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傭兵稼業の裏事情  作者: シンカー
第二章
28/46

第二十八夜 クラウドの二回戦

少し中途半端な切り方とは思いましたが、これ以上書くと間に合いそうになかったので、泣く泣く切らせてもらいました。



 二回戦に挑んだエルヴィネーゼは、特に苦戦することもなく順調に勝利をあげた。

「結局、『吸血』は使わず仕舞いね……」

「何だ? 使いたかったのか?」

 エルヴィネーゼの独り言を聞き取ったクラウドは、視線はそのままに訊いた。

「まっさか。使わなくて済むなら、それが一番よ」

「……そうだな」

 手を頭の後ろに組んで背もたれに体を預けながら、エルヴィネーゼは自嘲気味に嘯いた。

「あの〜、『吸血』って、何ですか?」

「んー?」

 すると、後ろから誰かが尋ねた。エルヴィネーゼは首を反らして確認する。

 そこにいたのはカイルだった。隣にはフィオナの姿もある。

 因みに、セシルとソラリスはエルヴィネーゼの戦闘が終わった後、二人で何処かに行った。仲睦まじく歩く二人は、まるで姉妹のように見えた。そのせいでフィオナが嫉妬を覚えたかは、定かではない。

 エルヴィネーゼは一瞬迷った後、素直に説明することにした。

「あたしの異能の名称のことよ。『吸血姫ビフォーアフター』っていう、二つ名の大元のね」

「エルヴィネーゼさんって、異能者だったんですか!?」

「そんな大袈裟な……。結構な確率でいるわよ、異能者なんて。そこにいるシャイナさんだって異能者なんだから」

「「えっ!?」」

 エルヴィネーゼの言葉に驚き、振り向くカイルとフィオナ。

 期せずして注目を浴びることになったシャイナは、特に言い澱むこともなく、普通に頷いた。

「ええ、そうよ。私は『遠見』の異能者よ」

「ふへ〜……、凄ぇ〜……」

「………………」

 カイルは素直に驚きを表し、フィオナは黙ったまま顔をしかめた。

「先生はッ!? 先生は異能者なんですかッ!?」

 ハッと気付いたカイルは首を正面に戻し、途中から発言をしなくなったクラウドに勢い込んで尋ねた。その顔は期待で輝いていた。

 フィオナも、未だ黙ったままクラウドを見る。

「……」

 クラウドは即答せず、暫し思考する。

「──否、違う。オレは異能の所持者・・・・・・ではない」

 だが、返ってきたのは期待を裏切る答え。カイルは幾分かガッカリしたようだ。

「そ、そうですか……。そうですよね、そうホイホイと異能者がいるわけないですよね」

「嗚呼、そうだ。じゃ、オレは行ってくる」

 それだけ言って、クラウドは席を立った。

「あっ、そろそろ出番ですか? 頑張ってください!」

 カイルは直ぐに表情を戻し、クラウドにエールを贈る。

「頑張ってください。まあ、敗けるとは思ってませんけど……」

 フィオナも、少しひねくれた言葉を放つ。

 それを聞いたクラウドは、口の端を吊り上げ、しかし何も言うことなく去っていった。






「先生の相手は……」

 カイルは首を巡らし櫓を見る。

「No.31か……」

「エルヴィネーゼさんの相手よりは弱いってことですよね?」

 フィオナは、わざわざエルヴィネーゼに確認を取るように尋ねた。

「多分ね……」

「……多分? なんでそんな曖昧な……」

 エルヴィネーゼはフィオナの疑問には答えず、フィールドを見つめる。

 ちょうど、クラウドの前の試合が、終わった。

「見て」

 エルヴィネーゼが、学生二人に促す。言われた二人は、フィールドに視線を送る。

「──!?」

「アレッ!?」

 そして、驚愕する。

「確か、今の試合って……No.41とNo.44の試合でしたよね?」

「ええ、そうね」

 答えたのはシャイナ。彼女は先程の試合を興味深げに見ていたのだ。

「でも、勝ったのは……」

「──そう。No.44よ」

 今度はエルヴィネーゼが答える。

「「──ッ!?」」

「たまにあるのよ、こういうことが」

 驚いた様子の二人に、シャイナが説明し出す。

「さっき私は、一つのランクの違いは、実力で言えば物凄い差だ、みたいな事を言ったのは覚えてる?」

「は、はい……」

「まあ、だからこそこんだけ驚いてる訳なんですけど……」

 狼狽した二人の様子に、くすりと微笑むシャイナ。

「始めに言っておくけど、あれは間違いなんかじゃないわ。あれは、事実よ」

「「……(コク)」」

 カイルもフィオナも、余計なことは言わずに、ただ頷いた。

「でもね、中には、一年というインターバルの間で、とんでもなく成長する奴がいるの。そういう奴が、観客達が望む所謂“下剋上”を果たしちゃうのよね。今のが、良い例」

 どうやらシャイナの説明は終わったようだ。彼女は、いつの間にか持っていた紙コップから飲み物を煽る。

「……そういう人達って」

「ん?」

 今まで静かに聞いていたフィオナが、口を開く。

「──そういう人達って、どうして、いや、どうやって強くなれたんですか?」

 シャイナの目を真っ直ぐ見つめる。その瞳には、形容し難い光が、敢えて例えるならば“希望”の光が瞬いていた。

「どうやって、ねぇ〜……」

 シャイナは、紙コップの縁を歯で挟んで持ち上げながら暫く考え込む。

「そりゃあ色々あるでしょ。厳しい任務を一年間絶えず繰り返してきたとか、性能の良い武器を揃えるとか……」

「で、ですよね……」

 結局シャイナの口から出てきたのは、ありふれた努力の方法であった。期待していたフィオナは、ガッカリしたような納得したような、やっぱりと言った表情で肩を竦める。

「でも──」

「──!?」

 だが、シャイナの考察はまだ終わらない。

「──一番の理由は、自分に合った最適な戦闘方法を発見出来たか否か、じゃないかな」

「自分に……合った……」

「そう。今まで著しい成長を遂げた人達は、ほぼ全員と言って良いほど、前回までとは違う戦い方をしていたわ」

 シャイナは、先程のフィオナのように、彼女の目を真っ直ぐ見つめながら断言する。

 シャイナには分かっていたのだ。フィオナは強くなりたいと切に願っていることを。だから、手助けをする。直接的にではなく、間接的に。

(こういう子を見ると、つい応援したくなっちゃうのよね……。いやだなぁ、歳かな?)

 そんなことを考えている正面では、フィオナの瞳に力強さが戻ってきていた。

(自分に合った戦い方……。そういえば、そんなこと気にしたこともなかった……。気にすれば、強く、なれる?)

 そうやってうんうん唸っていると、出掛けていたセシルとソラリスが帰ってきた。

「ただいまー。お姉ちゃん?」

 ソラリスは直ぐに、姉の様子がおかしいことに気付き声をかける。

「えっ!? ああ、おかえりソラリス」

「? うん、ただいま」

 慌てたようなフィオナに首を傾げるが特に何も問いだたさなかった。

「セシルさんもおかえりなさい。すみません、妹の面倒を見てもらっちゃいまして……」

 今度はセシルに労いの言葉をかける。

「……ううん、心配しないで。楽しかった」

 本当に楽しかったようで、セシルは無表情の中にも若干興奮が見え隠れしている。

「ところで、クラウドは?」

 キョロキョロと辺りを見回しながらクラウドを探すセシル。

「先生なら、もう下に行ってますよ。ちょうど次が試合です」

 カイルがフィールドを指差しながら答える。

 セシルとソラリス、その他会話に夢中になっていた面子は指の差す方を見る。

「もう開始みたいね」

「ですね」

「クラウド先生……」

「頑張れって言えなかった……」

「………………」

 そこには、サイドで出番を待っているクラウドの姿があった。

《さァて、次の試合ダァアアアア! 東側! クードルト大陸からの出場! No.31 スウェン・ナイタールゥウウウウ!!》

 呼ばれた男性──スウェンは、静かに歩みを進める。腰には大きく反った幅広な太刀が履かれており、それ以外は特筆すべきところはない。

《対するは西側! ローレンシア大陸からの出場! No.77『暗殺者アサシン』クラウド・エイトォオオオオ!!》

 クラウドもスウェンと同じく黙ったままフィールドのラインまで歩を進める。



「姫様、出てきましたよ」

「一々言われなくても分かっています! 少し静かにしててくださいっ!」

「承知致しました。そうですよね、彼の試合に集中出来ませんからね」

「貴女、何も承知してませんよね!?」

 相も変わらず、貴賓席ではユリア王女と護衛の女性のやりとりが勃発する。どうやら護衛の女性は、ユリア王女いじりが大層気に入った様子で、事あるごとにクラウドを引き合いに出してからかっていた。

「全くもう……」

「ふふ、すみません」

 ユリア王女の方も激しく嫌がっているようではなく、一種のコミュニケーションと捉えているようだ。

「ところで、あのNo.31の方は強いの?」

 先程までからかわれていた内容を直ぐ様質問できるのは、流石と言うべきか図太い。

「そうですね……。彼は、所謂“自然師”です。それなりの実力ではないかと」

「“自然師”か……、厄介ね」

「ええ。ですが、ランクが31程度ならばそれほど脅威にはならないと思いますよ。……あくまで『暗殺者アサシン』に対しては、ですけど」

 眼下では、握手を終えたクラウドとスウェンが互いに離れる。ここから見た限りではクラウドに緊張はない。

「まあ、多分ですけど、『暗殺者アサシン』が勝つと思いますよ」

「……そうだと良いけど」

 ユリア王女が言い終わると同時に、一度目のブザーが鳴った。




「アイツか……」

 No.31を知っていたのは、エルヴィネーゼも同じであった。

「有名なんですか?」

 近くに座っていたソラリスがエルヴィネーゼの方を向く。

「まあね。ある意味、異能者より希少よ……」

「異能者より!?」

 ソラリスが驚いて大きな声を出す。それに気付いたカイルにフィオナ、更には近くにいたソラリス以外の『二―二』の生徒達も視線をソラリスに集中させる。

 あっと、口を両手で塞いだソラリスがそろそろと辺りを見回し、視線が自分に向いていると分かると顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「ちょうどいいや!」

 そして、エルヴィネーゼはそんなソラリスを助けてあげるために、わざと大きな声で宣言する。思惑通り、視線はほぼ全部がエルヴィネーゼに移った。

「『二―二』の皆は、『無系統』については習ったかな?」

 すると、ううーんと否定の言葉が響いた。それも一つではなく、いくつも。

「じゃあさ、これからエルヴィネーゼ先生が特別課外授業をやろうと思うんだけど、皆聞きたい?」

 今度は聞きたーい! と元気の良い肯定があがる。

「僕達も聴いて良いですか?」

 そう訊いたのはカイルであった。フィオナも聞きたそうな表情で隣にいる。

「モッチロン! よし、じゃあ皆、授業を始めます!」

 ビビーッ

 二回目のブザーが鳴った。





(はてさて、どう攻めるか……)

 手頃な岩に身を潜めたクラウドは、息を殺しながら思考を転回する。どうやら、クラウドはスウェンの正体を知らないようだ。

 暫く思考に没頭していたクラウドだが、ふと違和感に気が付いた。

(気温が……上がっている?)

 そう。僅かにだが、周囲の温度が上がっていた。そして、それは停滞することなくグングン上昇する。

(まだ上がる……ということは熱術か? 否、それにしては風の流れが……ッ! まさかッ!?)

 ガバッと体を起こして、辺りを窺えば直ぐにそれ・・は発見出来た。

「やはりか……」

 苦虫を噛み潰したような表情で呟くクラウド。

 そこには、自分の回りが氷結しているスウェンがいた。










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