悟が必要かもな」


「あっそう。最初から連行させられると分かっているなら、気にせず連れて行くからね」


事前に保険を用意している辺り、だいぶ手慣れているのだろう。

こればかしは何とも狡賢(ずるがしこ)く、小悪党っぷりが染みついた探偵が居たのもだとシャウは思わざるを得ない。

そのため彼女は気兼ねなく彼を無理に引っ張って行き、つい先ほどランディア国王を渡したように再び兵士を探すことにする。

ただ、それより先に一人空中で防衛戦していたルミナが戻って来て、すぐにシャウは(ねぎら)いの言葉をかけた。


「あ、ルミナちゃん!あれから一発も砲弾を落とさせないなんて、さすがだったね!というか、もう街は大丈夫そうなの?」


「はい…、タナトス様が上手く処理したのでしょう。しかし盗み聞きしていましたが……、スパイやら何やらと大変そうですね…」


「戦争において諜報活動は常套(じょうとう)手段だからね~」


何気ない会話。

すると捕まっている探偵エルフは何食わぬ顔で話に割って入ってくる。


「勝つためなら、誰もがあの手この手と試行錯誤するからなぁ。おかげで皆が良い商売になっているのさ」


「……借金生活で泥水すすっているからなのか知らないけど、探偵さんって変に度胸あるよね。何でも他人事みたく話せる姿勢には感心するよ」


「図太い神経の持ち主じゃないと、都合よく裏切ったり情報売ったりできない仕事なんでね」


「あのさ、言っていることが探偵の立場から程遠い自覚ある?」


「もしかして、お嬢ちゃんはおとぎ話とか好きなのかい?あいにく探偵が正義の味方とは限らないぜ」


まして自分は善人側であろうとしている意思を欠片も持っていないと言いた()だ。

それから、あれこれ話している間にシャウ達は近くの宿へ辿り着く事となる。

そこの宿は立派な外装が施されていて、また会社のシンボルとなるマークが大きく描かれている。

きっとランディア国王が経営している会社の一つだろう。

だからなのか宿の従業員より兵の姿が多く見受けられ、異常事態に対する厳戒態勢が敷かれていた。

そして兵に事情説明するとシャウ達が案内されたのは豪華な地下施設であり、いわゆるVIPのための宿泊空間となっていた。


「こんな場所を作ってしまうなんて、人の発想は凄いですね……」


想像したことない光景を見て、ルミナは感動したように呟く。

慣れない経路を進み行くと、やがて地下とは思わせないほど開放的で晴れ晴れしく広い部屋に着く。

異様にガラス張りが見受けられたり水族館を連想させるような水槽があるなど、見た目ばかり重視していて避難所として心もとない造りだ。

この場所でランディア国王はゆっくり休憩していて、三人の姿を見ると溜め息ついた。


「ふぅ…、何かと迷惑をかけて申し訳無いな。事ある(ごと)に助けられてばかりだ」


「私達なんてそういう使命みたいなものだし、良くできるなら良くなるよう尽くすよ。それより、とんでもない問題児を捕まえたよ!」


「………その借金野郎のことか。敵国の手先としてスパイ活動していたのは知っている。どうやら判断を誤る結果となってしまったがな」


「え、わざと泳がせていたってわけなんだ」


ある程度ではあるものの、ランディア国王自身も上手く裏の意図を読んでいたらしい。

けれど超遠距離砲撃が可能なのは完全に予想外だったのだろう。

未知の兵器、それも想像を超える性能であれば対処できなかったのは仕方無いかもしれない。

どちらにしろ探偵の身を一旦預ける事となり、ほぼ同時にタナトスが瞬間転移して地下空間へ現れた。

前触れも無い登場だが、今更の彼の現れ方に驚く者は一人も居なく、用事を終えたのだろうと本人が報告せずとも察せた。

対してタナトスはこの場所に少し意表突かれた表情を見せ、独り言同然に呟いた。


「急いで来たが、なんだこの場所。変な部屋だ」


そう言った直後のこと、なぜか彼の後ろからカオスという少女が姿を見せる。

まるで仲間のような顔ぶりであり、タナトスに至っては当然のように連れて来た態度だ。

そのせいでシャウ達のみならず、あまりの予想外な出来事にランディア国王までも呆気取られた表情を浮かべていた。

『哀楽の国』にとっては忌々しく、因縁深いハーフエルフの少女。

しかしカオス本人は大して気にかけず、気軽に挨拶を口にした。


「あ、皆様方。どうぞお邪魔しますね~!」


捕縛されている状態でも無い事によってランディア国王は薄っすらと事情を察するが、上手く事態を呑み切れない現状も相まって完全に言葉を失ってしまっていた。


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