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【完】オードとオルスカ

「トレルアーカの護衛やらを向こうにして、あれだけの立ち回りをしたって言うのに。どうしてどこの新聞も、オードさんの活躍について沈黙しちゃってるのよ?」


「ええ? いや、沈黙というかね、オルスカ。わたしは誰にも知られていない・・・・・・・のだから、書かれないのが当然だよ」


「そんなー!」



 納得のいかない様子で、オルスカは眉毛をきゅうと寄せた。


 市門の上からオルスカは、一部始終をはっきりと見ていたのだ。巨大な鉄槌をぶんぶん振り回して、トレルアーカ第二王女の一味をなぎ倒すオードを。



「あっ。でも衛兵たちの目に留まらなかったとしても……。やっつけられた当事者たちは、髑髏どくろ怪人をしっかり見たはずよね? あの人たちがじきに言い立てて、大騒ぎになるんじゃないのかしら!」



 ジルゼリー卿とともに、護衛役と御者・侍女と、三人ものトレルアーカ人が、重要参考人として留め置かれているはずだ。



「その辺はね、……公安がもみ消してくれるから。大丈夫なんだ」



 手をひらひら振って言うオードに、やはりオルスカは首をかしげる。



――公安の小者こものと言っていたけど……。じゃあ髑髏怪人として、オードさんは提携しているってことなの?


「そもそも。どうしてオードさんは、あんな摩訶不思議ができるのよ? とんでもない高さを跳び越したり、杖の先っちょに大きな鉄槌を浮き出させるなんて。おとぎ話の中の魔法みたいじゃない」


「そうそう。まほうの力で、超常の英雄に変身しているのー」


「ごまかさないで、もう。……やっぱり、あの水晶の髑髏仮面のおかげなの??」



 オードは、にこーっと笑った。



「そう。その秘密を知ったからには、オルスカをここから出すわけには行かないな。新人のお女中として、この屋敷で末永く幸せに働くかい?」



 ぷー、オルスカは唇をつぼめた。



「やあだ、オードさんがご主人様だなんて。想像できない」


「ええ~~……」


「……友達だもの。オードさんは」


「ええ~~♪♪」



 その時、かたりと戸が開いて、ばあやさんが台所に入ってきた。



「オード様。オルスカさんお見送りの、馬車の用意ができましたよ」



 二人は立ち上がり、それぞれの外套を羽織る。


 玄関の先にとまった馬車……。そのすぐ近くで、小柄なオルスカはのっぽのオードを見上げた。



「……ほんとに行ってしまうのかい。オルスカ?」


「はい。いちど故郷に帰って、お母さんの様子を見て……。その後は、他の奉公先を探すわ」



 傷だらけになったはずなのに。そう言い放つ娘のひたむきな表情に、オードは両眼を細める。



「……何かあったら。いつでもここへ、わたしのところへ帰っておいで。蜂蜜ちゃん」


「ありがとう」



 オルスカは両腕をさし上げて、オードを抱きしめた。


 上の方から抱きしめ返してくれる、オードのその抱き方が……。やっぱり祖母と同じ力強さだ、とオルスカは思う。



「あの時。わたしを抱きとめてくれて、ありがとう」



 にこっと笑って――オルスカは、馬車に乗り込んだ。


 御者役のじいやが、からころ馬車を進め始める。


 門をくぐって、その先の未来へと見えなくなってゆくオルスカの乗った馬車を、オードは立ち尽くしたまま見送っていた。


 やがて紺色の長い室衣のかくしに、あの水晶仮面をさぐる。



「若く美しくあほうで気丈で、いちずなきみを失わずに済んで。ありがとうと言うべきは、わたしだよ」



 すちゃ。静かにつけた髑髏仮面の下で、オードの褐色の瞳が笑う。



「生きて笑うきみは、うつくしくとうといんだ」



 傷だらけになって、まぶたを涙に腫らしていても。それでも前を向こうとする存在……そういう尊いもの達を守るために、自分は鉄槌をふるいたい、とオードは思う。



――いいか。きみは余裕で、勝ちにいける。きみの世界を、きみの手中に取り戻すんだ。



 ひょい!


 オードは跳んだ。


 とす、とすっ……。どしん。


 屋根を数歩でとび越して、屋敷の煙突の上に立つ。髑髏どくろ仮面夫人は、紺衣の裾を風になびかせる。手にした黒木の杖の先には、ふわりと超常の鉄槌が出現していた。


 霧がかる灰色の秋の空に、その細長い屈強な影が浮きかくれする――。


 この世のものならざらぬ、死生のあわいをつかさどる神とは。


 ……彼女のような姿をしているのかもしれない。



【完】

〇 〇 〇


 皆さまこんにちは! 作者の門戸です。『髑髏仮面夫人の静かなる鉄槌』に触れていただき、誠にありがとうございました。もしよろしければ、ページ下部分にある評価やリアクション、ブックマークなどをお願いします。


 いつもはアイルランドやケルト文化に影響を受けた作品を書いておりますが、今回はいつもの世界観からちょっとはずれたお話でした。オカルトよりのダーク・コージー・ミステリー、でも訳しているのはアイーズ・ニ・バンダイン。『呪われ彼氏を救うわよ! ふかふか翻訳士&びびり魔法使いの諸国横断・あいのり騎行』の主人公が冒頭で仕上げていたのは、この作品であったという裏設定です。イリーの人びとに受け入れられて、続巻が出るといいのですが……。


 今回ももちろん、手書きでお話をかきました。漢字が苦手なくせに髑髏なんて主人公にするもんでないわと思っていましたが……。髑髏の髏のほうにケルト十字っぽいのが入ってるじゃん? と気づいてから、書けるようになりました(笑)。


 さて。明日、聖パトリック祭を祝しまして気合入魂なみなみに発しますのは、ぶっちぎりのケルト航海譚です。文芸・歴史ジャンルにてお昼の時間帯に更新しますので、ぜひこちらにも触れていただければ幸いです。


『鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚』


 それでは、どちら様もどうかお気をつけて。本当にありがとうございました!


(門戸)



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