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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た4  作者: 椎家 友妻
第二話 姉、御撫の学び舎に立つ
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4 今日は彼女と通学デート

 (さわ)(なぎ)(そう)には、通学用の自転車が二台しかない。

いつもは美鈴(みすず)がそのうちの一台に乗って先に行き、

俺と矢代(やよ)先輩がもう一台に二人乗りして学校へ行く。

しかし今日から姉ちゃんも学校へ行く事になったので、美鈴と矢代先輩が二人乗りで一台使い、

もう一台に、俺と姉ちゃんが二人乗りをして行く事になった。

美鈴は矢代先輩と一緒に、いつも通り少し早目に沢凪荘を出た。

そして俺と姉ちゃんはそれより少し遅れ、沢凪荘を出た。

 「いや~、学校通学なんて何年ぶりかしら。

今の大学はキャンパスの中に学生寮があるから、通学とは無縁なのよねぇ」

 姉ちゃんは後ろ向きに自転車の荷台に座り、俺に背中をもたれさせながら言った。

 「危ねぇからあんまり体ゆらすなよ?」

 俺がぶっきらぼうに言うと、姉ちゃんはご機嫌な様子でこう続けた。

 「で、あんたはもう彼女の一人でもできたの?青い春はやって来たの?」

 「やって来てねぇよ。昼間は学校で夜はアルバイト。そんな暇ねぇっての」

 「でも沢凪荘には可愛い女の子が二人も居るじゃないの?管理人さんだって美人だし」

 「いや、あの管理人さんは、中身がまるっきりエロオヤジだから」

 「じゃあ矢代ちゃんと美鈴ちゃんは?

二人とも可愛いのにスレてなさそうだし、とってもいい子じゃない?」

 「いやいや、矢代先輩は無邪気(むじゃき)だけど、無類(むるい)のイタズラ好きだし、

美鈴はその、黙っていればそれなりに可愛いけど、いつも何かとプリプリ怒ってるし、

かと思ったら急によそよそしくなるし、よくわからねぇんだよ」

 「ふぅん、なるほどねぇ」

 姉ちゃんは俺の言葉からそれ以外の何かを(さっ)した様子だったが、それ以上何も言わなかった。

しばらく沈黙が続き、それに耐えられなくなった俺は姉ちゃんに(たず)ねる。

 「そっちの方こそどうなんだよ?あっちの大学で、外国人の彼氏でもできたか?」

 すると姉ちゃんは深いため息をついてこう返す。

 「だめねぇ。私に言い寄って来るのはどれも上辺(うわべ)だけのペラッペラな男ばっかり。

私の胸にビビッとくる男は一人も居ないわ」

 「姉ちゃんにビビッとこさせるのは大変そうだなぁ」

 「あら、そんな事ないわよ?

私はただ、ちゃんと私の事を好きになってくれるならそれでいいの。

それで充分。あとは何もいりません」

 「本当かなぁ?かぐや姫くらい口説き落とすのが大変そうだぞ?」

「そんな事ないわよ。私はきれいな宝石やネックレスやブランド物の(かばん)とか、

豪華な食事やうっとりするような口説き文句とか、そういうものは必要ないもの」

 「でもそれって、ある意味かぐや姫より難しいと思うけど?」

 「そんな事ありません。私は心身ともに清らかで美しいもの」

 「そういう自信満々なところ、昔から変わんねぇなぁ」

 「安心した?あんたが昔から大好きだった美咲(みさき)お姉ちゃんが、今も健在で」

 「はいはい、そうだな」

 姉ちゃんの言葉を軽くあしらう俺。

すると姉ちゃんは少し間を置き、ボソッとつぶやくように言った。

 「ま、ここに来たのは、もうひとつ理由があるんだけどね」

 「え?」

 よく聞き取れなかった俺は、しかしそれを詳しく聞き返すタイミングを失ってしまった。

もしかしてここに姉ちゃんがやって来た本当の理由って、そこにあるんじゃないのか?

 はて?



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