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10 野生拳撃と、勝利の裸祭り

 オカリナを吹きながらちょこちょこと走り、大量のふぐりスライムを引き連れてきたメンティム嬢を見て、俺は驚愕した。たしかに、「この場にスライムがたくさんいてくれればなあ」と思いはしたが……あまりにも唐突だ。


(俺がふぐりスライムの死骸を潰したのを見て、察してくれたのか? あのデカブツ攻略にはたくさんのスライムが必要だと……)

 いや、それにしては行動が迅速すぎる。まさか最初に逃げたときから、スライムを連れて戻ってくるつもりだったのか?

 だとするとメンティム嬢は、俺とリリアよりも早くゴールデンふぐりスライムの攻略法を思いついていたということになる。

(そもそも、あのオカリナはなんだ……? 音でおちょくってスライムを挑発しただけでは、あんなに大量に引き連れてこられないと思うが……)

 俺の頭の中を、100の疑問が一瞬にして駆け巡った。だが、今は考えている暇がない。とにかく、一刻も早くゴールデンふぐりスライムに対処せねばならないのだから。


「お嬢! そいつらを罠の方に誘導してくれ!」

 メンティム嬢はオカリナを吹きながら小さくうなずき、数本並んでいる木に向かって突進した。しかし、そのまま進んでも木とスライムに挟まれて逃げられなくなり、彼女自身が罠の餌食となってしまうだろう。

 八方ふさがりの状況に思えた。そこへ、上空から飛び来る影があった。

 リリアである。

 サキュバスモードになった彼女は、急降下してきたかと思うと、罠の目前まで走り込んできていたメンティム嬢を素早く拾い上げ……再び舞い上がったのだ。目標を失ったスライムたちは、止まることができずに罠に向かって突っ込んだ!

「オウフデュフフフ!!??!?」


 ブチブチブチグチャァッ!!!!


 立て続けに罠が発動し、並んだ木々の上に設置された鉄球が落下。ふぐりは次々にぐちゃっと潰れた。2つの玉がぐちゃっと潰れ、また別の玉がぐちゃっと潰れる。粘液が飛び散り、命の灯が燃え尽きる。

 なんたる悪夢的光景か!


「デュフフフフフフ!?!?!?!?」

 ゴールデンふぐりスライムは仲間たちが圧殺されるさまを目の当たりにし、悲鳴を上げた。すると、どうだろう。ぶよぶよした黄金色の肉体が見る見るうちに縮んでいくではないか。しかも、見るからに弾力性がなくなり、固くなっている様子であった。

 やはり、思った通りだ。

 ゴールデンふぐりスライムといえども、仲間のふぐりが潰れるさまを見れば固く縮こまってしまう。今ならば衝撃を受け流せない!


「フォカヌポウ……!!!!」

 ゴールデンふぐりスライムは、苦しげにもだえながら触腕を伸ばし、振り上げた。狙いはおそらく、空中にいるリリアとメンティム嬢。

「リリア、私たち狙われているぞ」

「分かっています……! しかし、このサイズの小包を運ぶことは想定しておりませんでして……!」

 リリアは必死に翼を動かすが、メンティム嬢を抱えているから動きが鈍い。触腕が空中の2人に襲いかからんとする。


 守護(まも)らねばならない。


 俺は即座に、腰を落として下腹に力を込めた。

 そして全裸力を拳に集中させ……正拳突きを繰り出した!

 青白い裸力の塊が、まるで投石器で放たれた致命の弾丸のように飛行する。空気を切り裂き、一直線に敵に向かう!

「デュ、デュフフ……?」

 ゴールデンふぐりスライムは、自らに迫る青白い球体に気が付いた。しかし、すでに遅い。裸力の塊はスライムの体に命中――その2つの球体を横から、連続で貫いたのだ!


 ドシュッ ドシュッ


「コポォォォォォォォ!?!?!?!?!?」

 巨大スライムはひときわ大きな悲鳴を上げる。空気が震え、耳が痛くなるほどの叫びだった。縮まり、固くなっていた肉体は衝撃を分散させることができず、スライムはなすすべもなく肉体を貫かれた。


 変態超技(ドスケベスキル)野生拳撃(フルチンパンチ)


 心の中に、自然とその名が浮かんでくる。同時に、俺の全身を覆うオーラは消え、股間を隠す謎の光がわずかに残るのみとなった。

 今のは文字通り最後の切り札――体の底から湧き上がってきていた裸力は、ほぼ尽きた。だが、おかげで決着はついた。

 俺は地面に膝をつきながら、ゴールデンふぐりスライムを指さした。

「覚えとけ。なんでもデカけりゃいいってもんじゃねえ」

 その言葉が終わると同時に。


 ズドンッ!!!!


 ゴールデンふぐりスライムは爆散した。大量の粘液とすさまじい突風を全方位にまき散らしながら、家屋よりも大きなそのスライムは破裂したのだ。黄金色の粘液はやがて空中で蒸発し、黄金色の煙に変わる。そして煙は天へと昇り、空一面を黄金色に染めたのだ。

 俺は体から力が抜けていくのを感じて……全裸のまま、その場に大の字になった。そして笑った。




 こうして、ゴールデンふぐりスライムとの戦いは終わった。ヨウキャ町は守れたものの、パトナムの自宅、そして町の西部に設置されていた「タマヒュン」の罠のいくつかは破壊された。あの化け物がもたらした被害としてはマシな方と言えようが……それでも、決して小さくない爪痕が残された。

 建前上の戦闘理由である「町の中心部にある郵便ポストを守る」という仕事はまっとうできたので、第二種特別手当とやらは支給されるだろうが……俺の心は晴れなかった。


 俺はとりあえず服を着て、兵士連中と合流した。あたりではスライムの這いずったことで草や土が削れ、木々がへし折れている。怪物の痕跡を感じさせるこの街はずれの一角に、兵士たちは集まっていた。

 ふぐりスライムの注意が分散し、その隙をつくことができたのは彼らが駆け付けてくれたからだ。だから早速、礼を言おうと思ったわけだが……どういうわけか、兵士たちはみな股間を押さえてうずくまっている。俺は訝しんだ。

「どうしたんだ?」

「その……あの玉が潰れるのを見ていたら、なぜかココが縮むかのような感覚が……」

 十数人の兵士たちは、みな青い顔をしている。よく分からないが、ふぐりが潰れるのを目の当たりにすると、スライムだけではなく人間にも影響が及ぶ場合があるようだ。今度戦うときには注意せねばなるまい。


(けど、怪我したとかではないみたいだな……)

 俺は安心して、今度はあたりを見回した。メンティム嬢が墓地の石壁に寄りかかってうとうとしており、その隣にリリアが寄り添っている。リリアは現在、人間の姿に戻っているから、性欲は安定しているようだ(戦闘の反動が時間差で襲ってくる場合もあるようだから、油断はできないが)。


 そして、潰れた家の近くにはパトナムがいた。彼は家の残骸の前に座り込み、戦闘後に駆け付けた男たちに取り囲まれているのだ。無論、みなヨウキャ町の一般住民たちである。男たちのうちの何人かは、瓦礫をどかし、何か壊れずに残っているものがないか探してくれている。


「おっさん、大丈夫か!?」

「しっかりしろ!」

 住民たちが心配そうに、パトナムの顔を覗き込む。彼らの中には、先ほどの全裸行列で見かけた男たちの姿もあった。もちろん、今は服を着ている。

「おっさん、死ぬんじゃねえぞ!」

「わ、私は大丈夫です……」

 かすれた声でそう答えると、パトナムはぎこちなく笑った。実際に、彼の怪我はあまり深くないのだ。ただ顔が泥と鼻血と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていたから、今にも死にそうに見えていただけだ。今は顔をぬぐってもらい、目も見えるようになっている。ただ、衣服はパンツ以外がすべて破けてしまっている。


 パトナムの声を聞くと、彼を取り囲む住民たちも安堵した様子であった。

「よかった。このまま死んじまったらどうしようかと」

「それにしても……おっさんすごい度胸だぜ!」

「でっかいスライムを相手に戦ってくれたなんて!」

「あんた文章はヤバいけど、カッコいいんだな! 文章はヤバいけど!」

「家、直すのみんなで手伝うからな!」

 ヨウキャ町の住民たちは口々に言った。その親しげな口調を耳にし、パトナムは驚いてしまったようだ。目を白黒させ、彼らの顔を見る。


「みなさん……。ありがとうございます、普段、お祭りのお手伝いもできていないような私なんかのために……」

「え、そんなこと誰も気にしてないぜ」

「そうだよ。ただなんというか……おっさん、辛いことがあったって聞いたからさ。そっとしといた方がいいのかなって」

「さっきもさ、おっさん宛てに祭りの知らせを書いたのはいいけど、渡そうかどうか悩んでたんだ。結局、こんなことになっちまったけどな……」

 住民のうちの一人が残念そうに言って、懐から封筒を取り出した。「お祭りのお知らせ」と力強い字で書かれたその封筒を見て、パトナムは驚いた。そして言った。


「ありがとうございます、私のために……。せっかくだから読ませてください」

「いいのか、こんなときの祭りの話なんて聞きたくないんじゃないか」

「いいえ、みなさんの気持ちが嬉しいんです」

 パトナムは体を起こすと、封筒を受け取った。中身をあらためる。彼はかすかに震えた声で、その手紙を読み上げた。


 パトちゃん!(^O^)

 今日も罠の手入れありがとネ(〃ノдノ)

 でも、あらためてお礼を言うの、ちょっち恥ずかしいカナ(^^ゞテレテレ

 これからもおじさんとパトちゃんの愛の結晶、守っていこう(*ゝ∀・*)

 それはそうと、今週末はパンイチ祭り開催、場所は中央広場だよ!

 かわいいおパンツ♡を穿いて参加してネ(^_-)-☆


「これは……!」

「俺もパトナムのおっさんっぽい、ヤバい文章を書けるようになりたくてさ、いろいろ勉強してたんだ。……でもすまねぇ、場違いなテンションになっちまった」

「いえ、ありがとうございます。とても嬉しいですよ」

 パトナムは涙ぐんだ。彼はよろめきながら立ち上がり、住民の一人一人と握手をはじめる。なにやら感動的な場面に見えたので、俺は突っ込みを入れるタイミングを逸してしまった。

 野郎がおっさんに対して送る手紙なので、まあギリギリ許容できるかもしれないが……住民みんながこんな手紙を量産しはじめたら町は破滅である。


「おい、おっさん!」

 そのとき、潰れた家の瓦礫をどかしていた男の一人が、不意に叫んだ。俺もパトナムも、彼を囲んでいた男たちも、一斉に声の主の方に目を向ける。

 男は苦労して太い柱を脇にのけると、パトナムに言った。

「かまどが無事みたいだぞ!」

「えっ……!」

 それを聞いて、パトナムはふらつきながら、瓦礫を踏み越えてそちらに歩み寄った。俺も男たちの間から、様子をうかがってみる。

「おお……本当に……!」

 見るとたしかに、壊れた壁や天井、家具の間から、レンガ造りの立派なかまどがのぞいていた。これだけの大破壊のあとであるにもかかわらず……かまどは奇跡的に破損を免れていた。


「……妻の思い出が詰まったかまどなんです」

 パトナムはそのかまどの前に膝をつき、慈しむようになでた。震える手で砂埃を払う。

「妻はよく、このかまどでパンやパイを焼いて、私と娘に食べさせくれました。そうですか、このかまどが残ってくれたんですね」

 パトナムは涙を流しながら、額をそのかまどに押しつけた。住民の男たちは何も言わず、その様子を見守った。俺も彼らの後ろで、黙っている。


「ありがとうございます、ジルファントさん。そしてみなさん。このかまどがあるなら、私はまた明日から頑張れます」

 彼は振り返ってそう言った。パンツ一丁な上に体に生傷も多かったが、それでもその表情は生気に満ち溢れていた。

 パトナムの言葉を聞いて。

 周りにいた男たちも泣き出した。

 そして、口々に叫んだのだ。


「こっちこそありがとう、おっさん!」

「街が守られたのはおっさんの罠のおかげだ!」

「おっさんを胴上げしよう!」

「お前ら! 脱げ脱げ!」

 そう言いながら、住民たちは一斉に服を脱ぎ、パンツ一丁になりはじめた。そして服を投げ捨てると、パトナムを担ぎ上げ、みんなで宙に放り上げたのだ。


「わっしょい! わっしょい!」

「わっしょい! わっしょい!」

 パンツ一丁の者たちに胴上げされて、おっさんがパンツ一丁で宙を舞う。

 これがヨウキャ町民――王国で一番ノリがいいと言われる人々。

 俺はしばし、その即興の裸祭りが終わるのを大人しく待っていた。

読んでくださり、本当にありがとうございます。

何度でもお礼を言いたいです。

次回もよろしくお願いします!



稲下竹刀のTwitter

https://twitter.com/kkk111porepore

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