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傭兵稼業の裏事情  作者: シンカー
第一章
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第十夜 暗殺術

エ「皆さん、今回のあとがきは作者の諸事情によりお休みです」

ク「諸事情と言うよりただの風邪だからな……」

エ「よ、余計な事は言わなくてもいいのッ! えっと、そういう訳でありましてどうもすいません」

ク「まァ、オレ達は面倒な演技をしなくても良いから楽だかな……」

エ「だから余計な事を言うなッ!」

ク「……ハァ」

エ「全くぅ~。それでですね、もしかしたら来週もあとがきがお休みになるかもしれません。取り敢えず今謝っときます。ごめんなさい」

ク「まァ、謝罪も済んだことだし、それでは本編に向かってくれ」

エ「アンタ謝ってないじゃない!」

ク「それでは」

エ「無視すんな~ッ!」



 剣が奔る。斧が唸る。槍が穿つ。槌が潰す。鉄が防ぐ。

 これらはたった一人の人間が放っているものだ。多種多様な攻撃方法で相手を翻弄する。

 しかし、これらは唯の一つも決まらない。全てが空を切る。

「チッ!」

 クラウドはその尽くを捌ききる。避け、防ぎ、弾く。流麗な動きで確実に打ち落としていく。

「ハァッ!」

 暗殺者は右手拳を鉄籠手に変換トランスして、殴りかかる。クラウドはそれを一歩下がることで回避。左手を刃に変換トランスして袈裟斬りを放つ。が、今度は短刀で防がれる。次に右膝に突起を造り、膝蹴りの要領で突き刺そうとする。それは左手で掴まれる。だが、暗殺者は掴まれた瞬間にほくそ笑み、両手が塞がって無防備なクラウドに鉄籠手で右フックを打つ。しかし、それを察知したクラウドは突起を掴んでいる左手を中心に、体を斜め前方に回転させる。当然、片足で不安定な状態でクラウドの全体重を支えきれるわけもなく、バランスを崩す。短刀と刃の拮抗も解け、結果的に暗殺者は両腕をクロスさせるように空振った。そんな暗殺者にクラウドの踵が襲う。回転して避けたと同時に狙っていたのだ。打たれるであろう箇所を鉄化して防ぐ。だが、打たれた衝撃は体の中を走る。

「ぐっ……」

 膝の突起を解除し、クラウドから離れる暗殺者。その顔は、圧倒的な手数で攻めているにも関わらず、攻めきれない現状に歪んでいた。

 一方のクラウドは涼しい顔。その立ち姿には一切の揺らぎがなく、攻め込まれているにも関わらず焦りは全くと言って良い程ない。

 どちらが精神的優位に立っているかは言うまでもないだろう。

「はぁはぁ、クソッ」

 その可愛い顔に似合わない下品な言葉を吐く。

「フム、そろそろ此方から攻めるぞ?」

 クラウドの発言を聞き、身構える暗殺者。

 両者の距離は五メートルはあるだろう。それをクラウドは――

 トン……

「――!?」

 ――たったの一歩で詰めた。

 軽やかに、一直線に。無駄を一切省き、故に最速の一歩。

 辛うじて反応出来た右手でガードをするが、短刀で弾かれる。そして無防備な鳩尾目掛けて左手が振るわれる。

 ガンッ!

 暗殺者は鳩尾を鉄化することで、それをなんとか防ぐ。

「あぐっ!?」

 しかし、クラウドの一撃は鉄化した肌の上からでも充分過ぎるダメージを与えた。

 吹っ飛ぶ暗殺者。背中から柱に激突して停止した。だが、ダメージに悶絶することなく直ぐ様横っ飛びをする。

 ヒュパッ

 柱が切断される。それは銀糸によるものだった。『刃術』で強化された銀糸の切れ味は凄まじい。

「はぁはぁはぁ……」

 大きく肩で息をしながら、構え直す暗殺者。その手は僅かに震えている。

「諦めろ、貴様ではオレには勝てん」

 クラウドはそう言って、首をゴキッと鳴らす。まるで手加減していると言うかの如く。

「イヤだ……!」

 暗殺者はそれだけ呟き、構える。

 そんな様子にクラウドは溜め息を一つ吐き、短刀を逆手に構えた。






 エルヴィネーゼと女性の戦いは激化していた。

 細い柱という武器を手に入れたエルヴィネーゼは、異能『吸血』の力を存分に発揮出来るようになり、まともに打ち合えるようになった。

 金髪の女性も、大剣を、文字通り振り回して応戦する。彼女には武術の心得は全くないが、『人工筋肉』による怪力とヘッドセットで理性と感情が抑制されたことによる無茶な動きでそれをカバーしていた。

 力が拮抗しているため戦いも拮抗しているが、圧しているのはエルヴィネーゼの方だった。

「ハァッ!」

 気合いの声と共に体重を乗せた突きを放つ。女性は大剣の腹で受けるが、エルヴィネーゼの突きはその防御ごと女性を突き飛ばした。

 突き飛ばされた女性は体を後ろに回転させ両足で着地する。しかし、直ぐ様後を追ってきていたエルヴィネーゼの棒術によるラッシュを喰らう。

 エルヴィネーゼは確実にダメージを与えていっている。大剣の攻撃も受け止めると言うよりも受け流しているため、それほど体の負担にはなっていない。

 それでも、戦いは拮抗している・・・・・・。圧しきれていないのだ。当て身程度の軽い攻撃なら何度か当てたが、突きや薙ぎ払い等の相手の体力をごっそり削るものは尽く防がれている。

 今のラッシュも、ラッシュと言える程の手数を放ちながら、当てられた数は片手で足りてしまう。それも全て大技前の当て身や、大技後の惰性による流れで当たった程度のもので、ジャブにも満たない小技である。


 エルヴィネーゼは攻め急いでいた。女性の強さを前にした無意識のものもあるだろうが、大半を占めるのが異能『吸血』の効果が切れる前に終わらせたいという願望だ。だが、焦れば焦るほど精細を欠き、ダメージを与えられなくなり、その状況に更に焦るという悪循環が出来つつあった。

 互いに武器を打ち合い、その勢いで距離を取る。そして小休憩。乱れた息遣いを整える。これはエルヴィネーゼだけではなく、女性の方もだった。

 その様子にジルは心中で唸る。

(ふ〜む、やはり『人工筋肉』の弱点は体力を大幅に削り取ってしまうという所か……。あれだけの性能を使い続けるには、それ相応のエネルギーが必要だからのォ)

 その視線の先では、呼吸を整え終えた二人がまたもや激突する所であった。

 エルヴィネーゼは棒術、いや槍術でも最速であろう突きを放つが、女性はそれが来るのが分かっていたかのように大剣を下から上に振り上げて、突きの軌道をずらす。そして大剣を止めずに流れるような所作で横合いに引き、体制を崩され出来た無防備な胴体目掛けて横一線に振るうが、エルヴィネーゼは柱の後端を床に突き立てて、腕力と腹筋、更に背筋と体幹を使ってその柱に逆立ちをした。まるで空から地上へ突きを放つような格好だ。大剣はエルヴィネーゼには当たらず、柱を打った。その頑丈さから折られはしなかったが、立てた鉛筆の下側辺りを思い切り叩いた時のように勢い良く倒れかかる。しかし、エルヴィネーゼはその運動エネルギーを無駄にせず、軽やかに着地した後、膝を柔らかく曲げて回転ベクトルの向きを極力逃がさないように変化させ、薙ぎ払いを放つ。

 ガギンッ

 だがこれも大剣で塞がれる。しかし、今の一連の流れにエルヴィネーゼが微笑んだ。

(やっぱり、少しずつだけど、スピードが落ちてきている。向こうも無限の体力があるわけではない……こっちと同じように何らかのリスクがあるんだ。これならまだ希望はある。どっちが先に潰れるか、持久戦ね!)

 しかし、心中の考察とは裏腹にエルヴィネーゼは攻め急ぐ。まるで何かに怯えるように……。






(やはり『吸血』が切れた後のことを怖れているのか……。意識はしていなくとも、体が覚えてる・・・・というわけか……)

 横目でエルヴィネーゼの様子を確認しながら推察するクラウド。戦いの最中ではあるが、余裕である。

 暗殺者の方は未だに当たらぬ攻撃を続けている。その息は絶え絶えで、もう最初の頃の勢いはなりを潜めている。

 そんな暗殺者に、クラウドは攻撃が一瞬途切れた隙に、まるで突き刺すかのような蹴りをお見舞いする。

「がほっ……!」

 咄嗟に鉄化して防ぐが、蹴りの威力は全く死なず吹っ飛ばされる。柱に激突して、遂に動けなくなった。

「もう一度言う。諦めろ」

 暗殺者に少しずつ近づきながらギブアップを勧めるクラウド。

「……イヤ……だ」

 暗殺者は目だけクラウドに向け、睨みながら拒否する。

 そんな暗殺者にクラウドは溜め息を一つ、面倒だ……と呟いた後、話し出した。

「貴様ではオレには勝てん。『暗殺部隊』という所に籍を置いているようだが、暗殺者という生業をしている限り、どれだけ経とうがその攻撃は空を切り続け、オレに届くことはない」

「な……んで、そんな事……!?」

「正面から戦う技術が絶対的に足りないからだ」

「!?」

「確かに人体の急所は熟知しているかもしれん……。だが、刃が届かなければ宝の持ち腐れだ」

「くっ……だけど、それが暗殺者だろっ!?」

 クラウドの主張に大声で反論する暗殺者。

「暗殺とは標的の視界外、いや認識外から音もなく忍び寄り一撃で殺す技術だ! 騎士みたいに正面から戦うなんてのは論外だ!」

「…………」

 暗殺者の反論を黙って聞くクラウド。

「アンタだって分かるだろ!? 『暗殺者アサシン』なんて二つ名を持っているんだから! アンタだって元暗殺者なんだろッ!?」

 暗殺者がクラウドを呼ぶ三人称が“お兄さん”から“アンタ”に変わっていた。それだけ精神的に追い詰められているのだろう。

 クラウドは暗殺者の問い掛けに静かに答え始めた。

「フム、元暗殺者は否定しない。しかし、暗殺が標的の認識外から殺す技術だと?」

 それだけ言ってクラウドは鼻を鳴らし、目を細めた。

「それは否だ、否。暗殺はそんな消極的な殺害方法ではない……。貴様が論じた暗殺論はな、技術で言えば下の下だ」

「な……に……?」

「本来の暗殺、否、至高の暗殺とは、認識されぬ一撃を放つ技術だ」

「……? 何が違うんだ?」

 首を傾げる暗殺者。自分の持論との違いが分からなかったためだ。

 クラウドは右手の短刀を片手で玩びながら続ける。

「全く違う。貴様の暗殺論では、暗殺者本人も認識外に存在しなければならぬ。だが、オレの暗殺術は、暗殺者自体は標的の認識内にいても構わんのだ」

「ッ!?」

「ただ一撃。たった一撃。その一撃さえ認識させなければ良い。こんな風にな」

 そう言ったクラウドは右手を挙げた。そこには――短刀がなかった。さっきまで確かに持っていた短刀が消失したのだ。

 暗殺者は目を見開き、一瞬、体に違和感を覚え、自分の体を見下ろした。

「――ッ!?」



 短刀が刺さっていた。



「な……に……ッ!?」

 短刀が刺さっているのを認識した瞬間、痛みが暗殺者を襲った。

 今までは鉄化したことで何とか防いでいた刀傷を、こんなにも簡単に喰らっていた。

 今回短刀が刺さっていた箇所は腹部であるため即死には至らないが、クラウドがその気になれば、これが心臓に放たれていたのかもしれない。

 その事実に暗殺者は恐怖を覚えた。無意識に体が震える。

「これが、暗殺だ……」

 クラウドは暗殺者に近付きながら言う。その足取りは軽く、たった今至高の技術を披露したようには全く見えない。

「……なんで殺さない?」

 暗殺者は腹部の痛みに耐えながら質問をした。

「その気になれば殺せただろ? なのになんで……?」

 クラウドは暗殺者の目の前にまでたどり着き、膝を曲げて目線を合わせた。

「確かに、今回の依頼では貴様の生死は問われていない。だがな、そういうヤツを生かしたまま連れ帰る方が評価は高いんだよ……」

 それを聞いた暗殺者は唇を噛み、悔しさを表す。

「これじゃ……アイツを救えない……」

 暗殺者の視線は金髪の女性に向けられていた。

「アンタを殺さなきゃアイツを救えない! アイツを助けられない! アンタを……お兄さんを……」

 その瞳からは涙が流れている。

「……ふざけるなッ!!」

 突如暗殺者の襟元を掴みあげ、クラウドが吼えた。

「!?」

「救えないだと? 助けられないだと? 何を甘ったれたことを言っている!?」

 戦いの最中でさえ冷静で物静かだったクラウドは消えていた。何が琴線に触れたのかは分からないが、彼は――キレていた。

「まだ救えるじゃないか! 助けたいヤツは、まだ目の前にいるじゃないか! あの女はまだ生きている、なら終わりじゃないだろ!!」

「で、でも……アイツを救うには……」

 クラウドの迫力に圧されていたが、暗殺者はまだ無謀な反論を試みようとするが、クラウドはそれすら許さない。

「でもじゃねぇ! 唯一の肉親なんだろ!? かけがえのない存在なんだろ!? 助けたいんだろ!? なのに貴様は何をやっているッ!?」

「――!?」

「オレと殺し合いをすればあの女を救えるのか? 違うだろ! 例えオレとエルを殺せたとしても待っているのは何も変わらない状況だけだ! 貴様は『暗殺部隊』に戻り、あの女はまた試験管行きだッ!」

「それは……ッ」

 暗殺者は焦点が合わない視線でクラウドを見る。その顔は絶望に歪んでいる。だが、クラウドはどんどん畳み掛ける。

「否、悪化するやもしれん。エルを殺すことが出来たことで、実戦投入さえあり得るぞ!」

 それだけ言って、表情を冷静の時に戻した。

「もう一度だけ言う。あの女はまだ救える。なのに、貴様は諦めるのか……?」

「…………!!」

 暗殺者はハッとした顔になり、金髪の女性に目を向けた。

「貴様のやることはオレと戦うことではない……」

「……ごめん……なさい」

 暗殺者はまた泣いていた。先程は絶望の涙だったが、今回のは後悔の涙だ。

「謝るならあの女にだ。オレではない」

「……うん」

 暗殺者はしっかりと頷いた。その目には希望の光が宿っていた。

「では貴様の治療後に行くとするか。エルの方も、そろそろ限界だろう……」

「でも、どうやって?」

 その質問を聞いたクラウドは唇の端を軽く歪めた。






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