11. 公安の内部情報
「ははっ。国宝の青皿が、例の界隈で競売にかけられていたら……? それこそ宝務省長官の免職記事が、けさの朝刊にでかでか載っていたろうよ」
「なっ……」
肩をすくめて皮肉っぽく笑った男性を、ついオルスカはきつく見据えてしまった。
「ジルゼリー卿はっ、……」
「ええとねえ、きみ。こちらは公安の、古物商担当部署なのだよー」
覆いかぶさるように言うオードに、オルスカはどきりとした。
かっとしてしまった自分を恥じる。
――しまった!
ジルゼリー邸の女中である自分が生きていることを、オルスカは他の人に知られてはいけないと言うのに。目立つ言動は慎まなくてはならない。
「……失礼しました」
しおらしく言って、顔を深くうつむける。しかし中年男性もオードも、オルスカのことを特に気にしていない様子だった。めがねをちょいっと指で押し上げて、おじさんは続ける。
「いくらなんでも、これだけ騒がれている品だもの。市内の闇競りだので取引されるわけはないだろうよ。仮にあの宝務省長官が売り払ったのだとしたら、……あるいは第三者に盗難されたのなら。とっくに市外に持ち出されているだろうな」
「あるいはすでに、外国へ行っているかもしれませんね?」
オードは男性と、受付長台をはさんで話し合っている。武骨な黒木の杖を左手に、右手を長台の端に置いて。
ずっと昔。父親が金物屋の勘定台で、そんな風に店主のおやじと話していた風景が頭をよぎる。妙になつかしい感覚にとらわれ、オルスカは変なのと思う。
「だから国境の検問も、ここ数日はだいぶきつくしているんだな。順番待ちの行列がいつもの二倍三倍になって、非難ごうごうだよ。特にほれ、今ちょうどトレルアーカの国賓団が来ているだろう? あの一行が出る時も、同様の強化検問をするのかどうか……。まあ現場の儂らには、まだ先が見えんがね」
「トレルアーカ……。ああ、そう言えばそうだった! 青皿の事件のせいで、なんだか霞んでしまっていたけど。要人が来ているのでしたねぇ」
その後、オードと男性は何ごとかを話していたが……。それはオルスカの理解の及ばない言葉がもりだくさんで、さっぱり飲み込めない。知らない固有名詞、あるいは専門用語みたいなものがありすぎた。
「どうもありがとう。わたしの方でも何か見つけたら、また伝えに来ましょう」
「ええ。今後もよろしく」
そう言って、オードはすらりと事務所を出た。わけのわからないまま、オルスカは後を追う。
やがて殺風景な建物の集まりから一転、ごちゃついた小売店がひしめき合う天蓋下の商店街の一画へと、オードは歩いてゆく。
しかし開店しているところは少ない。ひと通りもまばらだった。
「あのう。……オードさん」
ぎくしゃくと、オルスカは呼びかけてみた。
「何だい、蜂蜜ちゃん?」
のんきな返答に、オルスカはがくうっと前のめりになりかけた。
「なんですか、それはーッッ」




