10 彼女と美鈴のおしゃべり
バイトが終わり、俺と美鈴と姉ちゃんは御撫町のバス停まで戻って来た。
自転車置き場に自転車を取りに行く俺。
そういえば以前ここでメイドさんが迷子になっていた事があったが、今日は居ないようだ。
そりゃそうか。
俺は自転車を引っ張りだし、バス停で待っていた美鈴と姉ちゃんに声をかける。
「俺は歩いて帰るから、美鈴と姉ちゃんはこれに乗って先に帰りなよ」
しかし姉ちゃんは右手を俺の前にかざし、それを制するようにこう言った。
「自転車にはあんたが乗って先に行きなさい。私と美鈴ちゃんは歩いて帰るから」
「ええ?でもここから沢凪荘まで、歩いたら二十分はかかるぞ?」
俺はそう言ったが、姉ちゃんは事もなげにこう続ける。
「いいの。私は美鈴ちゃんとお喋りしながら帰りたいから。ね、いいでしょ美鈴ちゃん?」
「え?ええ、はい」
急に話を振られた美鈴は、戸惑いながらも頷いた。
こうなると何を言っても絶対に考えを曲げない事はよく分かっているので、俺はそれ以上何も言わず、
「わかったよ。でも夜道は気をつけろよ、何かあったらすぐ連絡しろよな」
と言い、自転車で先に沢凪荘へ向かった。
チラッと振り返ると、姉ちゃんが楽しそうに美鈴に話しかけていた。
美鈴は緊張しているのか、うつむいたままだった。
一体姉ちゃんは美鈴に何の話があるんだろう?
まあ女性というのはおしゃべりが大好きらしいから、たわいのない事をいろいろとおしゃべりしてるのだろう。
俺はそれ以上深く考えず、沢凪荘へ自転車を走らせた。




