第1話 そうだ、冒険者になろう
俺は忍崎ハジメ、水の星アースターの日本という国に生まれ早35年になるいい年こいたおっさんだ。
自分でいうのもなんだが俺はたいした人間じゃない、どちらかといえばそう……ダメなおっさんに分類されるだろう。
アースターの人間は生まれてくる時必ず『スキル』と呼ばれる異能を授かる、人によって授かるスキルの数や強さは異なるが俺が授かったスキルはたった一つ『疲れにくい』それだけだ。
このスキルのせいなのか元来の性分なのかは分からないが、俺は昔から極度の集中型で、読書や勉強、ゲーム、まあなんでもいいが一度ハマると朝から晩まで時間も忘れて熱中してしまう癖があった。
スキルのおかげで一日中何かに打ち込んでても体調を崩したりすることはなかったが、規則正しい生活というのがどうも苦手で、学生生活を終えた後は両親が遺してくれた家に籠り畑仕事をしながら在宅でできるアイテムクラフトの仕事で日銭を稼いでいた。
俺が作ってる物は所謂『アイテム』というやつで、これはスーパーや百円ショップで売られているような日用品ではなく、世界各地にある異界化浸食融合の産物『ダンジョン』に挑む冒険者たちの活動をサポートするための代物だ。
クラフトスキルもない俺が作れるようなアイテムでは得られる報酬も微々たるものだが、ガボチャ芋という味は微妙だが一年中収穫できる野菜を育てているおかげでなんとか生活できていた。
できていたんだ……今日この日までは。
「おいおいおい嘘だろ」
窓の外を見れば、何者かに荒らされたガボチャ芋畑。
現場に残された足跡や畑の惨状をみるに、人間の仕業じゃないことは確かだ。
そして――。
「マジかよこれ……」
階段を下りてすぐ、一階のリビングへ通じる廊下。
トイレの横に突如現れた、家の中には場違いな門。
「この扉……どう見てもダンジョンの入り口、だよな」
俺の平穏な生活は、たった一晩のうちにぶち壊されていた。
「はい、はい、分かりました……はい……ありがとうございます、では、失礼します」
「……ふぅ」
畑の被害を冒険者ギルドに報告し。その後、市民の義務として自宅にダンジョンが出来た事を市役所に報告する。
すると、発生したダンジョンの扉を撮影し画像を送ってくださいといわれたので、スマホで撮った写真をメールに添付し指定されたアドレスに送れば、しばらくして返信が届き、俺の家にできたダンジョンが『ストーンドア』つまり危険度が低い『低級ダンジョン』であることが分かった。
市役所の人の説明によれば、ダンジョンが私有地に発生した場合国から補助金が出るらしいが、ダンジョンの危険度によって支給される金額が異なり、低級ダンジョンの場合避難や現場封鎖などの特別な措置が必要ないため、お見舞金として後日一万円が口座に振り込まれるとのことだった。
「さて、どうしたもんか」
臨時収入として一万円は十分ありがたい金額だが、生命線だったガボチャ芋畑を失った代わりにはならない。
正直な話、アイテムを作って売るだけでは生活していくのは厳しい。
多少は貯えがあるのでめちゃくちゃ切り詰めればしばらくやっていけるかもしれないが、怪我や病気に掛かりでもしたらすぐに貯金も底が尽きるだろう。
「ダンジョン、か」
私有地に発生したダンジョンの場合、正式な手続きを踏み誰でも入場可能な『公開ダンジョン』としてギルドに登録すれば、入場料を貰うことが出来るが。
「場所が場所だからなぁ……」
流石に、知らない人を家の中に招き入れるのには抵抗がある。
そもそも、我が家にできたダンジョンはストーンドア。最低ランクのダンジョンなので、公開ダンジョンにしたところで安定した収入が見込めるかも怪しい。
「こうなりゃもう、やるしかないか」
ストーンドアとはいえダンジョンである以上、あの中へ入れば何かしら金目のものは手に入る。
自力でダンジョンを攻略できれば、ちまちま入場料を貰うよりは確実に稼げるだろう。
幸い、ギルドと取引を行うアイテム職人である俺は冒険者登録を既に済ませてある。
これまで一度もダンジョンに潜ったことはなく、なんの実績もないので等級はFだが、ストーンドアのダンジョンであれば入場可能だ。
「覚悟を決めるか」
一度公開ダンジョンにしてしまえば、後から非公開にすることは出来ない。
危険度が高く、内部の資源価値も大きいシルバードア以上のダンジョンであれば俺の意志に関係なく公開ダンジョンにする義務があるが、良くも悪くもストーンドアなおかげで今の俺には選択肢がある。
なら、公開ダンジョンにするかどうかは挑戦してから考えたっていい。
もちろんダンジョンに潜るってことは自分から危険に飛び込むようなもんで、最悪死んじまう可能性だってある。
だからダンジョンに挑む奴らを冒険者なんて呼ぶわけで。
「えっ、それでおじさんダンジョンに潜ることにしたの?」
「誰がおじさんじゃ、ハジメさんと呼べ、ハジメさんと」
畑の惨状を見て心配になったのか、様子を見に来てくれたご近所さん、小森ホタルは呆れた顔で俺を見上げた。
小森さん家とは昔から付き合いがあり、彼女の両親が多忙なこともあり俺がちょくちょくホタルの面倒を見ることもあった。
昔はハジメお兄ちゃんと懐いてくれてかわいい妹分だったが、月日が経ち今はダメなおじさんを見る目でみられている……まあ何も間違っちゃいないが。
「長年腐らせていたが冒険者手帳は持っているしな。畑もこんなだし、もうこうなりゃ、やってみるしかないだろ」
「大丈夫ハジメ、ヤケになってない?」
「……な、なってないぞ」
「目、泳ぎすぎでしょ」
実際、ホタルのいうように畑を失ったショックでヤケになってるだけかもしれない。
でも不思議と、ダンジョンを前にした時心の何処かでワクワクする自分がいて。
俺はこの日、35年間選ばなかった道を選んだ。




